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スポイラー

「この空間だけ時代が違うわ。元の世界よりも前に行ってるみたい。」


「良くそんな感想が出てきますね。上に着いたら信者と戦うんですよ?」


「ビーチュが...心配だ。転移者だから、そんな簡単に死なんとは思うが...」


「女王様ならきっと大丈夫よ。今は塔の上でふんぞり返る方の女王様に目を向けましょ。」


「そうか、エレナさんとも会うことになるんだよな。」


「五年前、一時は一緒に旅をしていた仲だったわね。あなたたち。」


「エレナさんが抜けるってなった時はすげえショックだったよ。」


「この世界に来たときから、みんなエレナさんを頼ってたからさ...」


「ねえ...」


グォォォォン


化け物のようなうなり声を上げて僅か四方数メートルの空間は中空に止まる。


完全な密室だったそれは、地上3000メートルの空気と、まだ微弱な光を吸収しつつ扉を開く。


ゆっくりと、だが確実に。


エレベーターの扉は、止まった時間の中で動くように、箱のなかの三人に外の景色を見せる。


完全に外の世界と箱の中が空間を共有したとき、最初に言葉を発したのはリンネだった。


「ここを...進むんですか...?」


「行くわよ!!止まったら身体を引き裂かれて死ぬわよ!!」


エレベーターの扉から一本に続く通路、幅はほんの2,3メートル。


そこには目の色を殺意で満たし、斧に刀、鉈、包丁...


