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負けられなくなった戦い

軋む客間のなかでいつまでも続くような静けさが辺りを包む。

均衡を撃ち破ったのは、急激に停止した馬車の爆音だった。


客間全体が力を強引に支えて内部の平穏を保つ。


ビーチュとリンネは突然の衝撃に姿勢を崩した。


土埃舞う中、ビーチュはよろめいた姿勢を正して基盤の前に座った。


「もうちょっと安全に止めてくれない?」


ガタッという音と共に客間の扉が開いた。


「参ったな、安全性に十分配慮した上での行動だったんだが。」


そこにはもう一人の転移者、速水俊一が立っていた。


「おっ、先客が居たのか...ってなんだリンネと咲じゃないか。」


「彼女達もペルメテリアに向かうそうよ。」


それを聞いた速水は硬い表情崩した。


「そうかそうか!!採用試験を受けるんだろ?お前らなら大丈夫だよ!!」


速水は嬉しそうな笑みを顔に映しながらビーチュの隣に座った。


「お?なんで咲はリンネの膝枕で寝てんだ?また甘やかされてるのか?」


「寝付きの悪そうな態勢だったので、私の身体を貸してるだけです。」


「なるほどな、お前らは本当に仲が良いんだな。リディニアでもずっと一緒に居たしな。」


リンネの口調は戻っていた。


馬車は気付かぬ内に再び走り始めていた。

既にエウレア王国の影は見えなくなっていた。





「そろそろ見えるんじゃないかしら?」


咲を除いた三人の会話のなかで、ビーチュは一時的に生まれた隙間に差し込む様に言った。


「ペルメテリアか...そういえば俺達も一年振りだな。」


客間から顔を出すと、広がる草原の中で一区画だけ不自然にものの溢れた立地が見えた。


「あれがペルメテリア開拓公社...!?」


リンネは驚嘆の声を漏らした。


「『公社』なんて名前だから精々大きな建物が一つあるんだと思ってました...。」


「ああ、そうか...それが普通の感性だよな。」


リンネの目の前には、乱立する高層ビルが雑草の様に群生する光景が映った。


「え?あのなかの一つがペルメテリア何ですか?」


「いいや、違う。あそこらの建物全てが『ペルメテリア開拓公社』の名を冠してる。」


「社員の居住スペースに娯楽、外食、買い物。ペルメテリアの中で何でも出来る様にしたら...ああなったのよ。」


徐々に全景を顕にするそれは、リディニアよりは小さいものの一つの組織の拠点としては比類のない、営みの総括区であった。







正門から脇に逸れ、四人を乗せた馬車は守衛室の側を通り駐車場にその進路を定めた。


「咲さん!!着きましたよ!ペルメテリアに!」


「...あ?ああ?」


寝ぼけ眼で意識を取り戻した咲は、しばらく動かなかった。

が、次第に自分の視界がおかしな事に気がついたのだろう。



横に向いた世界。手のひらで支えていた頭部は、重力に抗うこと無く柔らかい何かに横たえている。


冷静さを取り戻すと同時に、完全に覚醒していた。


「リ、リンネ...?私...どうやって寝てた?」


「今まで目が覚めなかった事から察するに~、エルフの膝枕はお気に召したようですね~?」


「なっ、いつからだ...。」


「おはよう咲。」


「あれ?いつの間に速水が乗ったのよ。」


「いつまで話してんのよ!早く降りて!」


先に降りたビーチュは焦れた様に声をあげた。




「はいこれ。」


ビーチュが差し出したのは二枚のカードだった。


「なに?」


「社外者用のカードキーよ。それでペルメテリア入れるわ。」


「ありがとう、いつ持ってきたの?」


「馬車の中でもたついてる間に守衛室に寄ったのよ。」


少し離れているが、簡易的な門の前に小部屋が見えた。

中の様子は窺えないが、小窓からガタイの良い生物が見えた。


「あれ人間じゃ無いわよね?」


「忘れたのか? ここは異世界だ。だから守衛も異世界に合わせてリザードマンだ。」


速水の言う事は良くわからなかったが、守衛が爬虫類ベースの人形であることは間違いないようだ。


「速水は8号館に用があるんじゃないの?」


「おう、そうだった。リディニアの報告があったんだ。」


「彼女達を案内したら私もすぐ行くから先に行ってて。」


「OK、じゃあまた会おうな!リンネ!」


「私には何も無いのかよ。」


「あと咲!お前らなら受かるさ!」


その言葉を最後に速水は馬車のすぐ後ろの扉から姿を消した。


「さて、私たちも行きましょうか。ペルメテリアの諸々は歩きながら話すわ。」




「間近で見ると凄いわね...技術の進歩を感じるわ。」


咲は見上げながら呟いた。


「ペルメテリアは全部で14号館から構成されてるの。」


「と言っても、あくまでも現状はね。これから増えるかもしれない。」


「私達が今向かってるのは現在進行形で採用試験が行われてる1号館よ。」


