未来の視点:0日目:昼休み
『ご馳走様でした』
「ふ〜、食った食った〜」
勇治君はのけぞりながらお腹をさすっている。
「勇治さん、お下品ですわよ」
「なんだと!?」
「なんですの!?」
「まあ、二人とも落ち着きなさい」
二人の間に割って入る幸恵さん。
「勇治は、この後遅刻の罰請けに行くんでしょ? 無駄なパワー使ってても良いの?」
「やべ! そうだった!」
勇治君は、慌てた様子でお弁当箱を片付けると、
「じゃ、俺、ちょっと行ってくる」
駆け足で教室を出て行った。
「ふう……」
幸恵さんは勇治君を見送ると、ため息をつき、
「葉子も突っかかってばっかりじゃダメだよ」
と、葉子さんを嗜めた。
「でも、あれは……」
「はいはい、いい訳は聞き飽きました」
「葉子も、べつに言い争い分けじゃないんでしょ?」
「……」
弁解の機会を塞がれた葉子さんは、黙って頷いた。
「なら、今言った事、考えておいてね」
「……わかりましたわ」
抑揚の無い声。幸恵さんに言い包められたのが不満なのだろうか?
分からない。でも、葉子さんは目を伏せ、表情を硬くしているように見える。
「じゃ、ま、そういう事で、レクリエーションタイムの準備をしようではないか」
耕一君の一言。
「作戦タイム〜」
その言葉に紗枝ちゃんが続く。
話題が切り替わり、私は胸を撫で下ろす。
雰囲気を変える切欠。ムードメーカーはやっぱり大切だなと感じた。
毎日昼食後に行われるレクリエーションタイム。
食べた後はゆっくり休み、その後に程よく運動すると言う目的で作られた、この学校の行事。内容は、低学年部と我ら高学年部のグループ別対抗戦。
しかし、競技内容については直前まで伏せられている。
その理由は、この競技が直接成績に反映されるという一面を持っているからだ。
でも、私達には秘密兵器がある。それが、
「俺の予想では、今日の競技はリレーだ」
――92%。耕一君の予想的中確立。
耕一君曰く、あらゆる情報、可能性から導き出している必然。との事ですが……。
実は、先生と繋がってるんでは? そんな疑惑もあったりします。
ともかく、これが私たちの秘密兵器。
「は〜い、は〜い! 今日も私が頑張ります〜」
紗枝ちゃんが手を上げる。
「私も頑張らせて頂きますわ」
紗枝ちゃんの発言に続く葉子さん。
もう1人の体力馬鹿……もとい、ストライカーの異名を持つ勇治君の参加が危ぶまれるだけに、この二人には是非頑張ってもらいたい所です。
私は、走るの苦手ですし……。
「今日は勇治が来れるか分からないからな、二人とも頼んだぞ」
「……と、いうか、今朝勇治を売ったのはあんたでしょうが」
軽く突っ込みをいれる幸恵さん。
「ま、あれはあれだ、うん、楽しかったし」
「裏切り者〜」
『……』
「紗枝、その突っ込みは禁句」
「ほら、耕一の魂抜けちゃったし」
紗枝ちゃんの言葉に、呆然と佇む耕一君。
紗枝ちゃんは時々強烈な突込みを入れます。
眩いばかりの笑顔を振りまきながら言う姿には悪意の欠片も感じられなく、小悪魔という言葉がぴったりです。
「耕一君〜戻ってきて〜」
心配そうに耕一君の体を揺らす紗枝ちゃん。
……でも、この様子じゃ暫くはダメみたいです。
『ピンポンパンポーン』
――校内放送を知らせる音楽が鳴った。
「皆、昼の休憩はちゃんと取ったか?」
構内に響き渡る麻衣子先生の声。
「今日のレクリエーションは運動場でやるから、十分以内に校庭へ集まるように! 以上!」
「……だってさ、早く行こう」
幸恵さんはお弁当箱を片付けながら言う。
「耕一君〜早く戻ってきて〜」
ショックで放心状態の耕一君。紗枝ちゃんが揺り動かし続けるも、未だ戻る気配は無い。
「はぁ……。ったく、しょうがないなぁ」
幸恵さんが、面倒くさそうに言う。続いて、
「ん? 耕一、あんな所にゴスロリ少女がいるよ?」
「どこだ、どこだ、どこだ!?」
瞬間。耕一君は葉子さんの言葉に激しい反応を見せた。
……耕一君、お帰りなさい。
耕一君。不良っぽい雄二君とは違って、髪も染めてなければ、服装の乱れも無い。背も高く、眼鏡を掛けている彼は黙っていれば秀才と呼ばれる好青年に見えない事も無い。
でも、耕一君の本当の姿は、ゴスロリマニアの異名を持つ、ちょっとした変体君。
現に『ゴスロリ少女』という単語に、激しい反応を見せている。
「……単純ですわね」
呆れ顔で言う葉子さん。
「やった〜。耕一君が戻ってきた〜」
紗枝ちゃんは両手を掲げ、笑顔を振りまきながら喜んでいる。
「……ゴスロリ美少女は、どこ?」
辺りを見回し、真顔で聞く耕一君。
それに、少女が美少女に変換されてますね。
「そんなのいる訳無いでしょ、さ、行くわよ」
「このロリコ……ん〜ん〜」
「紗枝ダメ!せっかく正気に戻したんだから!」
紗枝ちゃんの発言を、慌てて遮る幸恵さん。
「ん〜!ん〜!」
口を塞がれ、じたばたする紗枝ちゃん。
「……よく分かんないけど、馬鹿やってないでさっさと行こうぜ」
耕一君。あなたがそれを言っちゃいますか?