あらゆる武器を手にした白装束の人間が埋め尽くすかのように待ち構えていた。


「一気に突っ切るぞ!!俺が正面を務める!!お前たち二人は後ろを気にかけろ!!」


速水は右足を一歩踏み出すと初速からスピードをあげる。


正面に待ち構える信者は速水へと鉈を振り下ろす。


「遅せえっ!!」


しかし速水にあたる事は叶わず、顔面でストレートを受け止め、後方へと吹っ飛ぶ。


「材料は鉄ね!!もらうわよ!!」


咲は吹っ飛んだ男の手にあった鉈を材料に先端に重心を置いた警棒を作り出す。


「あっ、ずるい!!」


そんな会話をしているなかでも三人は足を動かし、一瞬で信者が吹っ飛んだ数メートル突き進む。


速水は自分で吹っ飛ばした信者の顔を掴み、踏み出した左足で腹部に膝を入れ込み、さらに速度をつけて吹っ飛ばす。


慣性で飛んでいた信者は、完全に速水の投げ道具と化した。


正面に待ち構えていた信者はドミノ式に無気力されていった。


しかし、端に寄っていた信者は何事も無かったかのように速水を切り刻まんと鋭い刃を振りかざす。


首を傾けて難なく初撃を避けた速水は、首を信者に向けて振るい頭突きをする。


豪快な音を立てて、頭突きを喰らった信者は壁にめり込んだ。


「もうこいつがいれば大丈夫じゃないかな...」


「気をつけろ!密度がもっと濃くなると俺を抜ける奴が出てくるぞ!!」


咲に向かって叫びつつ、速水は右の信者の頭部に右手を掛けると首に空いた左手を添え、思い切り頭部を押し込み壁に叩きつける。


「ギャアアアアアア!!!ガッ、ゲアッバガガガガ!!」


そのまま走りながら信者を壁に押し続け、壁を削った。


少し飽きてしまったのだろうか、今度は左側の壁に叩きつけながら、通路走り抜ける。


右から左へとシフトする際、速水が頭部と首を支えていなかった為に体全体が遠心力の為すがままに前方の信者に蹴りを浴びせていた。


それほどの遠心力がかかるほどの勢いだった。

あの信者は助からないだろう。


一頻り壁を削ると、腹部に蹴りを入れて前方に飛ばす。


信者は一瞬で学習したのか速水の前に立ちはだかる事はなくなった。


むしろ、壁を削る道具と化した信者の叫び声を聞いて逃げ出す者もいた。


月宮咲も速水俊一に恐怖した人間の一人だった。


「化け物かお前は...壁削った信者の顔...完全にムンクの叫びのあれだった...」


そこから先は、人間である咲の目では追えなかった。


しかし耳は正常に働いていたので、目の前で起きている事の一割は理解できた。


ズガッズガガガガッ


ゴウンゴウンゴウン


咲には元の世界で聞いた覚えがあった。


工事現場の音だ。

それも深夜にやってるような、重機が生み出すデシベルの桁が異なる音だ。


「ね、ねえ...さっきと通り過ぎた信者、顔の向きと体の向きが反対だったんだけど、死んでるんじゃないの?」


「ふざけた事を言うな。俺は寺の生まれだぞ?今まで人を殺した事なんて一度もない、あれは峰打ちだ。」


「そっか、そうよね!峰打ちよね!」


ふざけてんのはどっちだ、人間が人間使って工事現場の音なんか出せるか、と叫びたかったが咲は抑え込んだ。


次は自分が重機になる番かもしれない、訳のわからない恐怖は口を閉ざす理由として十分だった。


この恐怖が、咲の注意を咲自身に移してしまった。


「あっ咲さん!!危ない!!」


リンネがとっさに叫んだ時には、すでに刃渡り30cmの銀に鈍く光出刃包丁が、咲の踝から上数cmに向けて振るわれていた。


速水が投げた信者の下敷きになったものの、かろうじて意識を残していた男が最後の気力を振りだしたのだ。


ブッシャアアアアアア!!!


