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瞬きを足掻く為に

戦闘は突如として幕を開ける。


マルテの剣を構えた”不屈の男”は”隻眼の王”と相対する。

咲は扉を背にミルトを庇う様に、リンネは咲を守る為に立つ。


エレナは速水へと何かを投擲すると、速水へと拳を振るう。


「剣聖...風破、山撃。」


「”1オンスの使者”」


速水を標的とした投擲物は離散...と同時にマルテの剣が降りおろされた。


彼がそう言ったように、山を撃つが如く剣撃はエレナを襲った。


しかしながら、エレナもただで受け入れたはずがない。


拳と剣、一見すれば戦力に歴然の差が見受けられたその交わりは、互いに一切の傷を与える事なく終わった。


一撃離脱、エレナはすぐさま後方に下がる。


「確か...記憶だと速水くんは闘剣士(ファイター)でしたね。剣を持った君は、まさに鬼に金棒という感じですね。」


「エレナさんは聖職者...でしたね。唱えた言葉によって効果が変わる。」


(効果が変わるって...1オンスの使者ってどんな効果だよ。)


言わない方が吉だと察した咲は、一見すると熟慮している表情でエレナを見据えていた。


「こんなところで追い詰められたままでいるわけには行かない。」


エレナは、壁に添うようにして置かれた彼女よりも大きな棚に手をかけると速水を背にして言った。


「今から本でも読むのか?」


「はあ...そんなわけないでしょ?」


「”私を信じる者は、私を信じるのではなくて、私を遣わされた方を信じるのである。”」


詠唱だろうか、ゆっくりと確かに告げた後、エレナは軽々と大きな棚を持ち上げ。




速水に向けて投げた。


大きさ2メートルの巨体、避けるには大きく、防御するには勢いがあり過ぎる投擲物。


故に速水がマルテの剣による斬撃を振るう事は明白だった。


棚は中心で切り裂かれ、上部と下部が速水を避けるように飛んでいく。


エレナにはその一瞬があれば良かった。


速水の視界は木製の巨体で覆われる。

視界が一瞬開かれた時には、エレナは猛烈な勢いをつけて飛んでいた。


「製造!」


棚の一部が切除された。


速水へと攻撃は届かない。

エレナの前にはは木製の薄い壁が敷かれ、全ての勢いは木板が吸収した。


体制を崩した、筈だがエレナは身を翻し勢いそのままに後方の咲を目掛けて突っ込んだ。




「はあっ、はあっ...出られたわ!!」


違う、彼女の目的は咲への打撃ではない。


執務室の扉はエレナの体当たりによって壊された。

彼女の身体は執務室の外に出てしまっていた。


エレナの目的は逃げ場無き執務室からの脱出であった。


エレナは立ち上がり、身を整えるとすぐさま走ってこの場を離れた。


「待て!」


誰が追うよりも早く、速水はエレナの後ろを追った。


「一分一秒でも時間を稼ぐわ!!ここで負ける訳にはいかないの!」


「リンネ!速水を追って!」


「はいっ!」


「あっ!あともうひとつ――――」







「やっと追い付いた...。」


エレナは崖を背にして立っていた。

速水は剣の矛先を教祖に向けていた。


勝負は決着。


リンネが追い付いたのはそんな場面だった。


「ここまでだ!!エレナ!」


「はあ、降参よ。ここまで追い詰められたんじゃ何もできない...」


「もっと早くそうしてくれよ。」


剣を下ろし、エレナへと近付く速水。


「あ、あのっちょっと待ってください!!」


「リンネ...?」


「多分、もう捕まえるなんてのは意味無いんです。」


「そこから落とすか、剣で刺すか。」


「教祖が生きてる限り、この闘いは終わりません...!!」


「どういう事だ?」


「...教祖を捕らえても、恩恵の前準備は整い続けます。」


「その人が思えば、いつだって使える...その段階に至ってしまったら終わりなんです...!」


「でも今なら!教祖の予想外である今ならまだ間に合う!」


「ブレインは一人だけだと思ってたけど、どうやら貴方もそちらの才能があるようね。」







「ツキミヤは追わないのか?」


「エレナが最初に投げた物はなんだったのかと思ってね。」


「はあ?さっきすごく焦って『無力化して!』って叫んでた奴は誰だよ。そんな悠長にしてていいのか?」


「...なあ、一体何に気が付いたんだ?」


「エレナの恩恵はすぐにでも使える状態なのよ、準備さえ整えばね。」


咲は床を手探りで探りながら、ミルトと背中で話す。


「っていうか多分その準備もほとんど終わってる、完全では無いけどね。」


「じゃあ...もう何をしても意味がないって事か?」


「そうでもないわ。その『準備』とやらが終わってない以上、エレナの恩恵は万全の効果を発揮できない。」


「エレナは出来れば万全の恩恵を使いたいはず、だからギリギリまで次の恩恵は使わない。」


「今この瞬間だけは、まだ勝ちの芽は残ってる。」


(頼んだわよ...リンネ。)




再び場面は外部へと戻る。

崖を背に立つ教祖、差し迫る不屈の男、追い付いたエルフ。


各々が目的を持った状況で、リンネは咲の命令を思い出していた。


(『あとひとつ、速水とエレナの動きを止めて!!』)


主人の命を果たすべく、リンネは動き出す。





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