俺、召喚される。上
作成日:2013年 04月13日 09時42分
掘り出しもの。途中まで書いてたのに大量のデータが消えた過去の漬物短編。まったくもって謎文章です。imifu.
まず目の前にいたのは、豚だった。
いや、豚に擬態した人間か。
「おお……成功じゃ!」
もごもごとした口元からは鳴き声ではなく、渋いダミ声が発声された。
豚さんは、国王だった。
彼の背後に控えているのは、魚類、怪物類、山菜系、骸骨系、ぽっちゃり系やら、あえてのガリガリ系、もしくは妖怪だろどこの封印から解放されて来たんだよ系、お菓子みたいな頭部の形類、果ては脚が三本じゃねーか奇形、などなど、彩りだけは派手だが顔も負けじと奇抜な人間もどきが多数が、見覚えのない大理石の祭壇みたいな所でごった返していた。
え、ココ何かのバーゲンセール会場?
なんて一瞬の勘違いを起こした俺は周りをきょろきょろと見回す。
「皆の者、さあ、我らの救世主の誕生じゃ!」
彼らは国王の気鋭に、いささか大人しくもない同調を示し、俺のナイーブな鼓膜を破かんばかりに声を上げた。
場は大いに盛り上がりを見せている。
え? 誕生?
あれ? 俺って生まれたばかりだっけ?
いや、違うよな。赤ん坊じゃないし。肉体はある。
現実感ありすぎるし、どうも夢の続きでもなさそうだが。
しっかりと酸素吸って息してて、なにより死んでいない。
俺は、この化物のたまり場みたいなところで、呆然と立ちっぱでいた。
声は出なかった。さすがの俺も、動揺しっぱなしだ。
生まれて初めての異世界、
お約束の美男美女がお出迎え、などと思ったらブサイク人間ばかりだった。
昔っから、こういった異世界への訪れを描いた本、というものはあるのは知っている。映画だってあった。ただ、そういった人物はたいてい勇気があって、顔もそれなり、頭も良く、なんだかんだで運動神経も運も良すぎてどんな難題も突破できるような奴が、こういった異世界へやってきたりするはずである。
それが、どうしてこの平凡を顔にした俺に白羽の矢が立ってしまったんだろうか。
俺の実の兄貴のほうが、こういったところにお呼ばれしそうな感じがしないでもない。
イケメン兄貴の腹立たしいニヤケ顔を思い浮かべつつ、俺は密やかに苛立った。納得いかぬ。
暇そうに見えても、暇ではないのだ。現役高校生、舐めんなよ!
「ああ、お初にお目にかかりまする。
わしは、この世界の国王のひとり」
え、国王って複数いるの?
「ああ、いえ。
わかりやすく申し上げれば、わしは2大国家のうちのひとつ。
その内のひとつである国の王であります」
まぎらわしい!
なんでか、ただの現役高校生にへりくだる意志を示す豚さんは、この国の王様ということらしい。頭上の王冠が、確かに王様らしさを現している。きんきら光ってるし。
さらにはド派手なシャンデリアがぶら下がっていて、そのキラメキを四方八方に撒き散らし、豪奢なこの国王の部屋をピンピカに輝かせている。といっても、格好だけは王様然とした真っ赤なマントを身にまとう豚さんじゃ、どうみても豚に真珠……いや、まさにそうなんだが。意味はともかく。
金色のツルツル表面のテーブルにはこれまた同じ色彩の小さめなカップと、一口で溶けてしまいそうなお茶菓子がそえられている。
ちなみにお菓子も金色なので、視覚効果は抜群である。味は美味いが。
渋みの強いお茶と激甘お菓子のコラボレーション、口内調味が絶妙だ。
口の中をモゴモゴとさせている俺、歓待される。
「わしらは、貴方様にたってのお願いをもって、
この世界に呼び寄せたのであります」
「……」
「隣国との友好条約を、結びたいのです」
俺は、思いっきり反論した。
お前らでやれ。他人を巻き込むんじゃねぇ!
切々と、語った。正直、明日新作ゲームの発売日だ。予約してる。
すごく、楽しみにしているのだ。翌日は、張り切ってひと狩り行かねばならない。
だが豚さんは、こう答える。
「我が国の宝をひとつ、差し上げたく思います」
ほう。
自然、視線が国王のピコピコ動く耳と耳のあいだにある、宝石散りばめられた王冠へと目が吸い寄せられる。
アレ、売ったらどれぐらいの資産価値があるというのだろう。
現役高校生にして、持ち家。すごく、良いです。
好きなだけ、趣味に没頭できるであろうし老後も心配ない。払う税金が少ないの良いよね。なんたって異世界からの稼ぎは不労所得じゃねぇし。多分。
とにかく俺は、事情とやらを説明してもらうことにした。
提供された情報を精査してから、判断してやろうではないか。
「なんせ、もう数百年以上も会話をしない国なのです」
え?
それって、人が住んでないんじゃないか。
荒廃した大地を脳裏に浮かべる俺の顔と会話をする豚さん、悟る力も一応あるのだろう、淡々とダミ声で俺の問いを解していく。
「森林地帯の国境に向かい、声を張り上げても、返ってくるものは石の投擲。
帰れー、などという摩訶不思議な声をもらうだけなのです」
それって野蛮人が住んでんじゃねぇかな。
「わしが言っても、ナシのつぶてなのです」
そうだなあ。意味の通りになっちまったなあ。
「稀に、わしの国民が興味本位で近寄ることもあるのですが、
わしの民たちは、皆、あの国へ向かっては二度と、
戻ってはこないのです。国境へ行って行方不明の国民の行方を
訪ねようにも、彼らは同じく帰れーの連呼ばかりで」
ええー。
「本当に、彼らが国を超えて、隣の国へ向かったという証拠もないため、
わしらは困っておるのです。証拠もなく、隣の国へ押し入るわけにもいきませぬ」
フゴフゴと、豚さんは大きな鼻を下に向けてしょんぼりとした。
俺は、一通りの話を聞いた。
曰く、友好条約を結ぶための条件付けをした異世界召喚に引っかかった俺が、この問題を解決できる唯一の切り札である、と。元の世界に戻るにしても、この問題をクリアできねば、戻ることさえ不可能である、と言い渡されてしまった。どうしてそうなるのかはわからないが、異世界への扉はそう簡単に開きはしないらしい。時間もかかるし手間暇もかかる。つまりはこのバケモンばかりの国のために働け、ということらしい。とはいえ俺はこの国に大した愛着はない。というか、そんな何が住んでるか知らない隣国へ向かうにしても、謎だらけすぎてどんな危険な目にあうのか明日をも知れない、したがって、命懸けになってしまうのだから、この国の無体な仕打ちに打ちひしがれて、ブチ切れてしまいそうで。
己の怒りをコントロールせねばならなかった。
あまりにも理不尽過ぎる!
そもそも現役高校生になんてことしてくれるんじゃ。
まだまだ選挙権だって発生しないお年頃なんだぞ!
ガタっ、とアスキーアートばりに立ち上がる俺。
「お宝」
ぼそっ。
豚さんからの何気ない言葉に、俺の眉がぴくりと動く。
「お宝、ひとつ」
ぴくぴくっ。
俺の鼻が膨らむ。
「……仕方ありませんな。ふたつ」
俺は謙虚な日本人らしく、指を三本、ゆっくりと豚さんの眼前に作った。
王様は、豚鼻を鳴らして唸ったが……ついに了承の意を示した。
立ち上がっていた俺は元の位置に座り直した。
これにて貪欲まみれの、生々しい契約が成されることとなった。