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勝敗無き結末

星屑(エトワール),付加(エンチャント)...追跡(チェイス)


抜け出した魔獣を狩る。

もう何度うち漏らしを後追いで殺したか覚えていない。


集中力が切れ始めたのだろう。


転移者が私の前から姿を消してどれ程経ったのか。

かなり経った気もするし、そうでない気もする。


魔獣が陣形を整え、一転突破を狙ってくれて心底助かった。

全方位であれば一人で対処できた筈がない。


火炎(ファイア),分裂(スプリット)。」


事務的にひたすら攻め入る魔獣を対処していくうちに、自身が血濡れた装いであることに気が付いた。


返り血の装束、死ぬつもりは毛頭無いから死に装束ではない。


「ぁぁ...量が多い...。」


息を漏らすも、そこに気力は感じられない。


「魔王が殺されたって言ってたっけ、統治者が居なくなったから人間の領土に隠れ住んでたって事?」


唸りをあげるだけの獣は、殺意を孕んだ視線をリンネに向けた。


「答える訳無いわね。」


(ポイズン),付加(エンチャント),過剰摂取(オーバードース)


小物相手に個別撃破ではいくら倒してもきりがない事はわかっている。


「...付加(エンチャント),(スモーク)


「うっ...はあ...。」


紋章による激痛はいつの間にか消えていた。

月宮が近づいて居るのだろう。


それは別として疲労感が溜まっていた事は言うまでもない。


「煙が晴れるまではちょっと休け...。」


一迅の、自然のものではない風が吹く。


一瞬だけ晴れた毒煙の中、巨体が姿を表す。


何十年の月日を経た原木を、録な加工もせずに武器として振るう二本足の魔獣が立ちはだかっていた。


「あっ...。」


「リンネーッ!!!」


豪速の飛翔体が、魔獣の腕へと矛先を向ける。


ガッコン


突き刺さったかに思えた飛翔体は、魔獣の剛皮に阻まれ天空へと軌道を変えた。


が、魔獣を怯ませた事も事実。


リンネは一瞬伸びた寿命の中で、体を宙返りで後方に翻し距離を取った。


飛翔体は摩擦力によって慣性を失い、今度は重力のなすがまま落下を始める。


リンネは背中に手を回す。


偶然にもリンネのいた場所に落下地点を定めた飛翔体は、収まるようにして掌中へと入った。


「曲芸師みたいな動きだなぁ。」


一連の麗しい動作に感想を述べる者が一人、血みどろの荒野に手を叩く音が響いた。


「これは...マルテの剣ね。ありがとう、ミルト。」


エルフの姫の元に一番乗りを決めたのは、獣人の娘だった。


実体化する軌道(タッチングオービット)。」


「なんで素振りなんかして...って、今のどうやって斬ったんだ?」


魔獣は見るも無残に、幾つもの切断面を作って倒れた。


「魔法よ、魔法。城だと勉強ばっかりしてたからね、お父様とお母様に感謝でもしとこうかしら。」


「鬼の類いではない...たかが魔獣が武器を使うようになるなんて。」


リンネは八つ裂きにされた魔獣の死体に触れる。

そこには対峙した者へ尊敬などではなく、単純な好奇心しか無かった。


「はあっ...次の波までは少しだけ時間があるわ。」


「ミルトもリディニアまで戻った方がいいわ。あなたを守れる自信がない。」


「もしかして...遠くに見える魔獣全部一人で片付けるつもりなのか?」


「...そうよ、でも大した事じゃないから安心して。必ずやり遂げるから。」


事実、リンネはこれまで無傷であったし、リディニアへと向けてしまった魔獣の数はゼロだった。


彼女なら、たった一人でやりかねない防衛だった。

しかし、結果的にこの偉業は達せられる事はない。



「随分とやる気に道溢れてるのねえ、お姫様。」


「登場が遅く過ぎませんか? あのマルテの像を見るに何が起きたかは察せられますが...。」


「ツキミヤとマルテ様が何か関係あるのか?」


「あれ作ったのこの人ですよ。」


「作ったって...え?あれってマルテ様じゃな...え?」


