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吉岡綾乃は最強の魔法をかけた  作者: 椿 雅香
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長尾くん

ジュニアが登場します。

  Ⅴ 長尾くん


「何をしてらっしゃるのですか?」

 涼しげな声が聞こえた。

 振り返ると、うっそうとした緑池の畔に、ほっそりした青年が立っている。何となく、見たことがあるような、ないような、そんな不思議な印象の青年だ。

「失礼ですが……吉岡綾乃さんでいらっしゃいますね?」

「そうですが……あなたは?」

「私は、長尾と申します。長尾龍彦です」

「どうして、私の名前、知ってるん?」

「あなたは、パーフェクトの有名人だから……」

 長尾は爽やかに笑った。

「あなたも魔法使いなん?」

「初歩的な魔法だけ使う魔法使いです。あなたが、いつも、書道の時間に時空を越えたクラスへ出掛けるのを拝見させて頂いてました」

「じゃあ、あの書道のクラスにいたの?」

「ええ。その他大勢です」

 その笑顔が余りにも懐かしくて、どこかで会ったことがある、と直感した。

「あなたは、気付いていないでしょう。でも、私にとって、あなたは、憧れの的です。何でもできるパーフェクト。友達に緑や赤や青の魔力を与えることもできる」軽く笑って続けた。「しかも、あなたが素敵なのは、それを自分のためじゃなく、他人のためにするんです」

「でも、後で、先生に目一杯叱られたんや。私、魔法のことは、何も知らんかったから、適当に祈ったらできたんやけど。魔法使いの社会じゃ、ヤバイことやったみたいや」

「そんなこと、ありません。龍を昔に送ったのだって、龍のためになさったのでしょう?本当なら、ここで、ずっと一緒にいたいと思ってたんじゃありませんか?」

「仕方ないんや。タツヤ――龍は『タツヤ』って名前やったんや――には、お嫁さんが必要やったし、この時代には、タツヤのお嫁さんになれるような龍はおらんかった。だから、タツヤの幸せのためには、ああするのが一番良かったんや」

「でも、その代わり、あなたは独りぼっちになられた」

「?」

「私は知ってるんです。先生が、あなたに、二度とタツヤに会えない魔法をかけたことを」

「そう……」

 不覚だった。思わず、涙が出た。

「タツヤにいて欲しかったんでしょ?」

思わず頷いた。涙が止まらなくなって、こんな初めて会った青年に泣き顔を見られるのはどうかと思ったが、止まらない。

 今、あいつがいたら、慰めてくれたのに。大丈夫じゃ、ワシがついておる。って、抱きしめてくれたのに。

 そう思うと、嗚咽が止まらなくなって、ゴメン。と、後を向いて、しばらく泣いた。

「思いきり泣いたらいいですよ。私は消えます」

「どこ行くん?」

「あなたが、さっき抜け出したパーティーです」長尾がニコリと笑った。「あなたはパーフェクトだから、何をしても許されるでしょうが、私のようなその他大勢は、しっかりお説教されますから」

「じゃあ、送るわ」

そう言って涙を拭いた。



長尾くんは、良い男です。

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