振り切れた者達だけの檀上
「で、俺の隣のジイさんが鬼族のラオさんだ。クッソつええぞ。」
ケラケラと笑いながらサガミは言った。
ラオ、と呼ばれた人物は照れながらもこちらに頭を下げた。
「ラオ...ってまさか鬼族の長じゃ...?」
誰かがそう漏らした。
「その通り!ラオさんは俺の魔王征伐着いてきてくれたんだ。その縁があってペルメテリアで働いてもらってる。」
「サガミ殿には及びませぬが腕っぷしにはそれなりに自身があるのでな。自分こそは、と活力に溢れたものはここで試すのも...。」
「おいおい!ラオさん!やめてくれよ、ここが戦場かわっちまう!」
快活そうに笑うサガミを幸の薄そうな女が諌める。
「サガミ様、私の紹介を。」
「おう!こっちの静かな奴がパスカだ。」
同様に、パスカと名乗った瞬間に再びざわついた。
サクラでもいるんじゃないか、と疑う程度には面接官の名が挙がる度に彼らは持て囃された。
「お前らの中にも後輩がいるんじゃないか? パスカは妖精族の魔術学園を主席で卒業したんだ。同じ魔王征伐の仲間でもある。」
「魔術の才で言えばサガミ様には及びません...。」
「というわけだ。お前らは武術、魔術の相互から見させてもらう。俺は転移者だけど、アテにしないでくれ。」
咲は紹介されても名前を覚える気が毛頭無かった。
妖精だったか鬼だったか、そんな口先八丁の名詞も既に曖昧だ。
彼も彼なりに異世界での生活を営んで来たのだろう。
咲とは別の道を進んだ、そう割り切れば良いだけの話だ。
ただ少し、自身が歩んだ境遇との乖離が大きすぎて快くないだけ。
面接は着々と進んだ。
個人個人の名を読んで、自己紹介。担当者が気になった事を聞く。
これで一体何が測り取れるのか。
意図がわからないまま順番は巡る。
「じゃあ次はお前!」
そうして、咲の隣のエルフに順番が回った
「えっと...種族はエルフ、名をリンネと申します。」
おずおずと立ち上がり、ボソボソと喋る。
そんな性根でも無いだろうに、と咲は思った。
「あ、すみません...っ。今まで国に居た物ですから、この場での作法がわからず。」
「...そもそも服装どうにかならなかったの?」
「この試験自体、今日受ける事が決まったんです。」
「は...?いやいや、それはおかしいだろう。この試験は半年も前から執り行って来たんだぞ?」
ビーチュの言う様に情報は伝わっていなかった。
サガミは疑いの念をリンネに向けた。
「ビーチュさんから話が来てませんか? 推薦なんですけど。」
ビーチュの名を聞いたサガミは顎に手を置いて思案する。
「ビーチュ?どういう事だ...あいつはリディニアに居る筈だぞ?」
「リディニアでの務めの功労で、ペルメテリアの採用試験を急遽受ける事になったんです。」
「...なるほど。彼女の言うことは間違い無いようです。」
サガミの横の女が静かに言った。
「あ、こちら...私のステータスになります。」
リンネの掌中でくるまれた用紙がサガミの手に移る。
それが彼の目に止まった瞬間、サガミ以外の面接官リンネの方に顔を上げた。
「これ、本当に君のステータスかっ!?」
何も恵まれた能力は別の道を歩んだ者の専売特許ではない。
奴隷として埋もれる筈だった者にだって、添付されてる場合もあるのだ。
「魔術や武術はペルメテリアでもトップクラスですよ。それに...希少な星属性の魔術が使えるなんて...!」
流れはこちらに移ったようだ。
散々驚嘆の声を受け取った彼らは、逆にリンネの素質に驚きの声を上げた。
「...ごほんっ、『本日は このような場を 開いて頂き、誠にありがとうございます。 私、エルフの国で 姫という立場にありまして。』」
「『多様な教育を 受け入れる環境に 身を置いておりました。また、武術に関しても 同様にございます。』」
不自然な位区切りの多い言葉だった。
サガミも同じ感想を覚えたようだ。
だが、周りの種族は違った。
転移者にはリンネの芸当が理解出来なかったのだ。
「この通り、私は十種族の言葉を話せます。今は文節毎に区切りましたが、それぞれの言葉でもう一度言いましょうか?」
リンネの表情は達成感で満たされていた。
一枚の紙と数行の言葉で会場の雰囲気をひっくり返したのだ。
この顔を見るに、最初の籠ったような話し方にも意図があったのだと思う。
変に小細工せずともリンネの能力は広く認められるのに。
「いや...他の者の表情を見るに貴公が全ての言語を話せる、という事に誤りは無いのでしょう。」
今までの進行とうってかわり、ラオがリンネに言葉を返した。
「それにこの能力値。ビーチュ殿に助力した、というのも嘘だとは見えませぬ。」
「全く...主人より輝いてどうすんのよ。」
「えへへ、あんなに担ぎ上げられると思わなかったので。」
「たまには良いんじゃない? 正当な評価を受けるのも、ね。」
リンネは嬉しそうな顔をすると咲に笑みをこぼした。
「ヤレヤレ、とんでもない新人が今年は入りそうだな。」
サガミの調子は変わらないままだった。
クールを気取っている、というのは勝手な懐疑だろうか。
「じゃあ、次の」
「月宮咲。」
サガミが進行するよりも早く、咲は言葉を交わした。
無愛想な返答は、会場の浮わついた雰囲気を一瞬で冷め殺した。
「はは、随分食い気味だな。種族はなんだい?」
「...あなたと同じ、10人目の出遅れた転移者よ。」
たった今、本来見合った羨望を受けるべき能力を持った者への評価は終わった。
能力に見会わない肩書きを受け取った者の審判が始まる。




