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答え合わせの嘘

「何一人でぶつぶつ話してるんですか...って、あら?」


初めてルームメンバーが一同に介した瞬間だった。

微睡した表情の寝起きのエルフ、口と仲が悪い四人の少女、バスタオル一枚羽織った転移者。


「貴女方は面接会場に乱入した...。」


尾尻が有耶無耶になる言い方であったが、少女らも思いが合致したようだ。


「新人ですわね。確か、一番端に座ってましたわね。」


こんな偶然があるものか、と思った瞬間に咲は悟った。

彼女達は、今朝の様子から鑑みるにサガミとはそれなりに知見があるようだった。


それなら、『最上階で角部屋、かつエレベーターホールから近い』という良条件に住まいを置いていても不思議ではない。


ピンポン


聞き覚えのある音が部屋に響いた。

外から鳴らされたそれは、この部屋の来訪者を告げるチャイムだ。


「月宮、居るか?」


くぐもった声だったが、聞き覚えがあった。

例え咲が思い出さなくとも、少女らの雰囲気や顔色が変わった事から予想ができる。


「サガミだ、ちょっと話があるんだが。」


「話...?」


咲には思い当たる節が無かった。

彼とは面接の際でしか顔をあわせていない。


転移者云々に関する話題だろうか。


「ちょっと待ってて。」


玄関に近づこうとしたが、阻む壁が4つあった。


ガッ


一際健康そうな少女が、長い脚を壁にかけて立ち塞がる。


「痴女かお前は? タオル一枚でよく外に出られるな。」


彼女らの目はどす黒い情が宿っていた。

が、その一言は正論だ。


咲は自分が一糸纏わぬ姿であることを失念していた。


「そうだった。」


「あ?その声もしかして。」


「なんだ、やっぱりそうか。来た覚えがあると思ったんだ。」


続く言葉に一瞬間があった。

健やかな少女の声を聞き、表札をみたのだろう。


「...おお、有った有った。開けるぞ。」


有った有った?


鍵口に何かが差し込まれる音がする。

六人の誰もが扉の方に目を吸い寄せられていた。


「ねえ、もしかして彼...サガミ君ってこの部屋の合鍵持ってたりする?」


返される言葉は無かったが、振り返った少女らの顔が答えを出していた。


ガチャン


鍵が開く。

扉の外の者によって回されたドアノブは、その身を容易く捻る。


待て、と言われて素直に待つことが出来ないのだろうか。

扉が開くよりも早く、咲は叫んでいた。


「製造。」


ハラリとバスタオルが落ちる。

しかし、咲の身は鮮やかなパーティードレスに包まれていた。


「なんだよ、突然叫んで。」


「何でもないわ。入ってきてくれた所でなんだけど、話すなら外にしましょ。」


サガミは四人の方に目配せすると、首を縦に快諾した。


後ろでは寝ぼけ眼のまま、生まれたままの姿を晒したエルフが居たが、咲が壁となって気付かなかったようだ。







「ここ、屋上も空いてるのね。」


「元の世界じゃ、屋上とかにスポーツコートがあったりしただろ? それを真似てんだよ。」


彼の言う通り、屋上には四方がネットで囲まれたフルサイズのサッカーコートだったりプール...だろうかそんな物も奥に見える。


誰も使っていない為、閑散としているが。


「あの四人の女の子は何者? 娼婦?」


「速水から聞いてたが...本っ当にろくでもないんだな。そんな訳ないだろ?」


魔王征伐の仲間だよ、とサガミは続けた。


「それで話って言うのは? 面接の事?」


口角を上げた気がしたが、勘違いだろうか。

先程と変わらないトーンで彼は口を開く。


「ああ...ちょっと気を悪くさせたかなって思ってさ。一言謝って起きたかったんだ。」


面接の終盤での光景を頭に浮かべていた。

改めて考えても、自身と彼の境遇には大きな乖離があると咲は思った。


「い、良いわよそんなの別に。私に力が無いだけの話なんだから。」


「そんなに卑屈になるなよ。速水から月宮の性格と、もうひとつ聞いててな。」


「何でもリディニアの異変は月宮の尽力が大きかったみたいじゃないか。ビーチュも速水も誉めてたよ。」


「お前には力がある、それは誇って良いと思うぞ。」


咲は何も答えなかった。

うがった見方しか出来ない彼女にとって、その言葉は屈折したのだ。


一拍空いた後、咲はサガミに言葉を投げ掛けた。


「ひとつ、聞いても良いかしら?」


「答えられる範囲なら何でも良いぞ。」


脳裏に一人の転移者が浮かんだ、気前が良いと思ったら、当たり前のように裏があった女だ。


「じゃあ、.().().()()()()()()()()()()()


