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白日に晒された弱点

気がつくと私は二人の男に拘束されていた。

気付いた時には、リンネは部屋の外に追い出された後だった。


「ヒッ...なんでっ!?なんでよ!ただの検査でしょ?」


「そうだよ? でもお前が暴れるからこうなったんだろ?」


「眼球に刺されるのを怖がらないわけ無いじゃない!」


拘束以前にも検査は何度も行われた。

その度に暴れるので拘束という形になったのだ。


「すぐ終わるからね、月宮さん。」


「嫌だ、ヤダヤダ!ねえ、腕に押し付けるタイプがあるでしょ?そっちに」


「切らしております。」


冷たく低い声で、検査器具を持つ女が言った。

何度も暴れたせいで、少し苛立っているようだった。


「はあっはあっ、リンネ!リンネ!私を助けなさい!」


「リンネはとっくに追い出したわよ、貴方を甘やかすから。」


二人の男に押さえつけられた体は、声の荒ぶりとは反対にびくともしない。


「じゃあ行くぞ~。」


「ヤダヤダヤダ!!眼球に刺すってマジで頭おかしいわよ!」


パアンッ


狂乱に耐えかねたのか、右半身を押さえるサガミが手をあげた。


「うるせえ...ガキじゃないんだからいい加減にしろ。」


「えっ...?な..えっ?」


何故押さえつけられた挙げ句に頬を叩かれたのか、意味が解らなかった。


呆然としている内に検査器具が左目に刺し込まれた。


「はい、1,2...3。」


そしてあろう事に、刺し込みは一瞬ではない。

十秒間行わなければならないのだ。


「あっ!あああっ!ごめんなさいごめんなさい!ごめんください!」


「まだちょっと余裕有るじゃねえか。」


「4...」


まだ半分も行かない10カウント、苦しみからか長く感じる。


「ふっ...くぅぅぅ!!痛い痛い!ごめんなさい!もう転移者じゃ無くて良いですから!」


「駄目だ。ちゃんと調べなきゃな。」


「6..7...8..。」


「許して!ああああっ!ごめんなさい!」


私は知らぬ内に謝罪の言葉を漏らしていた。


「お前大袈裟過ぎないか? 本当は痛くないだろ。」


冷酷過ぎる言葉が私の心に襲い掛かる。

彼らもこの器具を眼球に突き刺したのだろうか?


「9...はい、おしまい。」


地獄のような時間がやっと終わった、と直ぐに安堵した。

が、次の言葉で私は彼らの意図を察した。


「あ、測れてない...本当に申し訳無いんだけど、ギリギリ十秒じゃなかったみたい。やり直しね。」


「それ...は....私の不備じゃない...。」


「ちょっと!流石にやり過ぎよ!検査だって」


惨状を見かねたビーチュをサガミは制した。


「ビーチュ。これは転移者の威信に関わるんだ、こいつが本物なら耐えられるだろ。」


「じゃ、行きまーす。」


恐らく、目的は私が口にした言葉だ。

転移者じゃ無くて良い...これを口だけじゃなく心に染み込ませたいのだろう。


無力な私に...咲に二度と自分が転移者だと言わせぬ様に。

後に彼らが『戯れ』と言い張るこの行為は、一時間ちょっと続いた。


「はあ...はあ...やっと終わった。」


「月宮。」


そう言うと、サガミは針の出た検査器具を私の大腿に突き刺した。


「痛っ...くない? あれ?」


「当たり前だ。検査器具に激痛が伴うなら、それは不良品だ。」


すると、次は私の眼前に手をかざした。

声には出ないものの、若干の不快感が脳を襲った。


「お前には、眼球に何か近づくと痛みを感じる暗示をかけたんだ。」


「...暗...示。」


そんなものを施す意味がわからなかった。

私はこいつらの嗜虐心から、体を憔悴しなければならなかったのか?


