幕引かぬ舞台
「何でそんなに王城に行きたくないんですか?」
露骨に嫌悪の形相を表する咲を前にリンネは告げた。
「王城っていうか、王様その他諸々に会いたく無いと言うか。」
当然だ。
転移して早々恩恵が無いからと追い出され、ギルドでは政争の駒として巻き込まれかねなかった。
また咲は、魔王打倒で呼び出されたにも関わらず(一般人に危害を加えて)逃亡、という愚行をしでかした転移者だ。
王城にとって歓迎するような存在ではない。
王城への気まずさと共に、気にかかる点がもう一つあった。
「なんでリンネは乗り気なの?」
「えっ? 乗り気に見えます?」
乗り気といっても、王国の歓迎を楽観視している物ではない。
何か別の目的を果す為のように思えた。
「視界の端に映ったわ。本当に、一流を謳うだけの事はあるわ。」
五年前と変わらずに遠目からみても厳格な雰囲気を漂わせる城が咲を見つめていた。
「なんか言うほどでもなかったわね。」
応接間に通された咲は、人間をダメにするタイプのソファに座りながらリンネを見つめた。
「いやいや、リディニアでの出来事伝えてる時周り見てました!?咲さんが何か言う度に舌打ちされてましたよ!?」
知っている。
事もあろうにあの緑服、ちょっと階級が上がったのか装い豪華になっていた、比例して、舌打ちの大きさも大きくなっていた。
「それで、どうする? 王城の喚問が終わったら何処に行く?」
リディニアでの一件で薄れがちだが、咲とリンネの目的は『エルフの国を壊滅させた災害の原因解明』だ。
リディニアを訪れた理由も、原因に転移者が関わっているのでは、という推測からに過ぎない。
「あの、ちょっと王城を見て周りませんか?」
「あの火山が起きた際、転移者に原因を狭めましたけど...あんな兵器を保持している以上、この国にも火山を起こせた可能性があると思うんです。」
あんな兵器...恐らくビーチュが持ってきた質量兵器の事だろう。
「月宮様。」
振り向くと凍り付いたような口調のメイドが立っていた。
「王様がお呼びです。」
「あ?リディニアの事ならさっき話し」
「いえ、その件ではなく王様直々に月宮様とお話がしたいと。」
他になんの用があると言うのだろう。
漠然とした不安が咲の心の中に
「渦巻く。...あ、いや、うず、王様会えるのはうずうずしてたんです~!」
「は? あ、いえ、これは失礼しました。では私の後に続いてください...お付きの方もどうぞ。」
「咲さん、もう少し真面目に人の話は聞いた方が良いですよ?」
「ごめんなさい、ちょっと考え事してたら口に出ちゃってたわ。」
咲は対応は面倒になったんだろう。
『私』の視界は一歩引いたものではなくなっていた。
「再び呼び寄せてすまなかったな。。」
「いえ、気にしておりません。。」
メイドに通された一室は、喚問での謁見の間ではなく王の私室のようだ。
「あのケースは今でも使っておるかの?」
「持ち運びに難を要しますが、使わせて頂いております。」
「持ち運んでるのは私ですよ?」
「うるさい。」
側にいたリンネが耳元で囁く。
そういえば、喚問の際に彼女を紹介して居なかった。
「王様、ご紹介が遅れました。こちら私の...えー、パーティーメンバーでありますエルフのリンネに御座います。」
「どうも。」
「ハッハッハッ、隠さなくても良い。そのエルフと君が奴隷と主人の間柄であることは知っておる。」
「えっ?」
隠しているつもりはなかったが、リンネを会わせた事すら無かったはずなのにそれを知っている事に驚いた。
「あのケースじゃよ。起動さえすれば君の情報が王城に送られる様にしているのでな。」
「君の製造業が卓越的な熟練度で有ることもの。」
熟練度という概念が初耳だった。
正確に言えば、熟練度が情報として得られる事が、だ。
私の記憶の中には覚えている限りでは無い。
「はあ、お褒めに預かり光栄です。」
「そう改まるな。ここに来たときはもっと軽々しかったであろう。」
「そうでしたか?」
「ふっ、まあ良い。こうして呼びつけた本題に移るとしよう。」
「魔王が征伐された事は知っておるか?」
「はい。今から5ヶ月前に、なんでも盛大なパーティーを為されたとか。」
「そうじゃ。君が会ったことのある転移者が成し遂げたんだ。」
会ったことのある?
ビーチュか速水の事だろう...いや、そんな訳がない。
彼らはリディニアに一年は拘束されていたはずだ。
その転移者を聞こうとしたが、王の話は別の方に逸れていた。
「魔王が征伐された事で、ある一つ疑問が浮かび上がったんじゃ。」
「疑問? 魔王が他に居るとでも?」
「君達転移者が召喚された理由は、『魔王征伐』だったはずじゃ。」
「では、それが内包する結果はなんじゃ?」
魔王が居なくなることで起きる結果...
「人間への平和の到来、でしょうか?」
「そうじゃ。魔王という脅威が無くなれば、平和が自ずと訪れるはずじゃった。」
「現にこの王国は...都市が一つ壊滅的に衰退したが、平和と言って良いだろう。」
私は黙って聞いていた。
王が何を言いたいのかわからなかったからだ。
「では、何か御不満でも?」
「君達転移者の存在じゃ。何、不必要という意味でいった訳じゃない。」
「我々は君達を異世界から呼びつけたんじゃ。君達にもそちらでの生活あったにも関わらず、一方的にな。」
「我々は元々、君達を永久的にこの世界に縛りつける意図は無かったんじゃ。魔王征伐を果たせば、元の世界へと帰れる...そう思っていたんじゃ。」
「古文書にも、役務を果たした時点で転移者は帰還すると書いておったしな。」
まさか元の世界帰れる可能性があったとは、片道切符では無いようだ。
「だが、その命題が果たされたにも関わらず君達の帰還は始まらない。」
確かに、魔王征伐が終わった時点で転移者がこの世界に留まる意味はない。
世界を崩しかねないほどの能力を持つバランスブレイカーだ。
転移者は薬にも毒にもなりかねない存在。
この世界にとって、私達は常に不穏分子の筈だ。
「我々としても帰還が始まらない事に何か理由を感じたのでな、独自に調査を行ったんじゃ。」
「そして、ある一つの理由に至った。」
「君達は...まだ命題を満たしておらんのじゃ、『平和』という命題をな。」
どうやら、『出遅れた異世界転移』はまだ終わりそうにない。