サガミは一瞬硬直した。


「お前...何で...。」


「あ、ごめんなさい、抽象的過ぎたわね。ええっと、ちょっと待ってね。」


「あなたは魔王征伐を契機に、きっと色んな人と出会って、色んな経験をした訳じゃない?」


「その旅をして良かったと思う?」


「もちろんだ。」


「この世界に来て、俺は元の世界じゃ得られないような体験をいくつもしてきた。」


「元の世界じゃ、俺は今の俺にはきっと成れていなかった。」


「この世界に来たからこそ、この五年があったからこそ、俺は俺なんだ。」


彼は一言一言を噛み締める様に言った。


「だから...俺は『平和』の為の組織としてこの会社を立ち上げた。」


「平和の為って言うのは...やっぱりお告げが関わってるの?」


「それが半分、もう半分は自分の意思だ。」


「強大な力を持つ転移者だから、この世界を平和に引っ張って行かないと駄目なんだよ。」


「あなたにとって、この世界の者は平和になるべき存在なのね。」


「そうだよ。転移者も含めて、幸せになるべきなんだ。」


魔王は殺したのにね、と問わなかった理由は咲自身にもわからない。


大層な希望を語る彼の姿は、言葉の壮大さと裏腹に軽薄な気がするのはなぜだろうか。



「俺からも尋ねても良いか?」


「私はあなた程しっかりとした答えは出せないわよ。」


サガミははにかみながらも、言葉を並べる。


「気を悪くして欲しくないんだが、『狂人月宮』って知ってるか?」


「元の世界、殊俺の住んでた国じゃかなり有名な都市伝説でな、陰謀論とでも言うんだか。」


「速水もビーチュも知ってたんだ。月宮もそうなのか、と思ってな。」


彼は半分冗談で問いているのだろう。

しばし考えこんだ後、彼女は切り返す。


「知らないわ。 そういうモノには疎かったから...。」


「それと私と名字が同じだけど、家系に『狂人』なんて呼ばれてるのは居なかったわ。」


サガミは、地域差があるんだな、と笑った。





「それじゃあ、戻るわ。」


「おう。あの四人と仲良くしてくれよな。」


彼は彼女らの裏の顔を知らないのだろうか、もしくは知った上で受け入れているのか。


「大丈夫よ。」


咲は階下に続く階段に歩を進める。


「あ、ごめん月宮。最後にもう一個だけ質問良いか?」


「何かしら?」


「お前さ、植物に興味あったりする?」


なぜこんな問いを投げ掛けるのかよくわからなかった。


「え、ええ、本とか結構読んでたから、植物は好きな部類よ。」


不思議そうな顔をする咲にサガミは続ける。


「あ、そんな気にしないでくれ。ほら、ペルメテリアって土地が余ってるだろ? 農業とかできたら良いなって考えてて。」


「で、そういうのが得意そうな奴を探してたんだ。」


「ああ!そういうこと!良いわね、私なら手を貸せると思うわよ!」


「そんな顔もできるんだな、いつもの仏頂面よりもそっちの方が良いぞ。」


「じゃ、必要になったら声かけるわ。」


作業士より、植物を取り扱う方が咲にはあっているのだろう。


咲は再び歩を進める。

少し段差を下った所で、ハッと思い出した事があり、サガミの方に振り向く。


ちょうどその時、彼は屋上から去ってしまった。

転移者は頑丈だから、高層から飛び降りても無事なのだろう。


最後に移ったシルエット、目に焼き付けたものの記憶の中に彼と合致するもには無かった。


王様が言っていた事を思い出す。


『そうじゃ。君が会ったことのある転移者が成し遂げたんだ。』


咲と会った転移者とは、彼の事で合っているのだろうか?

「何考え事してんの?」


書類の束を抱えた速水俊一は、隣を歩くビーチュにそう尋ねられた。


「さっき、月宮が言い残した『狂人月宮』だよ。」


「何?彼女が関わってるって言いたいの?」


「最初に会ったとき、『月宮』の名前を聞いてすぐにそれを思い出したんだ。」


「単なる都市伝説でしょ?日本に住んでたら一度くらいは耳にするわよ。」


「それも驚いたんだよ。ビーチュ...お前、思いっきり海外の出で立ちなのに日本に居たんだな。」


「家庭の事情で一時期住んでただけよ、その時知ったの。」


「なるほどな。」


二人は突き当たりに差し掛かる。


「じゃその束、どうにかしといてよ。一瞬刺せば測れるのに...何度も何時間も刺したせいで月宮さんのステータス表がまだ溢れてるんだから。」


「はいはい。」


「じゃ、私別の用事あるから。」


ビーチュは突き当たりを右に進む。

取り残された速水は、月宮のステータス表をどう処理するか思案していた。

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