「それに、実は検査器具は一瞬刺すだけで計測できる。」


「かなり前からお前のステータスは明らかだったんだ。」


何も思うことは無かった。

とにかく、『私』が咲の身代わりとなった事は正解だった。


「あっそ...じゃあ、解ったでしょ?私は転移者で、あなた達と同じ異世界人。」


抑えの解けた椅子からフラフラと立ち上がる。

ペルメテリアの気候のせいだろう、全身が汗でぐっしょりと濡れていた。


「解らないのか?転移者じゃないから、こんな手を使ったんだ。」


「ステータスは、確かにここの人間と比べればずば抜けて高い。だがな、持っているスキルが演算処理に製造に建築と来た。」


「お前が速水に恩恵だと言い張った能力は、お前の適正ジョブに付随したものだ、違うか?」


サガミの口調は、証拠を突き詰めて罪人を追い詰める刑事、だと思って、自分に酔いしれているようだった。


「恐らく『月宮咲』という転移者が実在するのは真実だ。」


「でも、お前は『月宮咲』じゃない、別人だ。恩恵が無い事が証拠だ。」


「その名を騙る、お前の正体は一体なんだ?」


彼の言う『こんな手』の大義名分はここにあるのだろう。

月宮咲に成り代わった誰かの正体を突き詰める。


見当違いの正義が彼の心を駆り立てたのだ。


なんと、偶然にも成り代わったという指摘は半分正解だった。

彼の想像とは別の実態だが。





「...五年間、楽しかった?」


気が付くと、言葉を発していたのは『咲』自身だった。


「はあ?」


「女の子と一緒にすごく強い力で旅をするのって楽しいわよね。」


「私もゲームとか良くやる環境だったから解るわ。」


そのセリフに、その場に居た者は一瞬硬直した。


「普通のゲームに当て嵌めれば...悪しき魔王を倒した後の、ペルメテリアでの物語は...。」


「言わば後日談って事になるのかしらね。」


「お前...一体何を言ってるんだ?」


脈絡の無い言葉を話す咲は、誰の行動も関わらずに続ける。


「自分がみんなの中心だったんだもの、自分が常識だって考えるのも無理はないわね。」


「別に...俺は自分が中心だなんて驕っちゃいないが。」


「だから、自分がずっと正義の英雄だと思っているんだもの。転移者を騙る悪には、前提を疑いもせずに制裁を起こすのよね。」


「でもね。」


咲は疲労困憊の体で、ゆっくりとサガミに詰め寄った。


「あなたの常識に当てはまらない人間も...この世界には居るのよ!!私は恩恵がないまま、五年間ここで過ごしてきたの!」


「あなたが転移者として自分の物語に酔いしれてる中、私は別の転移者の人生を歩んでたの!」


「恩恵が無いから転移者じゃない!?ふざけんじゃないわよ!私が____...」


その後の言葉は続かずに、咲は言澱んだまま無気力な表情に戻った。


「ごめんなさい...ヒステリックになってしまって...叱責なんて無駄な事をしかね無かったわね。」


「私自身、誰かに否定されて意固地になる程『転移者』に拘ってるなんて思いもしなかったわ。」


誰も動く事は出来なかった。

もう誰も、彼女は転移者じゃないと口ずさむ者は居ない。


単に咲の気迫に圧倒されただけかも知れなかったが、疑惑は既に晴れていた。


「言い忘れてた、ありがとうビーチュ、お陰でこの会社に入れたわ。」


「本当はそれを言いに来ただけだったんだけどね。」


倒れ込む様に扉を開ける。

そして何かを閃いたように、あっ、と咲は声をあげた。


「...最初からこうすれば良かったわね。」


虚空に語りかけた後、咲は四人の方に振り向くと一言だけ述べた。


『私』自身、彼女がその言葉を漏らすということは意識の範疇外であった。


「『狂人月宮』ってご存知かしら。」


「元居た世界の陰謀論や都市伝説なんだけど、この世界じゃ知りようが無いでしょ?」


だから私は転移者だ、とでも言うように微笑みながら咲は会議室を出ていった。

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