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再びの奴隷市場

「ひっ、やめて下さい。」


必死に懇願する、二日連続で命が危ぶまれるとは思わなかった。


「安心しろ、殺す気は無い。動かなければな。」


「動きません、動きませんから...」


「そうだな、まずは君を半ば強引に君を追い出した理由についてだが。」


私が弱かったからだろう、と言いたいが言わない。

脇腹に銃口が不用意な発言で火を吹きかねないからだ。

打開策を見出すまでは閉ざしておこう。


「異世界転移者の召喚は全員が全員賛成と言う訳ではないんだ。

強大な力を持つからな、人類の希望にも絶望にもなりうる。」


「城のなかにも否定派は少なからず存在する。

他の勇者と同じく恩恵を授かっているのなら否定派は君の存在を許さないだろう。


だから王は、なるべく君の能力が脅威とはならない数値だと見なすことで、否定派の目を欺こうとしたんだ。」


「まあ、わざと低いように公言する必要は無かったがな。」


男はこちらを見てニヤリと笑う。


「だが、実際は君は恩恵も受けておらず能力値も人より高い程度だった。

このせいで新たな問題が発生した。」



「君は転移者でありながらこの銃に抵抗できないように弱すぎたんだ。


だからこそ、否定派も転移者推進派も君を武力でコントロール出来てしまうんだ。」


「王を含む推進派は、君の安全を守るために一先ず君を城の外に出すことに決定した。

否定派はこのアタッシュケースの存在を知らないからな、君の居場所は推進派だけが認知できる。」


「ここまではわかったかな?」


首を縦にふった。

単に城での待遇が面倒だから追い出した訳ではなかった。

ならば私を守るために...銃口を向けているのだろう、そう信じたい。


「次はそのアタッシュケースについてだ、本題に入る前に色々と知っておいた方が良いからな、もう少し聞いてくれ。」




「そのアタッシュケースにはな、王国の図書館に埋蔵されている全ての情報が入ってるんだ。

転移者の力も借りてやっと完成したのさ。」


ケースの言語が英語であったことに納得がいった。転移者がケースの作成に携わっていたのだから異世界の言語があってもおかしくない。


「情報以外にも機能はある。君の服装を見る辺りもう使ったのだろうが、部分的にこのアタッシュケースと城の一部の部屋は空間を共有している。」


元の世界のクラウド機能みたいなものを想像した。

魔法が使えるこの世界では容易いことなのかもしれない。


「機能が多すぎて俺も把握できてないんだ、使ってるうちに把握しておいてくれ。


「その一つが今見てる位置情報だな。」


人口衛星でも飛ばせる程この世界は科学が進歩しているとしたら私に出番はない。

異世界転移は文明の低い世界で活躍するのが定番ではなかったのか...


