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所属と並ぶ欲求

ガタンッ


共同スペースに明かりはついていた。

数多の声が聞こえる事から、あの四人が歓談しているのだろう。


「ただいま。」


無機質で事務的な挨拶を投げかける。

そして次の瞬間には鈍痛という実態的なものが咲を歓迎した。


頭部にヒットしたからだろう、軽く目眩を起こす。

足元がふらついていた事を体が思い出したせいで、足腰が砕かれる。


痛みと震えの中で最後に見た景色は、ローブを羽織ったエルフが普段咲が護身用として持ち歩く酒瓶を携えていた光景だった。





「ん...んんぅ...?」


乱雑な記憶の中で目を覚まし、周りの状況を得ていく。


「お目覚めかな?月宮嬢。」


白を基調とした、鎧に身を包んだ少女が立っていた。

確か...彼女の特徴は、『ツンデレ』だったはずだ。


話口調や佇まいから、それはかけ離れてしまっているが、確かそうだ。


「あなたは...『ツンデレ』? 一体何がどうなって。」


「し、失礼だな! って、そうか、君には名前を教えてなかったから特徴で名指しされても仕方ない。」


「まあ、『ツンデレ』と呼ばれるくらいだ。私の普段の立ち振舞いは上手く行っているようだな。」


ぶつぶつと独り言を唱える彼女を他所に、咲は身の回りに視線を張り巡らす。


ただ、得られる情報は少ない。

照度の高い光球が目の前の少女の後ろでふよふよと浮いているせいで、辺りが一層暗く感じるのだ。


自分が椅子に縛りつけられている、と言うことは確かなのだが。


「この世界の人間はどうしてすぐ拘束しようとするのかしら...。」


「何が目的よ!!さっさと...こほっ...離せ!」


大きな声で威嚇したつもりだったが、思惑よりも幾分小さな声だった。

この時初めて、自分の咽喉が僅かな痛みと疲弊を感じていると悟った。


汗が染み込んだドレスのまま冷風に身をやつしていたせいで喉風邪でも引いたのかも知れない。


そしてもうひとつ思惑から外れた事があった。


「うっ...そうだよな。拘束なんて野蛮...だよな。あ、後目的もちゃんと知っておいた方が良いのは確かだ。」


立ち姿に恐れを抱かせる尋問官が怯んだのだ。


「月宮嬢はしっかりしてるんだな!」


「ちょっと!何押されてんですか!!早く聞いてください!」


囁き声にしては随分と大きなものが、薄暗い部屋にこだました。

誰の声かは視界が少ない分聴力が働き容易に想像はついた。


「はあ...これが板挟み、という奴か。私はこんなことはしたくないのだが。」


「率直に尋ねよう。先程、サガミ君と一体何を話した?」


「ええっと、改めて聞かれると答えるのが難しいのだけど。」


「大丈夫だ、私は月宮嬢の考えが纏まるまでちゃんと待つから。焦らなくて良い。」


性格は生真面目、というのだろうか。

彼女の身に付けた鎧に、内面が続いているのかも知れない。


そんな事を思うほど、先程の彼女のイメージと今のイメージは違いがあった。


「最初に、今朝の面接会場での事...貴方達が乱入した事じゃなくて、その前の対応って言うの? それについて話して。」


「まあ、後は互いに気になる事を聞きあったわ。」


と言った瞬間、彼女の様子が変わった。


「た、互いに気になる事!?」


「ええ、とかサガミの考えとか、私が力を貸せそうな事とか。」


「ま、ペルメテリアで何に役立てるかって事よ。」


安堵がこもった息を一つもらし、彼女は自分を落ち着ける様に深く息を吸った。


「それで、月宮嬢はサガミ君の事をどう思ってるんだ?」


「あ?なんも思ってないわ。出会ったの今日が初めてよ?」


「そ、それはそうだな。じゃあ、その...なんというんだったか。」


「第一印象...というのはどうなんだ? 確かこの言葉のはずだが。」


彼女が、いや、彼女達が聞きたい事がわかった。


「ああ...まあ、少なくとも貴方達が抱いたような感情は微塵も無いわね。」


「四人?五人? それ以上かわからないけど、敬まれて称えられて、羨ましいなって感じたわ。」


そして、最後に一言付け加えた。