「飛び入りで参加出来るもんなの?」


「無理よ。ここは世界の叡知を結集すら平和を求める組織よ?まともな手順を踏まないと、部外者がこの土地に足を踏み入れる事すら叶わない。」


「...踏み入れてるってことは、まともじゃない手順を踏んだのね?」


「これでも私は重役に着いてるからね。なんとでもなるのよ。」


「でもさ、そんな大きな組織なら尚更途中参加なんて無理じゃないの?」


「本社で行う位だから、最終も近そうだし。」


「御明察。現在採用試験は、最終段階。重役がわざわざ顔を出して面接を行うの。」


「なんだ無理じゃない。リンネ!帰ろう!」


「ちょちょ、ちょっと待って!だから私が居るんじゃない。」


「貴方達を『私がリディニアで直接スカウトした者』として最終面接までぶち上げてあげるわ。」


「私のお墨付きがあればきっと大丈夫よ。」


「大丈夫なの...?それ...。」


「事実、貴方たちがリディニアに居なければあの騒動はまだ解決してない。だから嘘は吐いてないわ。」


「見えた!あれが1号館よ!」


「何でそんなに焦ってるのよ。」


「言ったでしょ、面接はもう始まってるのよ。」


「複数人を一グループにした集団面接方式でね。」


「月宮さんとリンネは、最後のグループに入れるわ。恐らく同グループの者からは明らかに不審がられるけど気にしないで。」


集団面接という言葉を聞いて、実感の無かった採用試験が輪郭を付けた。

付けたところで咲の心情は全く変わらなかったが。


「じゃあ、面接する側は私達がリディニア異変解決のキーマンって情報が行ってるってこと?」


「恐らく伝わってないと思うわ。月宮さんが転移者、という情報もね。」


「なるほど。色眼鏡の無い状況で望むって事ね。」


「そういう事。あ...一つ忘れてた。」


「リンネは昨日貰ったステータス表持ってる?」


リンネは横に歩く咲の鞄を開けて、中を探った。


「私にはプライバシーが無いのかしら...。」


「ありました!」


「私は持ってないわ。」


「最終段階で急遽参加するわけだから、面接管側に少しでも貴方達の情報を送りたかったんだけど。」


ビーチュは後ろを続く咲の顔を覗きこみ。


「まあ、大丈夫でしょう!!」


代替策が思い付かなかったのか、そう叫んだ。


この世界で始めて目の当たりにする自動ドアを越えてロビーに進む。


映画で見るような大企業の受付嬢が居る以外には、この日が最終面接だと思えない程閑散としていた。


「あ!ビーチュさん!お久しぶりです!」


「久しぶり。ところで最終面接ってもう始まってる?」


「はい、30分程前に...後ろの方は?」


受付嬢は首を傾けてビーチュの後ろに立つ二人を見た。

彼女も人間ではないのだろうか、皮膚が煌めいていた。


「採用希望の人間よ。私の推薦よ。」


その言葉で受付嬢はビーチュが厄介事を持ち込んだと悟ったのだろう。

顔を強べて手元の端末を手に取った。


「...人事の方に連絡します。」


「ねえリンネ。もしかしてビーチュがやってる事ってかなり騒ぎになるんじゃないの?」


「まあ...決勝戦が始まってるのに決勝直通のシード権を作ってますからね。かなり...どころじゃ済まないと思いますよ。」


二人がそんな世間話をしているなか、ビーチュは多方面に連絡を繋いでいるようだった。


「はい、どうもありがとうございます!!ええ、はい!」


「不味いわね...声色の調子が上がったわ。無理やり私達を

通したのね。」


リンネに耳打ちした瞬間、ビーチュは咲の方に振り向いた。


「おめでとう!貴方たちが最後の最終試験到達者よ!」


「おめでとうって...ビーチュが色々手回ししてる一部始終見てたんだけど。」


「まあ、色々問題はあるでしょうけど、ここから先の壁を突破できるかは貴方達次第よ。」


「問題あるんじゃないの。裏口から入りたいほどペルメテリアに興味無いわよ。」


「私は裏口の扉は開けてない。正当な評価を元に、正しく迎え入れる正門を開いただけ。」


強引過ぎる言い訳だと思った。

その正門は本来閉まっているはずなのだから。


「あなたたちがその敷居を跨げるかどうかは未だ決まってないのよ。」


「さあ行きなさい!地上139階の頂きを手に入れるのよ!」


ビーチュの声援は喜ばしい物であった、が。


「ねえ...これって後に引けなくなったんじゃ...。」


「私達が受からないと、ビーチュさんのメンツ丸潰れですね。」


つい数分前までは気楽な面持ちだったはずなのに、二人の心は緊張の糸で張り詰めていたのだった。


ビーチュがどれ程の大きさまで事を大きくしたか分からないのだ。

ただ少なくとも、ペルメテリアで実権を持つ者を複数巻き込んでいることは事実だろう。


実力不足で受かりませんでした、そんな結果で事が収まるとは思えなかった。

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