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同室する仲違い

咲が出てしばらく、四人は固まったままだった。


「あ...。」


沈黙を崩したのはビーチュだった。

彼女は会議室を出ると、すぐに首を横に降りながら戻った。


「月宮さんはもう居なかったわ。ここに居るのが嫌だったのね。」


「なあ、サガミ。さっきのでわかっただろ?咲...『月宮』は転移者だよ。」


速水の言葉をサガミは素直に飲み込んだようだ。


「そうみたいだな。あいつは疑惑からはずしておくよ。」


「なあ、本当なのか?ペルメテリアに裏切り者が居るって。」


「ああ、居るよ。仕入れ先は言えないが、これは確かだ。」


「ふむ...そうか。」


「ね、ねえ!そうじゃないでしょ!?貴方達、月宮さんに」


会話を遮ったのはビーチュだ。

彼女の口調は二人を責めていた。


「ビーチュだって傍観してただろ。疑わしきは罰する、だ。さっきの事は仕方ないんだよ。」


サガミのその言葉で、ビーチュは答えに困窮した。


「それに。」


「ええ、大丈夫です。先程の事は、月宮さんはすぐ忘れます。」


検査器具を持ったまま、少女はあっけらかんと言い放った。


「いや、それでもな。」


ビーチュに代わったのは速水だ。


「記憶を失うとはいえ、一言ぐらい月宮には言っておいた方が良い。」


「サガミ、お前尋問以前にイラついたから手を出しただろう?」


「何自分は違う、みたいに言ってんだよ。速水だって抑えつけてただろ。」


「もちろん俺だって詫びを入れに行くさ。」


「それは駄目です。」


次に制したのは器具を持つ少女だ。


「失った事情に対して、あなたが行動を起こせば月宮さんは思い出します。」


「...でも、他に思い出しちまう要因だってあるだろ?」


「強い衝撃が加われば、低い確率ですが...。」


「なら、今後の軋轢を生まない為にも行動は起こすべきだ。」


「なあ、でも恩恵の無い転移者だぞ?敵対したって脅威にはならないだろ。」


サガミは渋っていた。

内面のプライドが許さないのだろう。


「脅威については十分あるさ。あいつはエレナさんの恩恵を看破してんだぞ?恩恵も無しに。」


そして、付け加えた速水の一言がサガミを動かす。


「それに、あいつの腰巾着のリンネは、俺達に並ぶ程の力があるぞ。」


「...わかった、月宮には一言くらい言っておこう。」


「よし、じゃあ俺も。」


「いや、行くのは俺一人だ。速水が行けばこの事を思い出すかもしれんが。」


「俺だけの謝罪なら...面接での事だって解釈出来るだろ。」


「ええ、その方法なら今の事を思い出さないでしょう。」


三人の動向は決まった。

ビーチュは一人、悶々と自責に苛まれていた。

乱れて疲れきった咲を見た途端、リンネの目の色が変わった。


「咲さんっ!一体何をされたんですか!?」


叫び声が外にまで響いていたのだろう。

リンネの表情は不安で満たされていた。


「まさか、礼を伝えに来たら尋問されるなんてね...。」


尋問、という単語を耳に届けて一層心配の色を募る。


「実害は無いから安心して、ちょっと精神的に堪えただけ。」


その言葉を聞いて、リンネは多少安堵したようだった。





受付の獣...恐らく元の世界には居ない、整った毛並みの女性に挨拶を交わし、外に出た。


停留所の公馬車の到着時間を目に納め来るのが随分先だと確認すると、二人は歩く事を決めた。


「尋問って何を聞かれたんですか? 突然ビーチュさんに追い出されて、そしたら咲さんの叫び声が聞こえてきて。」


「尋常じゃないですよ。」


明確な異常を感じたのだろう。

咲の身に降りかかったその状況から、比例して尋問内容も並のものでないと推測したのかもしれない。


「彼らは私が転移者かどうか、それが重要だったみたいなの。何でも『転移者』を騙る者が多くてね、かなり敏感な時期みたい。」


リンネは呆気にとられているようだった。

もっと大きな疑念をかけられたのだと思っていたのだろう、蓋を開ければ、たかが肩書きに関する事だったのだ。


「じゃあ何であの人達に取り押さえられてたんですか? 咲さんが転移者だって言うのはすぐわかりそうですけど。」


「当初の名目は、私が眼球マッサージを恐れるからやむを得ずって事だったわ。」


「眼球マッサージ? ああ、検査の事ですね。」


「暴れるから検査が出来ない、検査が出来ないからステータスが出ない、だから転移者かどうかの判別も付かないってことね。」


「感覚的なものではなく『恩恵』の有無だけに焦点を当てたんですね。」


「じゃあ、あんな獣みたいに乱れて叫んでたのは単に怖かったんですか?」


「...後でわかった事なんだけど、私の目に異物が近付く度に激痛が走るように暗示をかけられてたみたいなの。」


「だから検査器具が刺し込まれる度に...ね。しかも、『十秒間刺し込まないと測れない』って言って、ギリギリ十秒経つ前に引き抜くの。」


それを聞いたリンネは行動の意味が良くわかっていないようだった。


「は? なんでそんな事をする必要があるんです?暗示をかける意味もわかりませんし。」


