有閑な午後のひと時
さらさらと、砂時計の音がする。
そろそろ、私の好きなダージリン紅茶が出来上がる。
ティーポットの横には、少し焦げたアップルパイ。
もう少しこの読みかけの小説を読んだらお茶にしましょう。
退屈極まりない午後のひと時をゆったりと過ごしながら、ページをめくった……
「笑える…何そこの有閑な人……」
笑い声と共に、ずっしりと背中にかかる重さ。
背中に感じる人肌の温もり。
じゃ、なくて。
「笑いたければ笑えばいいじゃん!私、今はそれそれしかできないんだから!!」
大声をあげて後ろをはたき落としながら私は振り返った。
「大体、こんな状態になったのは、あなたのせいでしょう!!」
砂時計の砂が落ちきるまであと少し。
私の名前は「鈴木めい」本来ならばこんなにゆったりとした時間を過ごせるはずもない働き盛りの24才。
後ろの笑い声は「伊藤伸」本来ならば……以下同上。
なぜにこんなに有閑な時間を過ごしているのか。これには深いわけがあるのです。
忘れもしないあれは2か月前の仕事帰り。
6時に友人と待ち合わせをしていたので、会社から出て待ち合わせの場所に急いでいた。
卒業以来なかなか会うことが出来ないので、プチ同窓会を兼ねて飲み会をすることになり、女子から、私と、男子から伊藤君が幹事になり、会場を探すことになった。 はっきり言って、SNSの口コミでいいじゃん、って言ったんだけど、それは違うらしい。伊藤君に飲み会の心得を切々と訴えられた。曰く、「掲載されていることを鵜呑みにしてはいけない。」「女子なら個室の雰囲気とか、気にするでしょ。」「やっぱり店員は直接見なくちゃ。」 なのだそうだ。
はっきり言って2つ目までは分かったけど、最後には「お前はライバル店の回し者か!」とか、思ったけど。 そういう訳で待ち合わせ場所に急いでいたのですよ。
「伊藤君待った?」約束した時間より少し前、待ち合わせ場所についた私はそこに待ち人を見つけ、小走りでかけ寄った。
「いや、今着いたところ。」片手をあげてこっちを向いた伊藤君は変な物をもう片方の手にもっていた。