表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/319

教祖から学ぶフェティマ教

「あ、やっぱり何でもって言うのは甘やかしすぎね。」


異様な緊張を抱える私と対照的にエレナは明るく言う放つ。


「答えられる物だけ答えてあげる。答えられないのは答えられないって答えるわ。」


この女の目的はなんだろう。

私達の目的は筒抜けだ、と言ったのだ。


フェティマ教の衰退を狙う私達は明確な敵のはず、仮想ではない。


なのに会いに来た、という理由だけで情報を簡単に与えようと言うのだ。


この理由を聞いても、再び「会いに来たから」ではぐらかされるだろう。


ならば、私が今与えるべき問いは...



「あなたの恩恵は何?」


「答えられない。」


こいつさては言うほど情報をくれないな?


「なぜ私達が来たことがわかったの?」


「女神の恩恵の副産物と、この世界の技術を掛け合わせたの。」


「この世界の技術?」


「そうねえ、一言で言うなら監視カメラよ。比喩だけど。」


監視カメラ...?塔にもリディニアにもそんなものは無かった。


この世界で形状は違うのだろうか?


聞いてみようとリンネを見たが、先程よりも顔色は悪かった。

ここでは使い物にならないだろう。


「なるほどね。あなたのいう情報って言うのはヒントの事ね?」


「ええ。正解をそのまま教えたら、あなたさっさと帰っちゃうじゃない。」


「あなたが騒ぎを起こしてからずっと探してたんだから。」


「あ、でも変な騒ぎを起こすのはあの一回にして頂戴?リディニアでもね。」


「どうしてよ。」


「どうしてって、フェティマの信者に悪影響でしょ?私はこんな感じだけど、フェティマって以外とお堅い宗派なの。」


「静寂を制すれば、即ち真理に至るってね。」


「へえ。五年で勃興したからさては終末の救いでも願ってるのかと思いきや、真理への到達が目標とはね。」


再度思い起こせば、目的はフェティマの衰退であってエレナの討伐ではない。


もしかしたらフェティマを知ることが近道かもしれない。


「どうやって五年でこれほど成長したのかしら?」


「たかが宗教が都市一つ掌握するなんて聞いたことないんだけど。」


「話せば長くなるんだけどね。私って元の世界でも宗教家だったのよ。」


「転移して半年後、他の方とはぐれてリディニアに着いたんだけど。恩恵の力もあって私の周りにはたくさん人がいたの。」


「だからかしらね、四方八方から色々頼み事とか相談があってね。」


「色々騒がしい日々を過ごしてたの。ああ、でも宗教家として活動はしてなかったわ、リディニアに住む一般人として過ごしてたの。」


「でもね。私にはそういう騒がしい日常が合ってなかったみたい。」


「人と居ることに疲れ始めてね、殊更私に相談事を持ちかける人に怪しい物を売り始めたのよ。」


「霊感商法の逆機能って事?」


「そうそう、元の世界じゃこんなことしたらどんなに親しくても一瞬で関係が水の泡になるからね。」


「まあ、何故か上手くいっちゃったんだけど。」


「適当に拾った石ころが、奇跡の石って広まっちゃってね。リディニア全域から欲しがる人が来たのよ。」


「いつかボロを出すと思ってどんどん高額にして売り付けたんだけど。値段に比例してどんどん上手く行ったのよ。」


「お茶、冷めちゃったわね。ちょっと待ってね。」


パンパン


「ダージリンを淹れてきてくださらない?3つ、ミルクをたっぷりね。」


手拍子で信者を呼び寄せるとエレナは小声でそう伝えた。

信者は足早に部屋の扉を開けて去った。