「拘束以前に試した検査、私が怖がって上手く測れなかったやつでね、実はステータスが計測出来てたみたいなの。」


「え..ええ。」


「その時点で私に『恩恵』が無いことが彼らに知られてたのよ。」


咲から発せられたその情報を知って、リンネは納得した表情を顔に出した。


「拘束した時点で、あの場に居た者にとって咲さんは転移者ではなかった。だから、それを騙った理由や正体を探ったんですね?」


「苦痛を伴う暗示は拷問を用途とした。」


「このドレス、お気に入りだったんだけどな。」


独り言の様に呟く咲が身に纏うドレスは、偶然にもこの世界に来た際に選んだ淡いピンクの生地のものだった。


「マニアに売れば高値がつきますね。」


リンネは嘲笑うように返した。







ふと上を見上げると、来たときは真上で輝いていた天体は既に半分姿を消していた。


「リンネ、追い出されてからどれだけ経った?」


会議室からという意味だった。

体感では一時間ちょっとのはずなのに、昼から夕暮れまで進んでいることにに疑念を持ったのだ。


が、リンネはその問いには答えあぐねた。


「追い出された? どこからです?」


「第三会議室から。何ボケてんのよ。」


つい今しがたまでの話題への反応とは思えなかった。


「...? ごめんなさい、本当にわからないんです。」


咲の中で確信に近い疑念が出来上がっていた。

ドレスに染み込んだ汗が、咲の体を一刻毎に冷ましていく。


「ペルメテリアに来たのは正解だったみたいよ。」


「どういう事ですか?」


「...どういう事だったかしらね。」


咲は腑抜けた声で返した。

頭に浮かんでいたはずの考えは、靄がかかって咲の手を離れた後だった。


「バカにしてるんですか。」


奴隷は、主人に対する物とは思えないほどドスの効いた声をあげた。


咲は寒さに身振るいした。






「最高階じゃなく二階とかにすれば良かったわね。」


「二階は娯楽室みたいですよ、ああ、咲さんはそこで住んでもいいんじゃないですか?床で寝れますし。」


「お前が纏ったドレスの構成材料を、私が知っている事を覚えておいた方が良い。」


ポケットから寮の鍵を取り出す、来客用のIDカードを返すのを忘れていたのを思い出した。


そういえば、他の四人は帰っているのだろうか。


扉を開けると部屋の灯りは着いておらず、暗闇が待ち受けていた。


「シャワー浴びてくる。私の部屋は...こっちね。」


どうやら、生活の最低限の必需品は予め用意してあるようだ。

最悪ペルメテリア内の店に赴けばなんとかなるだろう、と当面の安心を予想した。





「はあ...どこもかしこも元の世界と一緒ね、新鮮味にかけるわ。」


その時、シャワー室の扉の向こうで鍵が開く音がした。

リンネが出掛けたのだろうか。


「ああ...リンネ?」


少し覗こうと扉を半分開ける。

限界の扉も同時に開いた。


「だからさっ、CJ-40D型は職人の魂が籠ってんだよ?なんでわからないんだよ、もっと自分が使う道具に愛を持てよ!」


小さな体に似合わないハツラツとした声がこだまする。


「工具用ドリルに愛情感じてどうするの? しかもあなたの場合は、愛着じゃなくて本気の愛でしょ?」


「対物性愛ってあるらしいわよ。サガミ君に言ったらどうなるかしらね。」


「ああ~、それはやらない事をオススメするわ。自分の家具が1cm毎に蜂の巣にされるわよ。」


既に経験があるかの様に、たおやかな雰囲気の女性が、ツンとした女性に諭すように言った。


「ひえっ、こっわ。そんなにドリルが好きならサガミの前でも使えば良いじゃない。」


一番後から部屋に入った、程よく日焼けした健康そうな女が続ける。


「あ?自分だけ呼び捨てで一歩リードしてるつもりか?ああ、羨ましいなあ。」


「ごめんごめん。気遣いが出来て無かったわ、今時わかりやすいツンデレでしかアタック出来ないあんたには見せ付けに見えちゃうわよね。」


「熟年の嫉妬は怖いね。」


「黙ってろよ貧困層、お前のハンガーマップは全身赤いな。」


「は?意味わからないんですけど?お兄様はこの体が好きっていってくれたし、赤いのはあんたのレア度でしょ。絶滅危惧種ⅠA。」


「それは...貶してるのか?」


困惑する雰囲気が刺々しい少女、言葉を詰まらせる彼女の代わりにたおやかな女性が球を返す。


「そこまでにしておきなさいよ。ここで喧嘩しても仕方ないでしょ?」


長女的なポジションだろうか、一つ上の視点を持っているようだ。


「年増はすぐ自分の言うことを聞かせようとするからな、嫌になるわ。」


が、年増、と健康そうな少女が言った途端に雰囲気は変わった。


「あ?良い度胸してるわね、表に出なさい。二度と日の元歩けない様にしてやるわ。」


残念、一番優しそうな女も同じ土俵に居るようだ。


「嫌、待て。その前に、そこから見てるアンタは何者?」


シャワー室の扉を閉めるよりも早く、咲は見つかってしまった。

観念して扉を開き彼女達に目を向けると、見覚えがあった。


「あ、あなた達...。」


面接会場でサガミの側に近づいた少女達だった。

しかし、あのときのような可愛さは外見以外には見受けられなかった。

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