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新世界秩序‹New World Order›

「教祖は、『これほど早く侵入を許すとは思わなかった』と言いましたね。」


「ええ、確かに言ったわね。」


「奇襲自体が予想外だったのではなく、そのタイミングが予想外だったのではないですか?」


偶然にもリンネの推理が綴られる同時刻、咲もまたミルトに教祖の思惑を語っていた。


「私達が早すぎたのよ。だから奇襲への対策が取れなかった、信者の姿が見えなかった事が証拠よ。」


「一日でも奇襲が遅れていたら...侵入すら出来なかったかもって事か?」


「そうなるわね。でも、重要なのはそこじゃない。」



「教祖が奇襲の可能性に気付いていた事、これが問題です。」


「奇襲なんて普通想定内だろう?」


速水はリンネへと言葉を返す。


「その通りです。しかし、奇襲とは策あって成立する物。奇襲の可能性を考慮に入れた時点で、奇襲という行動に至る理由があると認めているんです。」




「奇襲って言葉が多すぎてよくわからないよ...。」


「私達が奇襲を行う理由わね、エレナの”隻眼の王”が不思議なほど弱いって事が理由なの。」


「次の恩恵があるんじゃないか、この疑念が急すぎる奇襲へと私達を駆り立てた。」


「であれば、教祖もまた自身の恩恵が欠点が多い、と自覚していたんです。」


「欠点...容易く近付けるって奴か。」


「ではここで、教祖が恩恵を切り替えた時に目を向けましょう。」



「教祖が”恋の病”を捨てたのには理由がありました。」


「まずは、速水俊一という脅威を”恋の病”での掌握という形ではなく、別の恩恵で排除するため。」




「そして、リンネに押さえ込まれ、信者に襲われるという窮地から脱する為。」


「この窮地を脱する為、っていうのが鍵ね。」


「確かにあの場は切り抜けられたかもしれない、だけど、”恋の病”を捨てた事で新たな窮地を呼ぶことはわかっていた...あ、あった。」


「わたしも見つけたぞ!!」


「先端が鋭利な刃物...ね。殺傷力は十分ね。」





「”恋の病”を捨てても奇襲という窮地が訪れる事は、教祖の頭にあったはずです。」


「にも関わらず”隻眼の王”を選んだ。次は速水さんを排除するという目的に目を向けましょう。」


「速水さんは”隻眼の王”では排除できません。視力を失う事がキーポイントである恩恵です。支配下に取り入れる事は不可能に近い。」


「”隻眼の王”の役割は、信者に何かを準備させてるんです。」


「でも、これは何も”隻眼の王”限定の効果じゃないですよね?」


「”恋の病”だって信者を支配するには十分な代物です。」


「私達が近付けない、という魅了効果を持ちながらも次の恩恵への準備は出来たはずです!」





「たかが信者に襲われるから”恋の病”を捨てるっていうのもね。」


「考えてみればあり得ないわよ、さっきの体術見たでしょ?」


「確かに...あれだけ動けるなら、拘束されてても信者くらいなら殺せるな...。」


「さっきから一体何を作ってるんだ?」


「黄金の矢。」



「”恋の病”であれば、こんな奇襲を許すことは無かった。それでも”隻眼の王”を選んだ理由。」


「それは、一重に支配力が強いという点です。」


「ビーチュさんも咲さんも支配力が強い、とだけ口にしてましたので私の推測に過ぎませんが。」


「支配力が強い、というのは自身の生理機能を投げ出してまで教祖に付き従う、という事では無いですか?」


「労働力が極端に増加する代わりに、自身を守る防壁を失うって事か。」


「ええ、次の恩恵の準備を”隻眼の王”で初めから行っていれば、その分防壁が無いまま過ごす、という事です。」


「”恋の病”でも行っていた前準備を”隻眼の王”で急がせた...か。」


「教祖の計算であれば、私達が奇襲するよりも早く前準備は終わっていたのでしょう。」


「ですが、その計算は狂った。脆弱性に気付かれた為に早すぎる奇襲を許してしまった。」


「どうですか...?」




「その通りよ。」


「速水の掌握に失敗した私は、次の恩恵へと可能性を賭けた。」


「”隻眼の王”じゃない、より強大な恩恵に。ただ、その恩恵は膨大な事前条件を満たさなければならなかった。」


「確かに”恋の病”であれば安全なまま前準備を整えられたわ。」


「それだと遅すぎた。いくら私に従事するといっても、人間には限界がある。」


