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清々しき始まりの日

「で、なんで彼女達の参謀になってたの?」


シルヴィアが出ていった後、二人は部屋に取り残された。


「流れです。サガミという方と咲さんに何が有ったのか知りたい、と彼女らに頼まれまして。」


あの短時間でリンネは同室者から信用を勝ち得たようだ。


「咲さんの人となりやその弱点を伝えたら...という事です。」


「今来てる服は参謀の報酬ってことかしら。」


「貸してくれたんですよ。誰かに奪われたので。」


「なるほどね。」


会話が終わったと思ったのか、リンネは扉の方に向かった。

当然の様に共同スペースに向かうのだろう。


「あ、リンネ。」


呼び止めると、彼女は首から上だけを咲の方に向けた。


「私...少し風邪を引いたみたいだから今日はもう寝るわ。あの四人に宜しく言っておいて。」


「...? そんな様子が一切感じられませんが。お大事に。」


咲が四人との接触を拒んでいると推測したのだろう。

リンネは深く問い詰めずに、部屋を出ていった。


少し経ってから咲は気だるい体を自室に運んだ。





翌日、窓から射し込む清々しい陽の光に当てられて目が覚めた。

すっかり体は軽く、昨日の気だるさが抜けていた。


「今日から、か。」


朝の身支度を済ませ、クローゼットの中に備え付けられた制服に袖を通すと、彼女は自室を出た。


「あら、おはようございます。月宮さん。」


出迎えてくれたのは、シルヴィアとリンネ、そして背丈が幼い少女の三人だった。


「髪型変えたんですね、咲さん。良く似合ってますよ。」


「ま、心機一転の契機にね。」


「あれ?でも、咲さんの配属先って...。」


ポケットに畳んだ一枚紙を取り出し、ゆっくりと読む。


「地下炭鉱及び特殊加工専任工業課作業士。」


「作業士っ!?ええっ?転移者なのにか?」


甘ったるい声で叫びをあげたのは幼い少女だった。


「時期が悪かったの!決して私に力が無いわけじゃ」


「羨ましいなあ!!」


「ない...って、え?」


少女は目を輝かせていた。

一線の影もなく、それは本心から言ってるようだった。


本心から嫌みを言っている訳ではなさそうだ。


「特加専の作業士なんでしょ?良いなあ、良いなあ!」


「えっ?もしかしてこの配属先ってエリート街道だったりするの?」


ちょっとした希望を見いだして彼女に尋ねた、が答えは求めていたものとは違った。


「いや、それはない。監督官ならともかく、作業士はペルメテリアで一番体力を使う重労働だよ。」


「それに、環境も衛生も職務上最低レベルだから普通に死ぬ可能性もあるよ。」


そう言いながらも、やはり少女の顔は歓喜に包まれたままだった。


「じゃあなんでそんなに喜んで...。」


そこまで言いかけて昨日の事を思い出した。

彼女は工業用ドリルに愛情を持っている、と会話の中にあった。


確かCJ-40D、そんな名前だった。

この際名称にアルファベットが使われていることは気にしない、おそらくペルメテリア産の技術だからだ。


そんな事を考えている内に、彼女は一人でに話ていた。


「アタシも本当は特加専に行きたかったんだよ? なのにさあ全然好きでもないところに行かされたんだよ。」


「どこだったんですか?」


用意された朝食を口に含む咲の代わりにリンネが尋ねた。


「魔術研究課、新しい魔術を発明する所だよ。ペルメテリアの主産業。」


「あそこで平然と六人分の朝食を用意した女と同じ課なんだ。」


シルヴィアの方に目を向けると、気付いていないようで鼻唄をならしながら洗い物をしていた。


口に残った美味から、彼女の腕は相当に高い様に思われる。


これを生かせば性格を偽る事なくサガミに好かれるのでは無いだろうか。


「そこはあまり好きじゃないの?」


「サガミの役に立つならって甘んじて受け入れてるけど、機があればすぐにでも離れたいよ。」


「好き嫌いが別れる課だからね。」


「今居ない二人は?違う課なの?」


「ああ...あいつらはどうだったかな。少なくとも特加専には居ないよ。」


「特加専に異動はしないの? サガミに近いあなたなら、簡単に出来そうだけど。」


そう言うと、彼女は首をすぼめた。


「何度も願い出したよ。でも、サガミに近いせいで毎回取り下げられた。」


環境も衛生も最低、だからだろう。

ここのトップと親しい間柄のものを、みすみす死地に送り込む訳には行かないようだ。


「はあ、本当に羨ましい。」


悩ましい溜め息を彼女は吐く。

表徐は一変して暗く、外の天気と相対していた。


彼女は今日も、好きでもない場所で職務を全うするのだろう。


言うべきか迷ったが咲は口に出した。


「あなたが良ければ...なんだけどさ。」


「特加専の作業士として働いてみて多分全く知らない事が出てくると思うのよ、転移者だからね。」


「その時は尋ねてみても良いかしら?」


咲自身、余計なお世話だったかな、と口に出してから悔やんだ。

が、彼女にとってはそんな事は一切感じなかったようだ。


「...!」


彼女は眉を上げて表情を晴れ晴れとすると、咲に向かっていった。


「喜んで!何でも聞いてよ!」


幼い体と同じく、心も幼いのか。

勿論良い意味でだ。


彼女の心は柔軟で心から体へと機嫌が繋がっているのだろう。


「そうだ、昨日月宮は寝込んでたから紹介してなかったよね。」


「アタシはリース!これから宜しくね!」


「ええ、よろしくね。」




朝食と片付けを終えた三人は、共に社員寮を出た。

シルヴィア曰く、他の二人は少し早めに出ていったらしい。


「あ、そうだ月宮。特加専の勤務先はこの辺りには無いんだよ、専用馬車に乗って、特別棟に行かないとダメなんだ。」


「そこは作業士、監督官問わずですか?」


リンネの問いに、そうだ、とリースは続けた。


「仮雇用の形態なら...多分ガイダンスって言うのか? そういうのがあるとおもう。」


「無かったら即実地勤務だよ。」


そんな事があるのか、という恐怖心を押さえつけて一階に降りる。

それぞれの始業時間が別だからか、エレベーターはそこまで混雑せずに稼働していた。


「それじゃ、アタシ達はこっちだから。帰ったらどんな事が有ったのか教えてね!!」


「べ、別にあなた達が無事なんて祈ってないんだから!!」


シルヴィアの変容は凄まじい。

社員寮の外故に、すでに性格を変えているのだろう。


二人の声援を受けながら、リンネと咲はちょうど来た専用馬車に乗った。


新しき舞台がその姿を露にする。

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