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龍人の娘

フフン、と楽しそうに鼻を鳴らしながらグローリアは先導する。


「グローリアさんって、どちらの種族何ですか?」


「竜種族ですよ。と言っても、人間とにハーフなので、龍人って事になりますけど。」


龍人という言葉を聞いてリンネは驚きの声を漏らした。


「龍人って...! ってことはグローリアさんって龍の巫女なんですか!?」


咲は咲で『巫女』という言葉がこの世界にあった事に驚いた。

中世の西国諸国のイメージが強い為に、そちらの文化が根強いと感じていたのだ。


「龍の巫女って何?」


リンネの方に向かって発したが、返球はグローリアによって為された。


「巫女について話すのなら、ツキミヤさんには龍人についてから話した方が良いですよね?」


咲が転移者であることを知っているのだろう。

直接的ではないものの、咲にとって初めて転移者として扱われた瞬間だった。


王様? ノーカンだよノーカン。


「ドラゴンの国には、エウレア(人間の国)に属さない国際的に竜種として認められた人間が居るんです。」


「へえ、それが龍人ってこと?」


「いえ、認められてはいますが純血な人間です。」


「で、登場するのが私達の国で定められた特殊な国教です。」


「詳細は省きますが、儀礼的に十数年に一度、純血な人間の女性と神託の下った竜種の男性間で婚姻が交わされるんです。」


「へえ...国教とはいえ、相手が自分の意思とは関係無く決まるのね。」


「ですので、人間は自薦じゃないと嫁にはなれません。竜種の方は神託が下った、という条件があるので大抵は受け入れます。」


「まあ、女性の方は毎回自薦者が何人もでるんですけどね。」


ふっ、と息を吐きグローリアは続ける。


「それで、その人間と竜種の子が『龍人』となります。捕捉として種族のリュウとこのリュウは少し意味が違ったりします。」


「龍人の中でも、女性性を持つものが『龍の巫女』と見なされるんです。」


「で、リンネさんの質問に戻りますが、私は残念ながら『龍の巫女』ではありません。」


グローリアが直前に強調した言葉もあって、リンネは驚嘆の声をあげた。

恐らく咲とリンネは同じ考えに至ったが、咲は特に反応を見せなかった。


「え...?」


その言葉を聞いたグローリアは、二人が何を思ったのか悟ったようだ。


「あ、いえ!『女性性』でないという意味ではないです。単に私に『巫女』としての才覚が無かっただけの話です。」


グローリアは焦った様に言葉を吐き出した。


「生まれだけで巫女になれる訳では無いのね。」


「先程、竜種と龍人では意味が違うと言いましたが。」


「龍人には神に近い、という意味合いが含まれているのです。」


咲は思案すると率直な感想を述べる。


「こう言うのも失礼だけど...混血の方が、こう...高い位を持つって珍しいわね。」


ハーフという言葉ですぐにミルトとロウの姉妹が思い起こされた。

彼女らの迫害の基点は、人と獣のどちらにも属さないという事情だった。


「儀礼上不可欠な名称だって言うのと、国が管理してくれているのが大きいですね。もっとも、日常的にそれを感じる事はありませんが。」


「話に戻ると、その意味合い上『龍の巫女』はそれ相応の条件に当てはまらなければならないのです。」


「女性性の子がたった一人、などの特殊な条件下でない限り自然と巫女になれるわけではないんです。」


「特殊な条件下って言うのを聞く限り、その年の婚姻間では少なくとも一人は巫女を出さないとダメって事?」


「ええ、その通りです、適合するなら巫女は何人でも良いのですが、必ず一人は必要なんです。」


あえて『女性性』と明言していることから、恐らくそう記載する状況に陥ったのだろう。


語尾が徐々に小さくなるグローリアを気遣い、リンネは声をあげる。


「ま、まあでも!龍人って事自体凄いことですし!何より龍人って『幸せの象徴』って言われてますから!」


「ああ、そうですねえ...幸せの象徴ねえ...。」


リンネの励ましを聞いたグローリアは、より一層頭を下げた。


「地雷踏み抜いてんじゃねえか!!謝れ!グローリア先輩に謝れ!」


「す、すみません!」


「ふふ、ごめんなさい。ちょっとからかっちゃった。」


優しい笑みを浮かべるグローリアの顔には、少し影が指しているように見えた。

彼女の中では言葉と真逆の情念があるのだろう。


「でも、幸せの象徴って別に悪くない印象ですよね? もしかして、逆に不幸を振り撒くとか?」


気になった咲は、踏み抜く事を恐れずに問う。


「ははは...その逆よ。私は体質的に幸せを振り撒いちゃうの、龍人の特性も合間って尋常じゃ無いくらいね。」


体質的に振り撒くという言葉を飲み込めなかった。


曖昧な概念であるはずの幸福を、なぜ実体するプレゼントのように語るのかわからなかった。


そして、さも幸せを振り撒く事が不幸であるような語り口に理解が追い付かなかったのだ。


咲は少しばかり思惟する。


「もしかして...この世界って、『幸せ』が形になってるんですか?」


哲学や個人の情念に左右されない、幸せであることが絶対的に判別が可能。


そんな事が出来るのか、と思わずにはいられなかった。


「形って言うか、数値ね。ステータス表ってあるでしょ? あそこに記されているのよ。」


それが当然の事のように言うグローリアが信じられなかった。

よもや『幸運』が自身の能力として決まっているとは。


「幸運がステータスに? 凄いわね、異世界。どんどん興味が湧いてくるわ。」


「あ!本当!幸運については興味を持ってくれるなんて嬉しいわ!」


グローリアは何故かその好奇心を自分の事のように喜んだ。


「じゃあ今度あなたも学んでみる?」


継ぎ足した言葉に咲は意識を向けざるを得ない。


「え?学んでみる...って?」


「『幸福論』よ。」


グローリアの口から軽く出たその言葉は、元の世界で聞き慣れた単語だった。

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