「でも、”隻眼の王”での勅令という形であれば、信者は普通の人間を遥かに越える身体能力を発揮できた。」


「加えて”恋の病”の対抗策を月宮に見破られた以上、安全も長続きする訳じゃなかったからね。」


「私は”隻眼の王”が、貴方達の奇襲よりも早く前準備を満たす事を願ったわ。」


「月宮咲が居なければ...私の計算が正しかったはずなのにね。」


「なるほど、これで理解できた。」


「エレナさん...俺は今からアンタを殺す。それで次の恩恵が機能する事はない。」


(教祖はさも、『前準備が終わらなければ恩恵は機能しない。』みたいに言ってるけどそれは違う。)


(きっといつでも行使できるんだ...ただ、万全でないだけ。)


(あの顔はそういう顔だ...追い込まれた人間の顔じゃない、全然余裕があるもの!)


(速水さんがギリギリまで近付いた時点で次の恩恵を使うつもりなんだろうな...出来ればもっと時間を引き伸ばしたかったけど...。)


(でも、私が速水さんにその事を教えてもダメだ...その瞬間に恩恵を使われる...。)


(咲さん...!!)



その刹那、非常に微かだが石の落ちる音がリンネの耳に入った。


なんてことのない石ころが落ちる音...だが、リンネにとってそれは最も信頼出来る音だった。





「見つけた...!!」


「ミルト、このナイフを力一杯に思い切り投げて。」


「石ころを落としたと思ったら次は思い切り投げてって...ツキミヤが何をしたいのか皆目検討がつかない。」


「ま、やるけどさ。」


流石は獣人。

投げられたナイフは一直線の弾道を描き廊下を突き進む。


「製造。」


空中に造られたそれは、なんてことのない木製の塊だった。


カコン、という軽い音をたててナイフと衝突。

ナイフはほとんど威力を落とすことなく軌道を変えた。


何度も何度も、ナイフは顕れた木材と衝突し弾道を変える。

複雑な塔の内部を、慣れ親しんだ故郷のように猛進する。



十度目か二十度目かの反射の後、ナイフは外部へとその身を投げ出した。


目標を女王の心臓部に定め、何者にも遮られずに進み続けた。


「ぐっ..ううう...。」


苦悶の表情を引き出すには十分だった。

しかし、女王の首を落とすには足りない。


「ぐっ...これは、私が最初に投げた...。」


ナイフは心臓部の僅か手前、エレナが身を守る為にさらけ出した腕のズップリ刺し込まれていた。


「一体どこから...誰が、なぜ...なんてわかりきった問いは投げません。」


「方法はわかりませんが...月宮が狙撃でも企んだのでしょう。」


「エルフや速水に意識を削がせ、自身が舞台から降りる事で死角からの攻撃を謀ったのでしょうが...残念残念、ずっと警戒してましたよ。」




「失敗...したのね。塞がれるなんて思っても見なかったわ。」


ミルトと咲は遅れながらもリンネの元に追い付いた。


「あら?随分遅い到着ね?顔を出したって事は、もう打つ手無しって所かしら?」


「そんな...ツキミヤ...何かまだあるんだろ!?」


「咲さん!」


「ごめん...正直これが失敗するわけないって思ってたから、もう何もない。」


「何が起きたのかわからねえが、何かに失敗したことは確かみたいだなっ!」


速水はマルテの剣を振りかぶる、しかし、全ての行動は既に後手に回っている。


「ここが限界...さようなら、もう少しだけ一緒に居たかった。」


鐘の音が響きわたる。

咲がかつて耳に留めた鐘の音が、再び反響する。


「今度はなんだよ!!」


「迷い惑いし愚かなる人間共よ。今ここに、総ては帰化し一つに返り咲く。」


鐘の音は一つではない、重複を繰り返し空間に広め行く。

まるで、バベルの塔、リディニア、それらすべてが一つの鐘の中かのように。


多重に無限に、薄気味悪いほど協和性を保った音が鳴り続ける。


「誰が為に鐘は鳴るのか!!さあ!!新たなる世界の幕開けを見るがいい!!」




「恩恵昇華...新生...”新世界秩序”...。」




「宣言しよう!!これが私の恩恵の終着であり、最後の切り札だ!!」




「それでも既に私の勝利は決定した!!最早何者も抗う術はない!!」




「”新世界秩序”、人間が見定めた、夢見た未来がこれだ!刮目せよ、真なる平和はここに顕現する!!」






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