「この話が信者に聞こえたら不味いんじゃ...」


「大丈夫よ防音だから。」


「しばらくして、一部の石に魅了された人が石を崇拝し始めてね。」


「静かに過ごす事を諦めてたんだけどそこで閃いたのよ。」


「この石を基点に宗派拓こうってね。厳格な宗教の教祖ともなれば、容易く手に届く存在にはならないから。」


「それで拓いたものがフェティマ教...名前は適当かしら?」


「ただの石が信仰対象じゃ弱いから信仰対象を神様にしたのよ。」


「その名前からね。」


「自分が作った神様の名前を宗名にねえ...」


「完全にオリジナルな訳じゃないのよ?」


「...まさか...ファティマかしら...?」


元の世界で人類が唯一目にした奇跡を起こし、人類が今後見なければならない3つの災厄を予言した女神。


「大正解!その名前に石ころの元素をつけたのよ。」


「そこら辺の石ころでしょ?いろんなものを含んでるじゃない。」


「でもまあ想像するならferrumu...鉄、かしら。」


「正解。鉄の女神フェティマの完成よ。」


「宗派を拓いてからは適当に神話を作ってリディニアから離れたこの場所を聖地にしたの。」


「私が転移者って言うのと、リディニアがマルテ教の聖地でも合ったことが都合良かったわ。」


「その頃にはもう100人くらい信者が居た気がするわ。」


「で、私は彼らに自給自足の生活を送る様にさせて聖地の近くで過ごすことにしたの。」


「確かに、小さな宗教が閉鎖的に過ごすのは良くある事ね。」


だが、閉鎖的な組織というものは大概良い結果にはつながら無いのだが。


「あなた以外と宗教について詳しいのね。」


「農耕とかで過ごしてたんだけど、この世界は魔法が在るせいかそういう見識が無くてね苦労したわ。」


「そういう生活をしながら、大人しく暮らしてたの。何故か増え続ける信者と共にね。」


「でもある日ね。信者の一人が鉱脈を見つけ出したのよ。」


「は?鉱脈?」


「ええ、リディニアの地中に根をはるみたいに全体に広がっていて。」


「お持ちしました。」


3つの紅茶を持って信者が入ってきた。


「ありがとう。」


「失礼します。」


「今来た彼が鉱脈を引き当てた強運の持ち主よ。」


「そう、それで?」


「ま、あとは簡単よ。その鉱脈で資金を作ってリディニアから信者を募って独自に技術を作り上げたの。」


「建築、繊維、魔術、加工、商業etc。その果てが今のフェティマ教よ。」


「あなたの居た国でもたった数年で建物一つない焼け野原が数年でビルの群生地になったでしょ?」


「それがある一部に集中しただけの話よ。」


「リディニアにはマルテ教の方が根強くあったはず、何故その管轄権を掌握できたのかしら?」


「リディニアはあくまでも商業都市、莫大な資金を持つ私達(フェティマ教)が適しただけの話よ。」


「じゃあ、フェティマ教がマルテ教を排斥しているのはなぜかしら?適して居るのなら眼中にも無いでしょうに。」


「それだけじゃない。なぜリディニアには行方不明者が多いのかしら?」


三人八組の王国機動部隊から始まり、リディニアには行方不明者が多数居る。


そのほとんどの最終目撃地がバベルの討近くだ。


「リディニアのギルドに行ったのね。でも安心して、あそこの掲示板に張られた人は、全員フェティマ教に入信しているわ。」


「私が強引にさせた訳じゃないのよ?全員自分からバベルに来て請い願った結果よ。」


「まあ、ギルドを管轄しているのは王国だから行方不明の届け出を下げられないんだけどね。」


王国の機動部隊が寝返っただけの話だったのだろうか?

彼女がそう言っているだけの可能性もあるが...