「原理はわからねえ、ただ空気中の微少ば魔力を使って地表を測量してるみたいだ。

他の勇者に関してはそいつが持つ莫大な魔力を観測しているだけらしい。」


よかった、まだこの世界は宇宙に進んではいない。


「どの魔力がどの勇者かは魔力の波で観てるみたいだ、個人の特定はすんでる。

位置情報で使えるのは勇者だけだ、個人の魔力だと計れるほどじゃないからな。」


文明度数が高いのか低いのかわからない、少なくとも元いた世界との進歩は別ベクトルだと思う。



「取り敢えず城から指示された説明はこれで終わりだ、本題に入るぞ。」



「地図を見たとおり、勇者は世界規模で離れてるだろ、これは王国にとって予期せぬ事態なんだ。」


「元々は九人で最北の魔王の元に向かわせようとしていたんだ、王国からも何百人の師団をつけてな。」


「勇者が王国のコントロールを外れば最悪の事態も起こしかねない。

だから最初の3ヶ月は城の中で教育して、上手く統制してたんだ。」



「やっと来た出立の朝、数百人以上の兵隊を付き添わせる手筈だったんだが、九人は忽然と姿を消した。」


「その頃にも否定派は存在したから、王国はその事態を公表せずに無事に出発したと宣言した。」


「王国は転移者の力を使って情報の永久保存やらなんやらに手をかけててな、つい一ヶ月前に完成したのがそれだよ。」


男はアタッシュケースを指差した。


「城の情報局は魔力の観測を使って他の勇者の位置を割り出した、これで再び統制下に戻せると思ったんだ。」


「でも、あいつらは並の人間が訪れるには到達できない環境だったり、他種族の領土に居たんだ。」


「勇者を訪れるには大規模な人員を動員しなければならない、しかしそれを行えば否定派に怪しまれてしまう。」


「そこで偶然遅れて召喚されたのが君だ。

君は他の勇者と比べて能力は低いが、並の人間と比べれば高い。」


「他の環境にも耐えうるし、他種族の領土間を行き来しても問題にはならない。推進派にとって状況を打開さる最高の存在だ。」


「だから、君には他の勇者の元に向かってほしい。もう一度集めてほしいんだ。」


完全に王国がしでかしたことの尻拭いであった。

我慢出来ずに口を開く。


「はあ?なんであんたたちの不手際を私が拭わなきゃいけないのよ。管理を行った落ち度でしょ。」


「まあそういうと思ったよ。だけど忘れるな、君は既に推進派の統制下だ。

君は弱い、だからこうして銃口を向けられてなにもできなくなっただろう?」


脅迫だ、推進派も否定派も同じようなものではないか。


「大体、他の勇者が魔王討伐に乗り出さなければ人類は侵略されるんだぞ?」


「まあ、確かに。」


「君は魔王を倒す危険は背負わなくて良い、その代わり九人を説得しろ。」


「どうせ、選択権なんてないんでしょ。」


「やる気があってよかったよ。そのためにこのアタッシュケースを君にあげたんだから。」


「そうさ、君がこの世界に来てすぐにこの計画は決まったからね。」


私が来てすぐ、意思なんて関係ないのだろう


男は地図を見る、一番近い点を指差した。


「最初はこいつの所にいけ。転移者のなかでは一番年上の女性でな、穏やかな性格もあいまってみんな彼女を頼りしてたんだが。」


映し出す点は人類の領土からも近い。


「これくらいの距離なら数人くらいで行けるんじゃないの。」


「王国もそう思ったんだがな、三人一組の部隊は八回だして帰って来た者は一人もいない。」


「ええ?もとから王国に不満があってそれを機に逃げ出したんじゃないの。」


「そんな筈はない。適切な人間で構成された部隊だったんだ。」


「なるほど。それなりに気を付けるべきね。」


「ああ、そうだ。この任務に携わるに当たって、王国からの援助は期待するな。

君との接点をつくれば否定派にこの計画が露呈する恐れもあるからな。」


「ええ!?資金とかないの!?」


「自分で稼ぐんだよ。アタッシュケースの情報があれば容易いさ。」


「丸投げじゃないの!私はさっきもいったけど王国の尻拭いをするのよ?少しくらい援助を回してくれたって良いんじゃない?」



「だから、君にもメリットはあるだろう?それとも君が魔王の所にいくか?」


「別に私はこの世界の人間が魔王に侵略されて家畜みたいな扱いを受けても気にしないわよ?

ああ、侵略される前に否定派の人間に全部バラすのもいいわねえ!

