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捨てる者居れば________

バベルの塔の崩壊は何者かの策略によって失敗。


そんな、地上の人間に入った電報は思いがけないものだった。


「ビーチュ...どうする? 塔が崩れなかったってことは、エレナの恩恵は続いたままだろ?」


「いえ...私達の目的は達成したわ。舟が落ちる前、センサーが捉えていた膨大な魔力が消えた事を確認していたの。」


「膨大な魔力...それって!」


「フェティマ教は()()()()()によって瓦解、後継者が居たとしても衰退の一途を辿るでしょう。」


「はあ...長かったな、やっと終わったのか。」


「まだ終わってませんよ。」


呼吸を整えていたリンネが立ち上がった。


「フェティマ教そのものは瓦解したと言っても良いでしょう、しかし、それに伴って誘き寄せられた魔獣によってリディニアは危機に瀕しています。」


「恐らく、エレナの死亡によって恩恵も消失したと推測します。」


「つまり、絶対安全圏であった見えない壁も消失した、と言っても良いでしょう。」


「外側であった私達の勝利条件は信者の壁への撤退でしたが、壁無き今は魔獣の殲滅、若しくは完全な撤退です。」


淡々と語るリンネの声色は恐ろしく冷めていた。


「いやいや、そうは言ってもよ。さっきの爆撃見ただろ? あれでほとんど壊滅してたし、そう気負う事も無いんじゃねえか?」


「周りを見てみてください。」


「はあ?」


速水は目を凝らす、普通の人間であれば感知すら出来ぬ遠方まで見通した。


「おいおいなんだよあれ...全然減ってねえじゃん。っていうか、むしろ増えてないか?」


リディニアを滅ぼさんと敵意を剥き出しにする獣の数は初陣よりも圧倒的にその数を増やしていた。


加えて、四方八方からの分散形態ではなく一転集中の陣形を組んでいた。


彼らに人間に近い感情があるのかを知る由は無いが、それは鐘の音に揺らされた故の狂気ではなく明白な殺意が感じ取れた。


「魔獣風情に仲間意識なんてものがあるとは思えませんが、同胞を殺された事に怒りを宿したのでしょう。」


「無残の無秩序に機械的、そんな八つの爆撃による殺戮は彼らの心に何かを植え付けた。」


「奇しくも思想や常識の統合は、人間ではなく魔獣の中で成し遂げられた。」


一つに固まった魔獣は敵を意識してその能力を上げる。

統率の取れた陣、機動性の高まった進行。


既に最前線を務める魔獣の部隊は猛烈な速度で荒野を駆け抜ける。


「はっ、だが所詮は魔獣だ。俺には勝てない...そうだろ?」


「ガウァァァァァァ!!!」


「ほらっ、静かにしていればもう少しは近付けたのにな...だから所詮は獣なんだよ。」







「はあっはあっはあっ...どうだ、リンネ...案外どうにかなりそうだな。」


速水は難なく魔獣の群れを圧倒した。

辺りは肉だけを食べてきた生物の血でどす黒く汚れていた。


「速水? あなた一体何してるの?」


「何って...まあ後始末って奴さ。」


「はあ~...仕事は終わりよ。フェティマ教が終わった以上、私達が手を下す必要はない。」


「直ぐに帰投して。本部に戻るわよ。」


「なっ、何を言ってるんですか!?このままだと魔獣のせいでリディニアの人間が全滅するんですよ!?」


「だから?」


「だから? って、私達が守らないと...。」


「あのねえ、その魔獣が転移者に操られてリディニアを襲ってるわけ?」


「い、いえ...そんなことはないかと。」


「じゃあ転移者が介入する事は無いわ。魔獣と人間の争いなんて、別に普通の事でしょ。」


「でも!元の理由はあの兵器が爆撃なんてしたからっ!」


「何?私のせいって事?」


「あの兵器は元々この世界の王国が作ったものよ、操縦者が私ってだけ。」


「魔獣が襲う原因はこの世界の人間にあるのよ。」


「それに...マルテが姿を現さなかったら、リディニア一帯の人間は全員死んでた訳だしね。」


「この世界の者同士で起きた戦争なら、特別私達が手を下す理由は無いのよ。」


「そんな...。」


「ま、そんなにリディニアを守りたかったらあなた一人で立ち向かえば? それか、舟を台無しにしてくれたマルテ様に助け求めればいいじゃない。」


「あー、まあなんだ...俺とはここまでだって事だ。」


「冷徹だ、なんて恨むなよ。ビーチュに言われたんじゃ、俺もそう従うしかないんだよ。」


いくつもの秩序無き足音が近づいてくる音がした。

リンネは彼らに何も感じなかった。


「んじゃ、咲に宜しくな。」


速水は簡単な別れの言葉を告げて、リンネに背を向けて歩きだしてしまった。


リンネは、たった一人で立ち向かわなくていけない、水平線のどこまでも先に広がる魔獣の群れを視界の捉えていた。


輪郭のおぼろげな責任が、彼女の背中に重くのし掛かる。







「咲...どこにいくの?」


「何でもかんでも一人で背負い込むお姫様に、力添えしなきゃと思ってね。」

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