「ま、私は彼に思いを寄せる側に回ることは無いわね。」


完全に安心したのだろう。

少女の表情は眩惑で無ければ落ち着いた様に見える。


「そうか...。それじゃ、今すぐに紐を解くよ。悪かったな、こんな手荒な真似をして。」


「ねえ、貴方が聞きたい事を教えたんだから、一つ位私から尋ねてもいいんじゃない?」


咲がそういうと、拘束具をはずそうとした少女は、考え込むようなポーズを取った。


「確かにその通りだ。こちら側から一方的に問いただしたのでは、それは蛮行だ。」


「よし、じゃあ月宮嬢の聞きたい事に答えよう。何でも聞いてく」


「ダメですよ!!どうして貴方はそう真面目なんですか!シルヴィアさん!」


扉をぶち開けて乱入してきたのは、咲を沈黙させたエルフだった。


先程の声もリンネのものだろう。


「この鎧は騎士道の表れなんだ、身に纏う上でその誇りもまた信条としなければならないだろう?」


「ついさっきまでわっかりやすい性格作ってた癖に何言ってるんですか!!」


「良いですか?シルヴィアさん。貴方が今相手にしているのは、人を人と思わないような悪なんですよ!?」


「そういう者に、自分の事や重要な情報を溢したらどうなるかご存知ですか?」


「ズタボロになるまで利用されて、最後はゴミみたいに捨てられるんですよ!?」


「おい、エルフ。さてはお前怒ってるな?」


「いや...しかし、月宮嬢がそこまでの悪人だとは...。」


シルヴィア、と言ったか。

恐らく彼女の真の性格はこちらだ、ツンデレは彼女が着こなす鎧のように身に纏った物。


「彼女は私が聞きたかった事を話してくれたんだ。それに...危惧していた事に反して、私達と対立することもない。」


「シルヴィアさん...。」


「だが、リンネ嬢の忠告も聞き入れるべきだ。彼女の問いに対して、君が精査してくれないか?」


「私では簡単に教えてしまいそうだからな。」


たいした事を聞く予定では無かったのだがリンネの乱入によって次第に事が大きくなり始めた。


ハードルが上がっていく、咲がどんな問いを出すのかに関して。


「はあ...じゃあ、咲さん。知りたい事ってなんですか?」


「シルヴィア...だったわね。貴方の性格は、恐らく今の真面目な物なんでしょう?」


「どうしてサガミの前では、『ツンデレ』風に装っているのかしら?」


シルヴィアは、リンネの審判を聞くまでもなく口を開く。


「二つ理由がある。一つは自分への戒めとして。」


「もうひとつは?」


「サガミ君が好きな性格だからだ。彼の言う、『ライトノベル』という種の書物に描かれていた少女の性格だ。」


活版印刷術でも発展したのか、もしくはサガミが何かしらの恩恵で持ってきたのか。


彼女の口振りから、この世界にその種の書物があることに咲は心の内側で驚嘆していた。


「贖罪と愛情とでも言い表せば高尚な物になるだろう。それが理由だ。」


「さて、互いの好奇心も満たされた事だ。月宮嬢を解放しなくてはな。」


そう言うと、彼女は手際よく四肢に結びつけられた紐をほどき始めた。


「貴方、多分尋問する側に合ってないわよ。」


「はは、私もそう思うよ。でも、あの三人が尋問なら私が適当って言うものでな。」


「彼女達はあなたがこう言う性格だって知らないの?」


「いいや、この世界で私の次くらいには知っているさ。」


「じゃあどうして貴方を推薦したのかしら。」


「私がこの鎧を身に付けた時は、彼女ら曰く『怖い』と評判なんだ。」


「リンネ嬢が君は恐怖を与えれると、すぐに弱音を吐くと言っていたもので。私が推薦されたんだよ。」


最初に見聞きしたイメージと異なり、案外同居人の四人は仲がよさそうだ。


何せ、サガミの前では着こなしたままの性格を、彼女らの前では脱ぎ捨てているのだから。


「この部屋に入った時は互いを罵ってたのに...。」


シルヴィアはフッと笑うと、咲の小言に返した。


「互いを知りすぎると悪いことばかりだよ。」


シルヴィアは満面の笑みをこちらに向けた。

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