クーデター起こされて推進派の人間は軒並み処刑台行きよ?」


「何言ってんだよ、そんなことしたらどうなるかわかってるだろ?」


男は銃で脇腹を押した。


「小さな銃で脅すだけでしょ?そんなもので統制下に入れたつもりなら王国の人間は傲慢ね。

そんなんだから他の勇者に逃げられるのよ?もう少し頭をうまく使いましょうねえ?」


「お前、俺が撃たないと思ってるだろ?止むを得ない射撃は許可されてるんだぞ?」


「この世界の人類は魔王の侵略を待つしかできないくらい弱い癖に、武器を持たない一人の少女に対しては随分強気に出られるのね?」


「異世界から来たからってあまりこの世界の人類を愚弄するなよ。」


「待つしかできない、は言いすぎたわ。無力だから他の世界の人間に縋るしかできないのよね。」


手元に収まるサイズの鉄クズを造る、王国の人間は私のスキルを知らないはずだ。


「お前いい加減にしろよ。恩恵ももたねえ雑魚が。」


男はとうとう咲の頭に銃をつきつける。その異様な光景に少しづつギルドの人間が足を止め始める。


「勇者の管理に失敗してその雑魚に頼ってるのは何処の種族かしらね。そこから得た教訓が武力で脅すなんて面白いわ。」


「ほら、撃ちなさいよ。私がいなくなったら王国内で推進派の立場がなくなるだけ。」


男の方に手をひらげながら体を向ける。できる限り大きな声を出したために二人の周りは人だかりができていた。

だからだろう、この男は銃口を引くに引けなくなっている。


全員の目が壁際の二人に集中している、男も咲を見つめる。


緊張感が最大限高まった瞬間に周囲に高音が鳴り響く。

手に包んだ鉄クズを落として一瞬だけ隙をつくった。


「なんだ!?」


咲の正面の男が視線を移した。


両手で男が持つ銃を掴み、強引に人々の方に向ける。

引き金においたままの男の指に力をかけて撃鉄を起こす。


「ぐううう!!」


運良く弾丸は近くにいた男の太腿を貫いた。


あたりは騒然になる、ギルドの中で冷静を保つ人間は咲一人であった。


すぐさまアタッシュケースを持って席を立つ。男は我を取り戻すのに一瞬遅れてしまう。


それが命取りであった。


「クソ、見失った。」


「局長、ダメです。この騒ぎの中で他の局員も機能していません・・・」


銃をしまう男に近くに座る男が話しかけた。


「すぐさま外の人間に伝えてこの辺りを包囲しろ!!」








「はあ、はあ、はあ...」


とにかく走った、昨日のあそこなら検閲は及ばないだろう。

おいてきたリンネはその内ついて来るだろう。


奴隷市場、そこならなんとかなるかもしれない。

先ほどから移動に使える道具を想像してみたが製造できない、走るしかないようだ。



「うう、気持ち悪い...運動不足だからかな...」


まだ目的地は見えない、昨日あるいた距離から考えれば半分をすぎたくらいだ。

王国の人間が来る迄に逃げなくては...


恐らくギルド内には推進派の人間が多数いただろう。

既に勇者を逃がしてしまっているのだから厳重にするはず。


だからこそ隙が生まれる、余りある人員資源は余裕へと繋がり容易いミスを犯す。


粗製銃(3Dプリンターガン)ではダメだ。製造に失敗するし。撃つ前にバレる可能性があった。


だからできるだけ大事にして人を集め、銃というアイテムを見せて緊張感を出し、最良のタイミングで混乱を起こす必要があった。


何度も演算処理を用いて最大量の音を放つ最小の道具を作り出した。


運に頼る所もあったが、危険ば綱渡りは成功に終わった。


あとは後片付けを終えてこの場所を離れなければ、王国の手が届かない...


「さっきの点、どこだっけ。」


少し大きめの石に腰を下ろす、休憩がてらアタッシュケースを開いて確認する。


「確か、ここの...エレナ・フィッシャー?」


名前と情報が映し出された、詳細な情報をみようとしたとき咲に声をかける者がいた。


「主人様~突然いなくならないで下さいよ~。契約のせいで離れると死ぬほど痛いんですから。」


さっそく主人を見捨てた奴隷がそこにいた。


「よく帰ってこれたわね。」


「痛いんですもん。あ、それと何人かこっち来てますよ。」


「はあ!?あんた連れてきたんじゃないでしょうね?」


「どうでしょう、それよりも急いだ方がいいんじゃないですか?」


息を切らした今、全く従順ではない奴隷に罰を与える気力は無い。


リンネ言うことが嘘か真か不明であるが、震える足を奮わせて立つ。


「これ重いのよ、持って。行くわよ。」


周囲になにもない一本道を再び歩く。

宛もなく、逃げるために。










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