人が出すには不思議な量の鮮血が通路の床を濡らした。

もちろん咲の踝からあふれでたものではない。


速水が踏み砕いたのだ、出刃包丁を持つ手を。


「だから気をつけろと言っただろう。」


猛烈なスピードで通り抜けたせいで、咲は自分が見たものの真偽がわからなかった。


速水が踏み砕いた瞬間、出刃包丁を持つ手は立体感を失っていた。

完全に次元が一つ落ちていた。


自分でも何を思っているのかわからない咲は、気のせいだ、と思うことにした。


「抜けたみたいだ、あれが神殿か...?」


いつの間にか通路を通り過ぎていたようだ。

止まった瞬間に疲れが追い付き、呼吸が乱れた。


「ゲホッゲホッ...ハアーハアー...これよ、神殿...フェティマの心臓部ね。」


「そうか、じゃあさっさと入ろう。」


通特は神殿の正面から横50メートルに繋がっていた。


「速水...今度はそうも行かないみたい。」


息を整えた咲の目には、二人の周囲を取り囲む大勢の白装束が映った。


「リンネが...いない。」


「はっ!?」


「今、この一瞬で居なくなった。」


「探す時間なんて無いぞ。陽は半分昇り終わってる、あと数分も無い。」


「わかってる、最優先は神殿の扉よ。」


「咲、後ろの信者から剣かなんか持ってきてくれ。」


「長さはどんくらい?」


「理想は全体が120-130cm,柄の部分が20cm位だとちょうどいい。」


「ただ無ければそこら辺の剣で構わない。」


「製造。」


「剣の事なんて良く知らないから...これでいいかしら?」


「おう!ちょうどいい!良く有ったな!」


「私の恩恵よ。」


「そうか...じゃあ、俺の後ろに居ろよ。最短距離で突っ切る!!」


闘剣士(ファイター)固有スキル...剣聖。」


速水はゆっくりと深呼吸を行う。

剣先を天の方向に振り上げると、一切の無駄なく完全な円軌道を描いて振り下ろす。


その行為の最中、空気の流れすら止まっていた。


剣の先が光ったと思うと、何もない空間を真っ白に煌めかせる。眼孔をつんざく眩しさが無くなり、目を開けると。


神殿までの最短ルートが出来上がっていた。


前方に居たはずの信者が消え失せて居たのだ。


「咲!!」


その声で我に帰る。

既に速水は全速力で神殿へと向かっていた。


慌てて足を前に動かし、速水の後を追いかける。

信者は二人を見送る様に道を作ったまま動かない。


咲には何もかもが理解でできなかった。


神殿の正面扉についても誰も動かなかった。


太陽が完全に顔を出す。


最後に足を踏み入れたのは信者ではない、咲だった。


ゆっくりと扉が閉まる。


徐々に狭まる外の景色。


重厚な扉は、外の世界と一切を絶った事を示す厳格な音を立てて閉まった。







「この先で儀式が...?」


神殿は外の扉から入ってすぐ儀式の場ではなく、一枚空間を挟んでいた。


空間は円を描いてた道、その両脇に外に続く一つの扉、祭儀の場に続くであろう十二の扉で挟まれていた。


二人は今、十二の扉のうち適当に前にした一つの扉に前に立っている。


「緊張してきたわ。」


「開けるわね。」


内部から漏れる祭儀独特の雰囲気に押されて、ひっそり両開きの扉を押し込む。





中心には円形の舞台が置かれ、それを吹き下ろして見る形で座席がおかれている。


中はコンサートホールの様に暗い。

ただ一点、教祖が立っている舞台を除いて。


「あの中に奇跡の石があるのか?」


舞台には教祖の他に、三角形の燭台、その内部に色とりどりの宝石で彩られた直方体の構造物が奉られている。


外の異常に気付いた物は居ない。

椅子に座る誰もが舞台を見つめ続ける。


そして、信者の目線の先に佇む眼帯の鉄の女王は、俯いたまま動かない。


「不気味ね。」


「今なら壊せんだろ。ここで待っていろ。」


「あっ、ちょっと待って!!」


咲は速水の手をとると、即座に空いてる席へと座った。


「それでは!!フェティマ教総本山バベルの塔にて、贄運びの儀を執り行いましょう!!」


「皆様目を瞑りください!!」


「暗黒に包まれた世界、本来それが心理であり先代の意思を継ぐべき真理であります!」


「目を開けば焼き付く目映き色鮮やかな景色!これは本来嘘偽りの愚者が見るべき荒野なのでございます!」


「今ここに!!真理へと至る為に我らが尊神のご尊名を口にいたしましょう!」


「うーんえあ・でり・しんでぃーら


うーんえあ・でり・きせのーに」


「なんだ...気持ちが悪い...」


「では真理を承わりし心境の専心者よ、本来あるべき暗黒の世界を照らす灯火をつけなさい。」


三角形の燭台、その頂点にそれぞれおかれた蝋燭に信者が火をつける。


「前行は成し遂げられました。それでは連れてきなさい!銑教の教えに従い続けた罪在りし者共を!!フェティマの教えに懐疑を示し、悪逆を為さんとす大罪人を!!」


ガタンッ


12の扉が開く。

それぞれの扉の先には、銀の十字架に繋がれた人の形があった。


「ビーチュ!!」


