長尾くんの正体
長尾くんは何者なのでしょう。正体が分かります。
池に着いた私達は、何故か手に料理の皿を持ったままだった。
「しもた。お皿、持ったまま来てしもた」
私が慌てると、長尾がおかしそうにクスクス笑う。
「どうしたん?やっぱり、お皿、返した方がいいやろか?」
長尾が腹を抱えて笑った。
「そんな……笑わんといてぇな」
「いえ、あんまり、あなたが可愛いから」
笑いすぎて、涙を拭いている。
おいおい、涙が出るほど面白かったのか?失礼しちゃう。でも、確かに、電気の魔法とお皿のお持ち帰りは面白かったかもしれない。
ようやく笑いをおさめると、長尾は嬉しそうに言った。
「あなたのことは話には聞いていたのですが、本当に素敵な方で……」
「でも、シズみたいに美人じゃない……」
「シズって?」
「大久保静香。さっきの小西くんの相手に決まった子や。きれいな娘や。初めて見た時、信じられんかった。あんな娘いるんやって……」
「でも、あなたほど、真っ直ぐじゃないみたいですね」
「?」
「静香さんが小西さんを選ぶ。すると、残った中島さんがあなたを選ぶ。中島さんは静香さんのことが好きだから、あなたを選んだとしても、静香さんの影響下にあることになります。他方、小西さんが残った場合、小西さんはあなたのことが好きだから、静香さんの影響力はなくなるでしょう。それを無意識でやっているか、計算してやっているのです」
「シズは、そんな狡い娘やない」
「じゃあ、無意識でやってるんでしょう」
「それに、さっきもトに言うたけど、前に、どっちも選ばんて、言うてあるんや」
「それでも、あなたに中島さんを頼みたかったんでしょう。それで、あなた達がどんなに傷つくか考えもしないで」
「!」
「分かっています。静香さんは美しくて素敵な方だから、二番目扱いされて傷つく者の心なんか知るはずもないのでしょう。でも、あなたは可哀想に。傷だらけになってる」
ささくれた心をそっと撫でるような優しさに癒された。
「長尾くん。どっから来たん?」
「遠いところから。と、言っておきましょう」
「霊力高いのに、どうして虹の色の魔法が使えへんの?」
「分かりますか?あなたは、霊力が見えない魔女だと聞いていたのですが……」
「前は、分からへんかった。でも、この頃、ぼんやりと感じるん」
長尾がニコリと笑った。
「あなたは、どんどん成長してるみたいですね。私にあなたの話をしてくれた者に話したら喜ぶことでしょう」
「はぐらかさへんの。どうして?」
「以前、青の魔法が使えました」
「水やね」
「あなたにお会いするために、知り合いの魔法使いに頼んだのです。時空旅行の魔法をかけて欲しいと。そしたら、代償にと、私の魔力を求められました」
「それで、あんたは、青の魔法を使えなくなったん?」
「ええ。でも、あなたにお会いできました。こうして、親しくお話もできます。本望です」
ゆったりとした話し方が心地よくて、このまま、ずっと長尾の側にいたいと思った。緑池の岸に座って、持ち帰った料理を食べた。そうして、皿だけ返して、長尾の肩に寄り掛かった。
「初めて会うた気がしいひん。どっかで会うてへん?」
「いつも、書道の時間にすれ違っています。あなたが時空を越えた虹の色のクラスへ飛んで行かれる時です。でも、直接お会いするのは初めてです。あなたのことは、以前からお聞きしていましたので、私も初めてのような気がしません」
「あんたの暖かさ、懐かしい感じがする」
「私もです。プラトンの言う半身かもしれません」
「もしかして……あんたの正体が分かったような気がする」
「正体って?」
「口に出したら、あかん。前にも失敗したから。私があんたを必要としていて、あんたがあやしいものでないなら、それで十分や。口に出すと邪魔が入る」
唾を呑み込んで言った。
「私の考えが当たっているなら、私を抱きしめて。あんたに私の話をしてくれた人が、そうしてくれたように」
長尾はゆっくり立ち上がって私を立たせた。そうして、そっとくるむように抱きしめた。
「やっぱり……君だったんだ」
「そうです。お会いしたかった」
「わざわざ……来てくれたんだ」
私は泣いた。長尾の胸の中で。嬉し泣きだった。天は私を見捨てなかった。ありがとう。ありがとう。
男前な長尾くんでした。