「最近、マルテ教の獣人がフェティマの信者に連れ去られたそうよ。」


「最近は信者の数が多くてね。過激派も居たりするのよ。連れ去りもその者達の仕業かもしれないわ。」


「その獣人の女の子もどこにいるか知らないの。」


「意外と天然なのね。私は獣人とは言ったけど、女の子とは一言も言ってない。」


「それに、あなたは私達がどこにいるかすらわかった。リディニアでもそうだと言ってたわよ。」


「あらあら、そんな怖い顔しないで?」


「マルテ教って、まあ引いてはリディニアもだけど女性人口が多いのよ。だからそうかなって思ったの。」


「あと、これは謝らなくちゃならないんだけど私はバベルの塔内部しか情報を掴めて無いの。あなた達の企みが分かるってのもハッタリよ。」


「バベルに潜入した時点で、ろくでもない事を考えてるのはお見通しだったからつい嘘をついてはしまったの。」


余裕そうに彼女は淡々と述べる。

彼女の笑顔は崩れない。


「今まで過激派は自由にさせてたんだけど、そろそろ監視が必要なようね。」


「私も連れ去られた獣人を探して見るわ。」


フェティマにはやはり黒い側面があるようだ。

私は確信した。


でも、エレナが関わっているという根拠はない。

フェティマ衰退の機転として教祖の裏がわかれば、と思い聞いた噂をぶつけたが上手くはぐらかされてしまった。


何か、ないだろうか。


この情報をビーチュや速水に伝えれば彼らが何かの気がつくのだろうか。

隣の使えないエルフの体調が戻れば、その慧眼で見定める何かがあるのだろうか。



私が見た物語の転移者と私は何が違うのだろうか。

彼らは疑問が疑問として成立し、彼らの見てきたものは彼らの機転となった。


根拠が噂でもそれは多分に動揺させる証拠となるし、物語の進む糸口になっている。


私の疑問は[彼女に何か裏あるのではないか]だ。

しかし、これが疑問として働かないのなら私の今までは全て無駄になる。


ここにいるのが別の誰かだったらもっと有用な事が思い付くかもしれない。


私しかここに座っていないなんて事は無かったのだから。


「あ...」


私は俯きかけた顔を少し上げた。


今ここでエレナに問いを与えられる転移者は私だけなのだ。

ならば、この塔でリディニアで得た情報だけが私の引き出しではない。


私は今までのどこかで塔に関する情報を持っているはずだ。

本来知れたはずの無い、偶然私だけが知った情報を。


もしも誰にでもきっかけが等しく与えられたのなら。

そのきっかけを生かすには与えられた事に気づかなくてはならない。



「聞きたいことはもう無いのかしら?何か心が折れたような顔をしてるけど?」


行方不明者は入信済み。

誘拐は一部の過激派が。


いや、一つ思い出した。


直接リディニアの名前が出なかったから記憶の片隅に追いやられていたが、レミニアで眼孔に花を活けていた男から確かに聞いた。


王国の末端で王国部隊が全員撲殺された事件。


王国の末端、としか条件がわからないが突きつける価値はあるかもしれない。


「最後に聞きたいんだけど、なぜ王国の部隊を虐殺したのかしら?」


笑顔が少し歪んだ気がした。


「彼らはフェティマ教の存在を煙たく思っていたのよ。」


「何度か王国の人間が交渉しに来たけど、王国に上手く事が運ばなくてね。」


「それで凶行に及んだみたい。かなりの大部隊で侵襲して来たのよ。」


「だから私達は、フェティマを守る為に闘った。ただそれだけの話よ。」


「王国はかなりの技術を持っていたはず。武器を持つ機動部隊にどうやって勝ったのかしら?」


「その問いに答える前に、横のエルフと違ってあなたはずっと柔らかい表情をしているけれど具合の方は大丈夫かしら?」


「...?。何も変なところは無いわよ。さては、さっきの紅茶に何か入れたの?」


「入れてたら何も聞かないわよ。」


「私達は鉄の加工術はかなり発達していたからね。鉄鋼武具に関しては王国の上をいっただけの話よ。」


「政府と宗教と対立は良くあるし、必ずしも政府が勝つ訳じゃない。あなたのフェティマを守れて良かったわね。」





「じゃあ、聞くことは聞いたし私達は帰るわね。」


「えっ!は!?帰る!?」


ここにきて初めて驚いた顔をエレナは見せた。


「え?ええ、嫌でしょ?スパイが自陣の本拠地にずっといるなんて。」


「ほら、リンネ。体調も優れないんだし帰るわよ。」


咲はリンネを強く揺さぶる。


「あの、もう少し...居ませんか?塔の内部は、全く見れて無いわけですし。」


「できれば...その、エレナさんと一緒に。」


「ダメに決まってんだろ。どこのスパイが敵の大将にわざわざ本拠地を案内してもらうんだよ。お前ずっと黙っててやっと話した言葉がそれかよ。」


「口を慎め。ほら帰るわよ。私達まだ生きてるって方がおかしいんだから。」


「あの、あなたさっきと口調違わない?」


勝手に心が折れたはずの咲の表情は、何事も無かったかのようであった。


それどころか、話し相手がエルフだからかもしれないが口調が180度異なることにエレナは驚いているようだった。


「これが私なだけよ。」


「お願い、します!!エレナさん!私と一緒に、ぜひバベルの案内を!」


「エルフってこんなに我が強いのかしら...」


顔を赤らめて必死に懇願するリンネの姿に咲は内心引いていた。


「月宮さん。私は別に案内してもいいわよ?元々そのつもりだったし。」


「ダメですよ甘やかしちゃ。こういう人の事情を考えないエルフにはキツく言わないと。」


「前も主人が窮地に陥る事をしでかしたんで、公衆の面前で想いっきり発情させたんですよ。」


「ええ...あなたそんな事もしてたの?」


エレナは咲の凶行に引いたようである。


「いや、ほんとうに案内するわよ。私はあなた達がスパイだと思ってないし、客人としてって言ったでしょ?」


「うーんそこまで言われて拒否するわけにもいかないですし、バベルも見ておきたいですしね。御言葉に甘えさせて頂きます。」


「おらっ!エレナさんにありがとうございますって言え!!」


いつの間に着けたのか、リンネには紐付きの首輪がかけられていた。

紐の先は咲が掴んでおり、誰が見ても主従の関係が分かる姿だった。


「エレナさんありがとうございます!!好きです!!」


「あ!?何お前告白してんだよ!もう一回言え!」


「エレナさんありがとうござい」


「声が小さい!!」


「エレナさんありがとうございます!!好き好き、大好きです!」


「告白までがワンフレーズじゃねえよ!!」


エレナは心底部屋を防音にしていた事を安堵していた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