未来の視点:0日目:昼食
『キーン、コーン、カーン、コーン』
――時は過ぎ、午前の終業を知らせるチャイムが鳴った。
「よし、お前ら! お待ちかねの昼飯タイムだ」
麻衣子先生は読み途中だった国語の教科書を閉じると、足早に教卓を離れた。
去り際の先生の顔は、とても明るい。音符マークを辺りに撒き散らすかのように鼻歌を歌いながら職員室へと戻っていく。
授業中のキリッとした顔とはまったく別。……もしかしたら、この時間を一番楽しみにしているのは、麻衣子先生ではないだろうか?
……そんな事を考えていると、
「白ちゃん、一緒に食べよう〜」
紗枝ちゃんが、机を運んで私の隣へ寄せてきた。
「白、私もー」
続いて幸恵さん。
「俺らも混ぜろよな」
勇治君に耕一君。いつも通りの男子メンバーも。
みんなで食べる昼食。でも、……うーん、葉子さんが来ない。
私は、少し離れたところにある葉子さんの机を見る。
すると、そこには、自分の席でお弁当の包みを空けている葉子さんの姿があった。
やっぱり、みんなに馴染めていないのだろうか?
転校してきて一ヶ月程度しか経ってない私がこんな事を思うのはおかしい。けど、
「あ、チョット待ってて」
皆に声を掛け、私は葉子さんの所へと向かう。
葉子さんの机に駆け寄った私は、みんなの姿を振り返る。と、
そこにあったのは、箸をつけずに待っているみんなの姿。
これがみんなの気持ちなんだね……。
私は葉子さんに向き直り、私の気持ちを……みんなの気持ちを乗せるように言葉にした。
「葉子さんも、一緒に食べよう」
少しの沈黙。その後――。
「し、仕方がありませんわね。未来さんのお誘いでは断れませんわ」
葉子さんは、大きな声を出した。
葉子さんは振り向かない。でも、みんなに届く大きな声で、しっかりとハイと答えてくれた。
『葉子って不器用だし、素直じゃないんだよね』
少し前に聞いた幸恵さんの一言。その言葉の意味が分かってきた気がした。
……でも、もう少し素直になれば、皆ともっと仲良くなれると思うんだけどな。
だって今日も、包みを開けたままで、お弁当に手をつけてなかったじゃない。
『――頂きます!』
皆揃った所での昼食開始の合図。
やっぱりたくさんの仲間と食べるのは楽しい。
それに、私の目の前には加藤さんから頂いたお弁当があるのだ。
加藤さん、本当にありがとうございます。
私は、白い容器の蓋をそっと開ける。と、
目に飛び込んできたのは、綺麗に盛り付けられた食材達。ホタテや甘エビ等も入っていて、いつも持ってくる私のお弁当とは各が違う。
「うお!お前の今日の弁当すごいじゃんか」
耕一君が私のお弁当を見て目を輝かせる。
「ふーん、どれどれ……」
「あら、ホント。いつもと違うわね」
「豪華〜」
耕一君の一言で皆が私のお弁当に注目する。
「あ、実はこれ、私のじゃないんだ。加藤さんに貰ったの」
「加藤って……。あ、葉子ん家のか?」
「あ、うん、たぶん勇治君の想像してる人……だと思う」
「ふーん……あ、てか、今ので思い出した!」
「葉子!てめぇ、今朝俺を見捨ててっただろ!?」
勇治君は、納得した表情を見せたと思ったら、突然葉子さんに向かって怒り出した。
「あら、何の事ですの?」
勇治君の怒りをサラリと交わす葉子さん。
「車だよ、車!」
「遅刻必至だった俺を横目に走り去って行っただろうが!」
「あ、そういえばそんな事もありましたわね」
「俺はなぁ、去り行くお前を見て切なくなっちまったんだぞ」
「転びましたしね」
「見てたのかよ!?」
「あ、私も見てました」
「……白もかよ……ヒデェよ」
勇治君の怒りは何処へやら。
頭をがっくりと落とし、うな垂れている姿には、同情の心がこみ上げてきます。
……ん? もしかして、止めを刺したのって、私?
「さ、馬鹿はほっといて食事を続けましょう」
葉子さんの一言。
「なんだと!?」
あ、勇治君復活した。
「なんですの!?」
葉子さんが応戦した!?
「△×※〇■?――」
「#●∞×――」
二人の口論が混ざり合ってよく聞き取れない。
「また、始まったな」
「ホント、あの二人を見てると飽きないわね」
「お馬鹿さんが二人〜」
今日の昼食も、賑やかで、本当に楽しいです。




