中島の望み
イケメンが苦労する話は、好きです。あぶれた中島は、少し疲れた感じで素敵です。
Ⅵ 中島の望み
気配を感じて振り返ると、中島が立っていた。呆然としながら、私達を見つめている。
私は、どうしてここに中島がいるのか、よく分からなかった。
とりあえず、火中の栗を拾いに来たのだ。ご苦労さん。と、言っておこう。
「カ、何か用?」
「シズに頼まれた。君を連れ戻して来て欲しいって」
「ウチ、戻らん」
「長老達が怒ってる」
「いい男をゲットするようにって指示やったし、指示通りいい男をゲットしたんや、文句ないはずや。そう言うといて。送るわ。帰ってくれへん?私、この人と一緒にいたい」
「虹の色の魔法も使えない男じゃ、長老が納得しない」
「あんたもなん?そういう差別的発言は嫌い」
目を上げて睨むと中島の端正な顔が歪んだ。
中島も可哀想に。静香一筋だったのに。今度のことは、ショックだろう。
私のことは、気にしなくていいよ。あんたは、自分の好きな人を捜せばいいから。
そうして、私を抱きしめてくれている長尾の頬にキスして言った。
「魔法使いに代償として渡した力が元に戻りますように」
長尾の目が青く光った。
「これで多分、元に戻ったと思う。やってみて」
長尾は私を胸から離し、ゆっくりと人差し指を振った。すると、池の上に黒雲が湧いて雨が降る。 長尾がニコリと笑って、「元通りです」と言った。
中島は、息もできずに立ちすくんでいる。
彼はおずおずと言った。
「綾乃。僕に、藍の力を授けてくれないか?」
「?」
「シズが、透を選んだのは、透が藍の力の苦しさを知っているからだ。前から、言っていたから。そんなに苦しいものだと思わなかった。でも、この結果を見ると……ものすごく辛いんだろう。どんなものか、感じてみたいんだ。シズ達が子供の時から辛い思いをして来た藍の力って、どんなものか知りたいんだ」
「後悔する。私だって、この力がなけりゃって、何度も思ったもん」
「……頼む」
「今日のところは、テレポテーションで返す。一週間経って、気が変わらんかったら相談にのる。でも、できるかどうか保障はないし、可能性としては半々ってとこや」
中島がいつもの冷静さを欠いているように見えたので、おせっかいな忠告をした。
「カ。焼け起こさないの。他の魔女でいい娘がおったら、その娘を選んだらいいだけなんやから」
「君は、他の魔法使いを選ぶのか?」
「私は、魔法使いは嫌い」長尾を振り返って続けた。「でも、長尾くんは好き。この人は何も求めない。私を助けるためにここへ来てくれはった。魔法使いの男が逆立ちしてもできんことや」
「そいつも魔法使いだ」
「そういうことにしておく」
中島くんも健気な男ですねえ。




