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吉岡綾乃は最強の魔法をかけた  作者: 椿 雅香
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静香が小西を選んだ後で、綾乃は、小西に恋をしていたことに気づきます。

   Ⅳ 恋


 足は、緑池に向かっていた。

 緑池。私の魔法使いの生活で、楽しかったのはここだけだ。

 龍さえいれば、静香を中心とする三人組が何をしようが、どう転ぼうが、知ったこっちゃない。そのために、龍を探したのだ。でも、あいつは……。

 パーティーを途中でサボってしまったのだ。後で、長老達から叱られるだろう。でも、気持ちに整理が付かなくて、ここは自分の足で立てるようになることが最優先だと思った。

 テレポテーションすれば速いけど、険しい山道を歩いて登った。体を酷使することで、気持ちの整理を付けたいと思ったのだ。乾いた土と青臭い木々の匂いの中を、抜け殻のような体を引きずって登る。夏の日射しがきつくて痛いほどだ。

 昼前に、緑池に着いた。

 緑池。以前、私が恋した龍が住んでいた池だ。古い苔むした池で、水質のせいだろうか、苔のせいだろうか、水が緑色に見えるのだ。

 ここに住んでいた龍は、私の半身だった。あいつさえいれば、静香が何をしようが、中島や小西がどうなろうが、知ったこっちゃなかったのに。

 龍のタツヤは、魔法使いの先生の指示で、私が上杉謙信の時代に時空移動させた。あいつにはあの時代の方が居心地がいいし、何より、番になれるメスの龍だってたくさんいたのだ。今の時代に、この汚れた緑池で独りぼっちでいても、パートナーを見つけることなんかできないからだ。

 でも、それは、口実だった。

 魔法使い社会は、私が龍と結婚することをおそれたのだ。私も、何の因果かパーフェクトだ。優秀な魔法使いと結婚させたいのだ。でも、私が魔法使いの男の子と仲良くしないのでイライラしているというのが、長老達の本音だろう。

 今、静香が、大学在学中にも関わらず、小西を選んだ。私も、さっさと誰かを選べと言われるだろう。

 魔法使いの男で、使える魔法の色数が最も多いのは、中島と小西の他に二つ年上の佐藤真一がいる。小西が『佐藤の馬鹿』と呼んでいる男だ。彼は、小西達と同じく四色の魔法を使う。

 あいつは論外だ。自分の色数を鼻に掛けて、他人を見下す。

 中島や小西が四色になったのも、佐藤が色数を笠に着て静香に言い寄ったので、静香を守るため、当時まだ三色の魔法使いだった二人に私が新しい魔力を授けたのだ。

 こんな魔法を使う者は他にはいない。と、後で言われた。

 ただ、あの後、五色の方が良いんじゃないかと試してみたのだが、上手く行かなかった。要は、せっぱ詰まったとき、必死に集中しないとできないらしい。

 魔法使いの長老達は、私にこんな力があるのを知って、この力を使って、他の魔法使いのパワーアップを図ろうとした。だが、私がせっぱ詰まらないとできないことが分かってから、諦めて何も言わなくなった。自分達の思うようにならなくても、私がいつかその気になって誰かに能力を付与すれば、能力の衰退を防ぐという意味で、魔法使い社会の目的と一致する。変に私を刺激しない方がいい、と判断したのだ。



 何もないところから、ペットボトルのお茶を取り出して、一息で飲んだ。

 そうして、いつもの木陰で寝そべった。

 手で水をすくってみる。前にもこんなことがあったっけ。そして、小西が、何してるんだ、って訊いたんだ。それから、私の頼みを聞いて、あいつ、1578年へ行って、上杉謙信になっていたタツヤが死んだことにして、緑池に連れてってくれたんだ。そうして、私をその翌年に連れてってくれて、「呪文ってのは口に出した言葉に拘束されるんだ。先生の魔法はタツヤに『会えない』だったから、『見る』ことはできるんだ」って教えてくれた。それから、二人で、タツヤとお嫁さんとタツヤの子供――私と小西は、密かに『ジュニア』と呼んだ――が池から飛び立つのを見たのだ。

 タツヤは幸せそうだった。幸せになったのだ。でも、私は……独りぼっちだ。

 あの後、中島と小西が二人して私に気を遣ってくれるようになった。静香が、ときどき癇癪を起こしたほどだ。

 小西が、ときどき心のガードを外してくれるようになった。静香の次に私のことを好いていてくれているのが分かって嬉しかった。ときどきデートにも誘ってくれた。でも、静香が小西を選ぶと、それも終わる。やっぱり二番目だったのだ。分かっていたのに。

 深呼吸を三回して、無理矢理思い出した。

 私は、周りの魔法使いや魔女達のように種の保存だけを目的とするような生き方はしたくなかったはずだ。この力に魅入られた者の定めを受け入れて、それでも、この力の思い通りにはなりたくない、と誓ったはずだ。

 でも、小西にはそれじゃ困るのだ。彼は、生まれた時から魔法使い社会で生きて来た。私なんかの相手をして、一生独身ってわけにはいかないのだ。だから、これはあいつにとって正しい選択なのだ。

 あいつがいてくれて嬉しかった。疲れた時、あの癖のある笑顔に触れると、元気が出た。これを恋というのなら、そうかもしれない。

 小西が静香のものになって初めて、自分が小西に恋していたことに気が付いた。

 私って、抜けてる。

 苦い息を吐いた。

 体を包む空気に鋭角的なものを感じた。神さまは、しばしば私に優しい振りをする。でも、それに騙されてはいけないのだ。小西が優しかったのは、神さまの気まぐれだ。……心地よい夢だった。


二番目の女って辛いものです。

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