表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/319

逆位相の転移者

「はい!すみません、すみません!」


踏み出す事を恐れていても、状況はビーチュの手によって変化し続ける。


「あ、ちょうど良いところに来たわね、グローリア。」


端末を手に持ち、謝罪を述べていた女性にビーチュは声を掛けた。


「すみません。後でかけなおします!」


「ビーチュさん、お久し振りです。」


グローリアと呼ばれた女性はビーチュの元に駆け寄ると、適当な挨拶を交わした。


「あなた確か人事に配属されてたわよね?」


「ええ、去年の異動の際に。」


「ちょうど良かったわ。私の後ろに居る二人を待機場まで連れていってあげて。」


「...?。ああ、その方がビーチュさんの推薦の...。」


一瞬困惑したような面持ちだったが、情報を繋げられたようだ。


「そういうこと。本当は私が行った方がいいんだけど...。」


「ああ、ごめんなさい。速水が呼んでるわ...それじゃ、任せたわよ!」


ビーチュの別側面を見た気がした。

普段はおっとりしている癖に、何か火がつくとかなり迅速に行動を移すようだ。


「それでは、ええと?リンネ様とツキミヤサキ様...こちらにどうぞ。」


カタコトで呼ぶ姿に、リディニアでの獣人の姿を重ねた。

そういえば結局彼女には別れの挨拶を交わさなかった。


そんな事を思う余裕を持ちつつ、グローリアの跡に続いた。





「ビーチュの言ってた139階って倍率の比喩じゃなくてマジの階だったのね。」


結局カードキーを使う事は無かった、が見ただけでもペルメテリアの技術力が元の世界に近い事が推察できた。

直通エレベーターはものの数十秒で136階に咲を持ち上げた。


「気圧の変化による体調不良等は御座いませんか?」


「あ、大丈夫よ。つい最近、ここより高い所に居たから。」


「そうですか。」


転移者が創設に関わっているだけはある。

内部は元の世界の一般的なオフィスをトレースした建築だった。


側に異世界の者が居なければ、都心のビルと考慮しても差違は無い。


ついでに気づいたが、グローリアと名乗る女性の制服もまた、スーツに近い物であった。


「こちらでお待ちください。ツキミヤサキ様とリンネ様は最終グループにございます。空いている席でお待ち下さい。」


扉を開けると、多種多様な様相でありながら全員が黒と白を基調とした清潔感の溢れる服飾に身を包んでいた。


本来居るはずの無い二人に、全員がその視線を向けた。




二人分の空いた席に座ると、改めて自分達が場違いであると認識させられる。


気楽な心情であっても、やはり重圧を感じられずには居られなかった。


「すぐ戻る。」


その一言を残して咲は待合室を出た。

王城でまともな正装をもらえば良かった、と悔やみながらパーティードレスを平つかせて扉を開けた。


「はい、すみません。ええ、はい、すぐに。」


端末を耳に寄せて必死に謝り続ける女性の姿が映った。


「はい、ではまた。」


区切りよく会話が終わったようだ。

端末をポケットにしまうと、グローリアはこちらを向いた。


「どうかされましたか?ツキミヤサキ様。」


「ツキミヤ、で良いわ。それに私は採用試験を受ける側だから『様』も要らない。」


「そういう訳には行きません。なんてたってビーチュさんの推薦人ですから。それなりに身分が高いのでしょう?」


「ああ...誤解よ。私はビーチュに認められただけの一般人。」


「そうですか。それで、ツキミヤさんはどうなされたんですか?」


真面目な人、いや人であるかのか判断はつきかねないがグローリアの第一印象は決まった。


「あそこの雰囲気が重苦しくて。ちょっと空気を吸いにね。」


ああ、と納得した様にグローリアはこぼした。


「あの場に居る方々は、互いに敵同士だと思ってますからね。部屋の中の...ほんの一握りしかペルメテリアには入れませんから。」


それなら敵同士思うのもおかしくはない。

彼らの人生がこの場にかかっているのだから、待合室が妙な雰囲気であっても不思議じゃない。


異世界であるはずなのに、なぜこうも元の世界の片鱗を味わわなくてはならないのだろう。


グローリアは会話が終わったと判断したのか、すぐさま端末を操作し連絡を取り始めた。


咲は黙って待合室の方に歩みを進めた。





「あ、戻ってきた。」


「結構少なくなったわね。そんなに外してた訳でも無いのに。」


「次か、その次が最後みたいです。」


周りの席には誰も居なかった。

そのお陰か、異様な雰囲気は幾分まともになっていた。


「では、残りの方々、面接場に案内致します。」


帰ってきたと同時に最後の呼び声が掛かった。


「いきましょう、咲さん。」


リンネも空気に当てられたせいか、少し体に緊張が見てとれた。




今までの手順が元の世界の入社面接と変わらないのか、咲は知ることはない。

ただ、ドレスコードを間違え、必要な書類も無い現状は誰の目から見てもおかしい事は確かだ。


「お入り下さい。」


その言葉と共に一列に並んだ最終グループが、一つ上の階の大きな広間に入っていく。


最後尾に位置した咲とリンネが入場した途端、場の空気が変わった事が感じ取れた。


担当者は三人、中心に若い男、右に恐らく種族が人間ではない女、左に男よりも年老いたこれまた人間ではない種族の男。


最後に咲が座った瞬間、真ん中の男が口を開いた。


「やあ、今日は来てくれてありがとう。」


「面接を行う前にこちらの自己紹介をしておこう。」


若干の不快感を思わせる口調で男は話を始めた。


「俺はペルメテリア開拓公社のNO.1。ま、つまりトップのサガミケンスケ。」


その名を聞いて悟った。

ペルメテリア管理者であり、魔王征伐を成し遂げた英雄。


そして、サガミは続ける様に単語を付け加えた。


「異世界からの転移者だ。」


そう言えば誰もが羨望の眼差しを向ける事を知っているように、サガミは勿体ぶって発した。


事実、会場は『転移者』が目の前にいるという事で湧いた。

誰も口には出さないが、誰の瞳も英雄を目の当たりにした色に変わっていた。


だが、同じ転移者でありながら、一度もその経験の無い女の目には確実に違う色が籠っていた。


「気に喰わねえな。」


そうポツリと呟いたのを、隣に居たリンネは確かに耳にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