魔法の使い方
魔法のクラスのことはさておいて、高二の春、私は、表向き大阪の高校から母の母校に転校した。魔法のクラスは、そこから時空を越えて通うのだ。
母の母校では、静香の要請で手品部に入部した。手品も魔法も英語で『マジック』。手品部は魔法使いのクラブだったのだ。手品部は、毎週木曜日に例会がある。選択科目の書道の授業の時と、木曜日の手品部の例会の時に、魔法のクラスに飛んで、魔法の勉強に精を出すのだ。
文化祭が終わってからは手品部をやめたが、魔法の能力は私に取り憑いて離れない。結局、魔法のクラスへ行くしかない。毎週木曜、時空を飛んで魔法のクラスで学んだ。
そうこうしているうちに、私の霊力、つまり、魔法の能力が上がった。
この力のせいで一般人の友人達と疎遠になり、周りは、エッチの相手を物色することしか考えていない魔法使いだけになってしまった。魔力の制御のためには、魔法の勉強をするしかないだろう。でも、魔法使い社会の都合の良い魔女になんかなるもんか。
何度か、魔力を誰かに譲って自由になろうとしたが、失敗した。対象に新しい魔力を授けるところまでは上手く行くのに、何故か私から魔力がなくならないのだ。まるで、魔力に取り憑かれているみたいだ。魔力に邪魔されず人生を全うするにはどうすればいいのだろう、と真剣に悩んだ。
魔法使いが結婚相手を魔法使いに限定しなければいいのに、と、何度も思った。遺伝子レベルのデータベースがあるのだから、誰と結婚してもいいじゃないか、と思うのだが、私がパーフェクトの魔女だからか、魔法使い社会は私に魔法使いと結婚するよう求める。
静香達魔法使いは、子供の時から、魔法使いと結婚すると教えられ、何の疑問も感じていない。魔法使いのパートナーを捜すことが人生最大の目的だと考える馬鹿もいる。
でも、そんなことを強制するなら、魔法使いにもっとマシな男をそろえておいて欲しい。
タツヤの件さえ目をつぶれば、魔法使いの男で一番マシなのは中島と小西だ。だが、あの二人には、静香しか見えていない。
その他は、パーフェクトの魔女とエッチすると能力が上がるという馬鹿げた迷信を信じている者か、魔法使いとしては最優秀なパーフェクトの魔女を妻として、優秀な子孫を残したい者ばかりだ。
魔法使い達は、どうして自分達にこんな力があるのか、考えたこともないのだろうか。
我々には何故こんな力があるのかとか、この力はどういうふうに使われるべきかなんて哲学的な命題を議論する場面なんか見たこともない。
こんな力がなければ、自由に友達を選べたし、自由にパートナーを捜すこともできたのに。この力のせいで、自由に生きることができない。
散々悩んだあげく、たどり着いた結論は、しごく平凡なもので、周りの思惑は無視してマイペースで生きていこうというものだった。タツヤがいたら、きっと賛成してくれただろう。
ただ、私の意向を無視して存在し続けるこの力を何か意味のあることのために使おうと思った。そうじゃなかったら、何のために友人達から遠ざけられ、彼氏と別れさせられたか、分からない。龍のタツヤさえ取り上げられ、たくさんの友情や恋を犠牲にしたのだ。この力を有意義に使わないと悲しすぎる、と思ったからだ。
大学へ入った頃から、おばあちゃんの住む地域の人々のために魔法を使おうと、お天気や経済活動に目を配るようにした。地域の様子を観察し、その時々で必要な魔法をかけることにしたのだ。住んでいるのは大阪の実家だけど、テレポテーションできるのだ。魔法を使う拠点は、おばあちゃんが住むあの町にした。タツヤと出会ったあの池の畔が、私のベースキャンプだ。そこで、魔法憲章第一条、世のため人のために活動するのだ。
農作物の収穫時期には良い天気が続くようにしたり、台風が来たら、さりげなくコースをずらして被害が及ばないようにしてみたり、地域の人達が何となく昔からあるお店を利用したいと思うような魔法をかけたり、お年寄りが老人会の活動に興味を持つような魔法をかけたり、大きなことはできなくても、探せば結構やれることがある。
地球温暖化に歯止めをかけるなどという大それたことは私の霊力では不可能だったし、昔、どっかの国会議員のキャッチフレーズに、「大きなことはできないが、小さなことからコツコツと」というのがあったけど、私の霊力ではこの辺りが限度だったのだ。
天職だと思ってこの活動をやっていたら、ある朝気が付いた。
私の霊力が増していたのだ。
がっかりだ。