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結末へと歩みだす者達

鐘は鳴る、誰の為にという答えは無い。


「あれ?この鐘の音って。」


「周期が大きいけど...全体で見れば、どこかで聞いたことがあるわ。」


「あなたって絶対音感でも持ってるの?驚いたわ。」


「持ってないわよ。...これ、大聖堂で流れてた曲?」


鐘の鳴らす一音の周期が大きく、重複しているため非常に難解だが咲の答えは正しかった。


「私ね、元の世界じゃ結構悪辣な環境に身を置いてたのよ。...ああ、同情とか要らないわ、話を聞いてくれるだけで良いの。」


「その時、私の大事な人が『好きな曲だ。』って教えてくれた音楽があったの。」


「別段気を止める程のものでは無かったし、記憶の片隅において忘れてたんだけど。」


「偶然で片付けて良いのかわからないわ...マルテの大聖堂で、全く同じ音楽が流れてたの。」


「ふーん、だから鐘の音も同じように奏でるようにしたんだ。」


「そういうことよ...あれ、私...どうしてこんなことを貴方に話したのかしら。」


「さあ、気が緩んだんじゃないの?」


長椅子から咲は立つ。

教祖は防護策の無い塔の上部から、リディニアを見下ろしていた。


「最後に一つの聞きたいんだけど。」




「ううっ...痛い...痛い!!」


「どうした!?リンネ!」


世界から弾かれたエルフは、主人と離れた事によって紋章の効果が徐々に増していた。


見えない壁を背に、苦しみながら地面に座り込む。


寄っ掛かれた事で多少は楽になったが、時間はあまりなさそうだった。


「はあっ...はあっ...。」


「ええ!まだ大丈夫です!」


「それよりも...王国の兵器とはなんなのですか!?」


「移動式の空中要塞だそうだ...王国最新鋭の兵器を集合させた、対侵略兵器だ。」


「あの塔を崩すんですよね?」


「ああ、残念ながらな。」


「じゃあ、私達に出来る事はもう...。」


「なんだ...あれは?」


リンネの悲観的な言葉ではなく、速水は別の物事に関心を奪われていた。


リンネも同じく、速水の指差す先を向くと同時に意識を奪われた。


それは、壁の内部に添うように、何かを埋める事に専心する夥しい数の信者の数だった。


リンネの真後ろ、壁を隔てたすぐ向こう側にも、信者の姿はあった。


「これが教祖の言っていた、『ある行為』!?」


埋める行為はほんの数分で終わる。

すると、すぐさま十数メートル前に進み埋める行為を始めるのだった。


信者の進行スピードは壁の成長速度を上回りつつあった。


「壁から出たなら手を出せる。この行為が壁の広がりに関わっているなら、...信者を全員殺せば壁は止まる。」


速水の言葉には重みがあった。

しかし、リンネはそれを飲み込む事は出来ない。


「殺すって...私達が教祖と闘ったのは、彼らを守る為では無いのですか?」


「始まりはそうだった。だがな、壁の中に入れば書き換えが始まるんだろ?」


「俺が守るのはこの世界の人間だ。つまり、まだ壁の外で暮らす者達だけだ。」


「いえ、それは...見過ごせません!」


「じゃあどうする?立つのもやっとなその体で俺を止めるのか?」


「いいえ、勝ち目も理由もない闘いに身を投じる訳には行きません。」


「人間を守るのであれば信者を殺害するのではなく救うべきです!」


「王国の兵器が塔を崩せば教祖もまた死は免れないでしょう。」


「であれば、恩恵も効果を失って信者は自我を取り戻す可能性もあります。」


「私達ができることは、一人でも多くの信者が塔の崩壊に巻き込まれないよう取り計らうべきです!」


「そして幸運な事に、彼らは自ずと塔から離れて居ます!」


「俺達は、それを黙って見ていろと?」


「はい...。」


「...わかった、そうしよう。」


「え?」


随分とあっけらかんとした反応だった。



「戻る可能性がある、と言うなら別に彼らを手に掛ける必要もない。」


「考えてみれば、壁から弾かれた時点で俺たちに出来ることはもう無いんだ。」


「ことの成り行きを黙って見ていようじゃないか。」


速水の答えは拍子抜けするものであった。

速水が非情判断を下さなかった事に安堵を覚えた。


が、兵器による武力制圧という道からはまだそれていない。


リンネ自身、心の中ではその道を進むべきではないと感じていたが、他にするべき事も無い現状、見守ることしか出来なかった。


リンネは痛みが増す体を抑えながら、そびえ立つ塔に視線を向けていた。





「『ある行為』って言うのはなんなの?」


咲は尋ねてみた、気の緩んだ今なら容易く引き出せると踏んだからだ。


「錨を埋める行為です。」


「錨?」


目論見通り、エレナは答えを返した。


「”新世界秩序”の適用範囲は、見えない壁に依存します。」


「では、その壁の正体は...という話になります。」


「なんなの?」


「実体化し、質量を持った音波です。」


「...また波の話?散々”恋の病”で出てきたじゃない。」


「ええ、恋も秩序も結局は内側を支配する、という点で同じ物なんです。」


「ただ、それが魔力によるものか、音によるものかという違いだけ。」


「それで?錨って言うのは?」


「今も聞こえるこの鐘の音、これに共振し増幅して発する装置です。」


「見たことがあるかわかりませんが、リディニアで十字架を見かけた事はありませんか?」


「...あるわ。」


バベルの塔の裏手から帰る時、信者が何かを埋めている状況に遭遇した。


あのとき、既に顔見知りであったはずなのに気づかれず、さらに目を細めて睨む信者、という”隻眼の王”に関するヒント。


加えて、彼らが埋めた十字架という”新世界秩序”に繋がる手綱もあったのだ。


「ま...今となってはもう遅いわね。」


「鐘だけでは”新世界秩序”の適用範囲は限られます、が、増幅機が作られたことで、この恩恵は無限の可能性を持ちました。」


「じゃあ、十字架を潰せば”新世界秩序”も収まるって訳ね。」


「そんな怖い顔をしないで?やるわけ無いじゃない。」


「十字架を壊すには内側に入らないといけない、でもそれだと十字架を壊すっていう思想自体が書き換えられる。」


「そもそも書き換えが効かない者は、外部に弾かれて十字架の造る壁に阻まれて内側に入れない。」


「完璧で無敵な秩序ね。」


「そろそろ貴方への書き換えも始まるころです。」


「そうね、外側にお暇させて頂くわ。」


「頑張ってね、新世界の女王様...立場はずっと敵だったけど、応援しているわ。」


音も出さずに咲は立ち去った。

エレナが後ろを向いた時には、そこに人がいたという実感すら無かった。


「あのときと同じ...おかしいな、念願は叶ったはずなのに。」


「どうしてまだ...感じるんだろう。」


孤高の教祖は一人、鐘の音の中にたたずんでいた。




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