速水が声をあげた先、ちょうど反対の十字架には布切れ一枚をあてがわれたビーチュの姿があった。


十字架をフェティマの信者数人が持ち、舞台まで運ぶ。


舞台まで運ばれた十字架は、座席側に人を向けて円状態に置かれた。


「大罪人はビーチュだとしたら、銑教の教えのなんとかって言うのはマルテの人間?」


「あれは...獣の耳...?」


咲が座る座席の方に向けられた十字架には、獣人と思わしき女性が繋がっていた。


酷く衰弱していて今にも息絶えそうである。


「それでは、この者らを真理の灯火にて浄化致しましょう!」


「然る後、浄化を施した彼らの身体を千に刻み、共に食むと致しましょう!」


十字架の下にはいつの間にか藁が敷かれていた。


十字架を運んだ信者が、懐から真っ白な棒を取り出すと燭台の灯火で先端に火をつけ、藁の中に放り投げる。


「こんな大勢の前で処刑でも行うつもりなのか!?」


藁から黒い煙が上がり、小さく光る火種が表れると信者から拍手があがった。


「それだけじゃない、焼死体を信者で食べるつもりよ!!」


「クソッ!!」


速水は舞台へと駆け出す。

阻む者は誰も居ない。


小さな灯りだったはずの種火は、藁の中で大きな炎へとなりつつあった。


「まずはビーチュを救わねえと!!」


「俺たちの席の反対だったはず...見つけた!!」


「ビーチュ!今助け出すからな!」


意識が無いのだろうか、ビーチュは速水の声に反応を示さなかった。


「ああ、クッソこれどうなってんだ!!」


ビーチュの身体は十字架の裏で幾つもの紐で固く結びつけられていた。


「他の奴も救わねえと行けねえのに!!月宮がやってくれてるか...!?」


火の勢いは益々強くなり始めた。

ビーチュを救うために藁の上に立つ速水もまた、その熱を感じ始めていた。


「ああ、クソクソクソ!熱い!あと幾つだ...!」


回りの信者の拍手は火の勢いに比例して増幅している。

歓声すらも聞こえる。


「ああ、熱い...でも、これであと二つ!」


熱さを紛らわすために片足をあげて熱から逃げる。

しかし、それが一層火の勢いを強くしているとも知らずに。


「はあっはあっ...あと一つ!」


火の勢いはビーチュの十字架だけ一際強く、すでに十字架に括りつけられたビーチュの膝近くまで炙っていた。


その為にビーチュより低い位置に立つ速水は、より高く腰の辺りまで火炎に包まれていた。


「ぐぅうううううい!!!!!!!これで最後だ!!」


紐の抑制から逃れ、身体を解き放たれたビーチュは燃え盛る炎へと落下する。


「があああああああ!!!」


が、速水は落ちるよりも早くビーチュを抱き抱えた。

すぐさま十字架を離れ、火の気から離れた場所にビーチュを下ろす。


「おいっ...大丈夫かよ!!目え覚ませよ!!ビーチュ!!」


「こんなに上手く行くと思わなかったわ。」


「はっ、あっ...エレナッ!てめえこの野郎!!!」


速水のすぐ後ろには、五芒星が施された黒い礼服に身を包む、隻眼の女がたっていた。


「いくらあなたでも直に触れたら落ちると思うわ。」


「何言ってやがる!!良くもビーチュをこんな目に!!」


「馬鹿な男...二つも目玉があるのに何にも見えて無いのね...」


「ま、わざわざ教えてやる必要もないわね。二人揃って惑いなさい。」


エレナはビーチュの傍らに座ったままの速水の肩に手を伸ばす。

あと数cm、エレナは決着を確信していた。








「ヤマモト!!!おもいっきりあそこの化け物にそれを投げろ!!!大丈夫!間違えてぶっ刺さても大丈夫!!あいつ死なねえから!!」


「そういう問題じゃねえだろ!!」


エレナはこの時、声の主を確認する事を優先してしまった。


「速水ィ!!受けとれ!!」


ヤマモトのコントロールがよかったのだろう。

「マルテ」の剣は勢いを落とさず、速水の眼前を横切る。


「まずい!!」


エレナが叫び、速水に触れるよりも早く速水は剣に触れていた。


決着した。


エレナは速水へと触れた。


しかし、明確な変化は起こらない。


ハッとした様な顔をした速水は、投擲の主の側にいる者へ叫び声をあげる。


「咲ッ!!他の信者を早く救え!!」


「大丈夫!!もうやってるわ!!」


速水が残された十字架へと目線を移すと、そこには柄の悪い黒服と、獣人の娘が火のついた藁を撒き散らしていた。


「ツキミヤ!!この箱の中なのか!?」


「ええ!その中よ!その中の石を砕いて!」


「うーん...開かない...箱ごと壊しても良いよな!」


そう呟くと、獣人の娘は箱を下に落とし、瓦割りに似たモーションで箱めがけて拳を決めた。


「ツキミヤ!!壊れたぞ!」


「やっぱり信者に変化は無いわね!」


「なるほど...月宮咲、あなたが首謀者ですね。」


舞台へと続く階段を下る。


「ミステリー小説だったら、こういう大舞台こそ最高のタイミングよね。」


「さあ、エレナ・フィッシャー!!解答編に駒を進めようじゃない!」













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