彼を中心に巡る世界
「じゃあお前もビーチュの推薦って事か?」
「そうよ、パーティードレスの理由も右に同じ。」
「...だが、お前が転移者だという証拠はどこにある。論理的に考えて転移者だ、といわれて鵜呑みにする訳無いだろ。」
無表情が崩せてないか心配だ。
目の前の男も、咲と同じように言葉でしか転移者を表していない。
最も彼の言う証拠が、ペルメテリアのトップという事なのだろうが。
「月宮よ?月宮。この世界にそんな名前が居るの?」
「世界は広い。名前だけで判別する程バカじゃない。」
さっき名前で転移者だと判断してたバカが目の前にいますよ、とは言えなかった。
「それにな、”10人目”ってのが信用ならねえ。俺たち転移者は9人の仲間なんだよ。」
彼に何を言っても意味がないんじゃないか、という諦めが咲の心に渦巻く。
「じゃあどうすれば私が転移者って信じてくれるのよ!」
「さっさと恩恵を出せば良いんだよ、転移者ならもう少し頭を働かせろ。」
歯に衣着せぬ、という表現で留めてやるよ。
「お、恩恵?」
その言葉を聞いて咲はたじろいだ。
恩恵を持つならば転移者、は真であるが逆は偽だ、反証は咲自身。
しかし、その条件は大概の者には通じてない。
「恩恵は...ダメよ。ビーチュが言ってたわ。恩恵は教えてないって。」
その答えを聞いたサガミは大きなため息を漏らした。
「副次的に莫大な能力を貰ってるだろ? それを見せれば良いんだよ。」
「ど、どうやって...ですか?」
序盤の威勢からかけ離れ、咲の口調は随分と穏やかになっていた。
「適当な魔法で...そうだな、あの壁を壊してくれ。」
魔法を知らない咲にとってそれは『六つ目の難題』に等しかった。
まだ火鼠の皮衣の方がマシだ。
そして、壁の構成材料がわからない為に製造も使えない。
会場は咲に注目し、出来ません、とは言えない雰囲気だった。
「咲さん...。」
小さな声で助け船を出す者がいた。
「私がやります。あわせてください。」
「ありがとう、リンネ。じゃあ、1,2の3で。」
「どうした?早くやれ。」
「い、1!2の3!」
「火炎」
壁には小さな火球がぶつかり、火花程度の燃焼を散らした。
「がっかりだよ。」
鼻から期待してはいないのだろう。
言葉の隅にそれが感じ取れた。
「...火炎!」
サガミは暫し目を閉じ、呪文を唱えた。
熱波を感じる程の大きな火の砲丸が、同じ壁にぶち当たる。
それは留まる事なく、さらに奥の壁を壊して行った。
「あ...ヤベ、止める筈だったんだけど。」
「ああ!!サガミ殿!あの部屋は!」
ラオは恐れたような表情で驚嘆した。
「え...?俺またなんかやっちゃいました?」
「まあ大丈夫だって!治しとくからさ!」
ハリケーンでも過ぎ去ったかのような壁は瞬時に元通りに戻った。
「ええ!?サガミ様、もしかして時戻しの魔術も使えるのですか!?」
今度は哲学者のような名前の女が叫んだ。
「そんな驚かなくても良いだろ。普通に使えるし、なんならパスカも使えるだろ。」
「いいえ!時戻しの魔術などパスカには扱いません!」
「ちょ、おい!興奮するなよ、また変な言葉使いになってる。新人の前では冷静な魔術師でいるって言ったのはパスカだぞ?」
「時戻し...初めてみた...。」
「やっぱり転移者ってすげえんだな。」
月宮咲など居なかったかのように流れは進む。
サガミという転移者の能力を皆一様に驚き尊敬しているようだ。
「巻き戻り?...でしたっけ、それなら私も出来ますよ。」
その言葉で再び、スポットライトは咲に灯った。
「まあ、私も転移者の端くれだから。巻き戻りの魔術くらい使えるわ。」
「咲さん!もう止めましょうよ!魔術なんて使った事一度も無いでしょ?それに”時戻し”ですよ!」
「何ですか巻き戻しって、魔術に興味無いのバレバレじゃないですか。」
主人に忠言したのは能力のある奴隷だった。