「リディニアの地下に根を張るように鉱脈があったことを思い出してね。咄嗟に製造(つく)ったのよ。」


「おや...リンネは何で不機嫌なのかな~?」


「不機嫌って、全然いつも通りに見えるぞ。」


リンネは咲から背を向けて、剣を構える。


「情報が行ってるか知りませんが...今回の出来事は教祖の死亡によって幕を閉じたようです。」


「よって速水俊一、ビーチュの二名は目的達成の為戦線を離脱。」


「リディニアは魔獣の侵攻という、また別の脅威を目下に控える事となりました。」


「ふっ、まあ転移者である私にかかればこんなもの直ぐ終わるわね!」


「接敵...気を付け...」


「製造。」


前方数十メートルに大規模な陥没が発生した。

最短経路を沿って直線の道筋に沿って駆け抜ける魔獣は、そこ全てが突如生まれた落とし穴にハマっていく。


空中には地中から失われた同質量の土の塊が浮かび上がってい。


当然何の支えもない塊は、質量に速度を伴って魔獣の上に落下する。


「よしっ!」


「え、エゲつな...生き埋めって...。」


横で一部始終を見ていたエルフの表情はひきつっていた。


今まで魔法を使い知恵を絞り、一体一体確実に倒してきた彼女のやり方と異なる咲に驚いたのだろう。


「第二波が来るぞ!」


星屑(エトワール)!」


「製造。」


難なく撃破。

軽口を叩きながらも彼女らは魔獣の群れを瞬間的に滅した。


「ちょっと咲さん!?貴方のスキルなんでもありじゃないですか!」


「なんでもじゃないわよ。道具とか物をどこでもいつでも作れるだけよ。」


「”作れる”の定義がデカ過ぎるんですよ!」


「いいじゃない。その代わり凄く地味なんだから、リンネの星屑(エトワール)? だっけ、そっちの方が見栄えがいいわ。」


「見栄えって、それは誉め言葉として受け止めますけど。」


「あの規模の建築物を作っておいて、体に負担とかかからなかったんですか?」


「作った時はちょっとだけ疲れたわよ。」


「ちょっとだけって...あれ?」


「あの...マルテ様の銅像、あれよく見たら私の顔じゃないですか?」


「大聖堂で見れなかったからね、リンネの顔で作ってあげたわよ。。」


「ガァアァアアアアウ!!」


流星(メテオール)!!」


「あら綺麗。」


「やっぱりお姫様だから星とかそういう...ねえ、ふふっ...メルヘンチックなのが好きなの?」


「好きだから使う訳じゃないです、星魔法の使い勝手が良いからです!」


「製造。」


たった二人の手によって、魔獣の侵攻という最後の後始末は、流れ作業のように片付けられた。




「あれが最後の一匹!!」


ヨロヨロと立ち上がり、最後の反抗を試みる魔獣の目に映る気力は、敵意の他には無いに等しかった。


「リンネ待って...ミルト、あれに止めを刺しなさい。」


「あれは貴方に、そしてリディニアに敵意を向ける存在よ。」


「なんでわざわざ、やるけどさ。」


「ウグァァ...。」


パスン


気迫なき一撃を打ち込むと、音も立てずに魔獣は姿を消した。


「終わった って実感が湧かない最後でしたね。」


「リディニアの頭抱えてる信者と、そいつらから迫害を受けた獣人が共同で戦えば、歴史に刻まれるような結末だったんでしょうけどね。」


獣人の一突きを以て、リディニアを巡る二つの宗教間の争い、及びそれに伴って新たに生じた危機は完全に過ぎ去った。


「そんな事になったんじゃ少なからず死人が出るし、争いに美徳を持たれたんじゃ堪らないわ。」


「ツキミヤ...お前そんな事まで考えて...。」


「って、リンネは思ってるわ。」


「なんだよ、ツキミヤはなんとも思ってないのか?」


「一日中起きてたから早く眠りたいわ。」


「そんな事だろうと思ったよ。」


英雄も無く、明白な敵も把握されず、危機すらも認知されない。


何もかもが多くの者にとって曖昧なままの不可知の戦いは、少数の力持つ者の手で幕を落とされたのだった。

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