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変わらぬ基盤

「論功行賞です。月宮様のリディニアでの功績を鑑みれば妥当で御座います。」


そう述べたメイドは、追加の飲み物を運んだ他のメイドを迎え入れた。


「使用人って言うのはどう言うこと?」


言葉足らずだったために、書類を置いたメイドは一瞬思案し口を開いた。


「王城に仕えている者を数名リディニアの邸宅に住み込みで勤務させて頂きます。」


「家事などの雑務は勿論、月宮様からの私的な要望にも応えさせて頂きます。」


「また、使用人への給金は王城で支払いますのでご安心下さい。」


生活という面では最高報酬だろう。

ただ、一つ重大欠点がある。


「リディニアの土地と邸宅か...。」


彼女らはこれよりペルメテリアへと向かうのだ。

詳細な地理は知らずとも、それが少なくともリディニアで無いことはわかっている。


「それでは、本日お休み頂く客間へとご案内致します。」


一考する咲を尻目にメイドはそう告げた。

三人は腰をあげ、応接間から出ていくメイドの後に続く。


用意された飲み物には誰も手をつけていなかった。



「こちらに御座います。」


用意された客間は、一度寝泊まりした理解の高級ホテルを思わせる雰囲気が漂っていた。


「なんで三人一室なのよ!」


「まあいいじゃない?メイドも私の部屋を用意して無かったし。」


リンネは答を返さずに火山の報告書に目を注力していた。


「では、私共は失礼させて頂きます。何か用がありましたらお呼び下さい。」


咲はそそくさと立ち去ろうとするメイドの肩を掴み、ビーチュに聞こえぬよ耳うちする。


「ねえ、さっきのリディニアの件だけど。」


「はい?」


「私じゃ無くても使用人のサポートは得られるのかしら?」


「恐らく、邸主は月宮様という事になりますが、その同居人と言う形で受けられるかと。」


「...私は多分そこに住まないんだけどさ。一人そこに置いておきたい奴がいるのよ。」


「その方の詳細をお伝え下されば、こちらで手続きを通しておきますが。」


「詳細か...ちょっと詳しく外で話さない?」


ビーチュの目を気にした咲は、メイドと共に外に出た。

リンネと共に残されたビーチュの表情は、心なしか罪悪感に苛まれているようだった。




「私の友人なんだけどね、その人事故に会っちゃって失明してるのよ。」


住まわせたい人物とはエレナの事だった。

世間一般では死亡という表札でまかり通っているために隠れ家が必要だと思ったのだ。


「で、その人詮索される事を好まないからさ。あんまり私から情報を伝える訳にもいかないし。」


「使用人って守秘義務とかってあるのよね?」


「つまり、住まわせたい者がいるが如何なる情報も伝えられず、かつ同居する上で得た情報を漏らさないか、という事ですか?」


「そうそう、流石王城メイド。頭の回転が早いわね。」


「出来ますよ、私から口の堅い者を見繕っておきます。それと、あまりその方の情報は王城内でも出さない方がよろしいですか?」


「そうね。あまりその人の存在を広めない方が嬉しいかな。」


「なるほど。では、その御人の外見等はわかりますか?最低限で構いませんので。」


随分と物わかりの良いメイドだな、と感心していた。

王城での咲の評価は低く、こんな胡散臭い提案をすれば即却下されると踏んでいたのだが。


「変わらなければ黒っぽい服だと思うわ。」


そんな奴はリディニアにごまんといるわ。

もうちょっと狭める条件を出せないのか。


「く、黒っぽい服...ですか?」


案の定メイドは困惑していた。


「あとまだ大聖堂にいるんじゃないかな。」


「わかりました。使用人の選定とその方の保護を遂行致します。」


「色々注文つけて悪いわね、よろしく頼むわ。」


軽い礼を告げ、メイドを通り過ぎて客間へと引き返す。


「エレナを助けてくれたんだから当然よ。またね、『あいつ』じゃ無い時に会いましょう、月宮ちゃん。」


何かを聞いた覚えがした咲は直ぐ様振り返ったが、そこには誰の姿も無い静かな廊下が続いているだけだった。






「ただいま。」


客間を開けると、淀んだ空気が流れていた。


「月宮さん、ペルメテリアの採用の話に戻るのだけど。」


背もたれついた椅子に身を預けると同時にビーチュが言葉を発した。


「ああ、採用試験なら大丈夫よ。」


特になんの準備していないが、出任せの言葉だった。


「合否についてじゃなくて、もう試験って終了しているんじゃ無いのかしら?」


「しばらく戻っていないからわからないけれど、一ヶ月後に改設の式典が執り行われる筈よ。」


「入社式もそれが含めてた筈だし、一ヶ月前に未だ採用を募ってるよと思えないのよ。」


「人手が少ない訳でもないし。月宮さんはまず今年は入れないんじゃ無いのかしら?」


言われてみれば、というものだった。


「でも...私転移者だし。」


それでもその一点に賭ける他無かった。

転移者だからなんとかなるだろう、という甘い考えが咲の中にはあった。


一方で、何が何でもペルメテリアへ加入したい訳でもないため、時期が悪かった事を理由に加入を見送っても良いと考えていた。


「入れなかったら入れなかったで良いわ。また別の事をするわよ。」


「いえ、駄目です!ペルメテリアには絶対加入しなければなりません!」


今まで報告書にだけ目を向けたリンネが咲の甘さを絶ちきった。


「ああ!?なんでよ!」


リンネは手元の報告書を咲の方に投げた。

その目は見ろ、と言わんばかりに睨みつけていた。


「死傷者...無し。火口近辺において、噴火の影響と思われる重大な認識阻害が起きているため原因は不明である。」


「しかしながら、エスティア街道における目撃者の証言から噴火はかねてより観測された多数の活動類似点が多く、自然現象の可能性が高い。」


「今後の調査は重大な認識阻害の影響で進展の見込み無く、今回を以て終了とする。」


「やっぱり、王国も体した情報を持ってないのね。」


「現時点で、人工的な噴火、という観点で観ればこの国が噴火の元凶である可能性ゼロではありませんが限りなく低いです。」


「ですが、その可能性はあの噴火が『自然現象』で有ることと同一です。」


「あの事件を調べるなら、多数の転移者、ならびに種族の政府が関わるペルメテリアは最適だと思うんです!」


確かに、人間が元凶でなくとも他の種族が、という可能性は大いに存在する。


「じゃ、当面の目標はエスティア街道近辺の火山噴火の調査。」


「その為にペルメテリアに加入するってことで良いのよね?」


咲はリンネの意思を確認するように、一言一言はっきりと発した。


「その通りです。()()()()()()()()()()、咲さん。」


リンネは咲の心情を悟っているためか、含みをこめて言葉を返した。

ビーチュはと言うと、決意を固める二人を黙って見つめている。


咲がペルメテリアへと加入する為の基盤が、着実に出来上がりつつあった。

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