「...火炎。」
再び台風一過となった面接会場。
サガミは寛容に咲にもう一度チャンスを与えた。
「全く、サガミ殿の魔術はいつ見ても素晴らしい。流石転移者、我々とは技術が異なる。」
「魔術ってのは俺らの世界の科学となんら変わらないんだよ。結局エネルギーをどう使うかって話だ。」
もう少し詳しく聞きたかったが、咲は会話を遮った。
「じゃあ、時戻しの魔術を見せますね?」
構成材料はサガミのお陰でおおよそ推測は出来た。。
爆発で吹っ飛んだ大きな欠片が、咲の足元に落ちたのだ。
コンクリートとプラスチック、前者はエレナの造ったそれとは比較にならない程の手心が加えられていた。
どちらもこの世界にはそぐわない材料だ。
「製造。」
壁は一部の隙間も無く元の状態に戻った。
新設された当時にまで”時”は戻ったようだ。
「ね?ほら!時戻」
ドンッ
サガミは机を拳で殴った。
神輿を担ぐ横の二人の面持ちも神妙な物だった。
「黙れ。」
静かに彼はそう言った。
咲には状況が理解出来なかった。
「ハッタリかますのもいい加減にしろ。バカにしてんのか?」
バカにしてるのはそちらだろう
そう答え無い程度には咲は落ち着いていた。
「魔術は使えば必ず痕跡がでる。お前があの壁を戻した時、その反応は全く無かった。」
「つまり、あれは魔術を介さない修復。どんなトリックを使ったのかわからんが、どちらにせよお前が時戻しの魔術を持たない事は明白だ。」
「マジでふざけんなよ? 俺を怒らせるんじゃねえ。」
「サ、サガミ殿...どうか落ち着いて。」
「サガミ様...。」
「サーーーガーーーミーーー!!」
雪融けを起こしたのは、朗らかな高音を轟かせる、夏の様に露出の多い女だった。
いつの間にか部屋に入ってきたようだ。
そいつはサガミに近づくと思いっきり拳を振るった。
「なんで私の部屋を壊したのよ!!それも二回も!」
「は...壊した!?もしかしてラオさんが言ってのってお前の事か!!」
「違っこれには理由があって!」
「言い訳無用!!」
二人は楽しそうにじゃれあっていた。
女の方は恐らく本気で怒ってないのだろう。
「あ!お兄さま!やっと見つけたのです!!」
「あらあら...サガミ様ったら、こちらに入らしたのね?」
「別にあんたを探してた訳じゃないけど!こんなところにいたのね!」
色とりどりの装飾を見にまとった、(一際目の引く)美しい女性らが部屋に入ってきた。
「だーーっ!!バカ!俺はまだ面接の最中なんだってて!」
「良いじゃないですか?ね?もう皆さん合格で。」
中でも最もたおやかな女性が言った。
「ちっ...まあ、いい。元々その予定だったからな。」
「俺が今回見たかったのは、お前らがどれだけ幸運かって事だ。」
「今回の面接で、”俺が面接担当”になった奴等を全員採用って事にしたんだ。」
茶番だ、とんだ茶番。
「ってことは...。」
受験者の誰かが口にした。
「ああ!お前ら全員採用だ!これからは仲間だ!」
「やったああああああ!!!!」
お祭りのような雰囲気が会場を埋めた。
「お兄様~。終わったなら一緒に遊びましょ?」
「いや!あんたは私に用事が!」
「早く私の部屋を直せ!」
咲は突っ立ったまま、その光景をただ見つめていた。
「はあ、サガミ殿が関わるとやはりこうなるのだな....。結局結局、若い内には元気が一番よ!」
「ラオさん!そんな事言ってないでこいつら止めてくれよ!」
結局周りの人間なのだ。
彼を敬い、彼を好んだ者だけの盤上...その決算がペルメテリア開拓公社だ。
彼は自分が居ない世界など、想い侍らした事も無いのだろう。
中途半端では中心に近付く事すら叶わない。
『彼は、彼を取り巻く物語のその全ての中心にいる。』
反抗する気はさらさら起きない。
目の前の転移者を取り巻く環境は、咲に審判を与えるには十分だった。




