未来の視点:0日目:遅刻
「おはよう」
私は、先程の失態を隠すよう、明るく振舞い満面の笑みで挨拶をする。が、
「よっ! お前今、扉にめり込んだだろ?」
目の前に現れた少年は、私の失態を暴露した。
クラスにいた全員の視線が私に集まった気がする。
……耕一君。なんで?
なんで知ってるの? なんで言っちゃうの? しかも、そんな大きな声で。
蘇る恥ずかしさ。顔が熱を帯びていく。
「白ちゃん〜お顔が真っ赤だよ〜」
図星。
耕一君に続いたのは、どこか間の抜けたような可愛い声。紗枝ちゃんだ。
そしてその言葉は、火に油を注いだかの如く、私の顔を大火事にした。
「紗枝、いじめちゃダメだよ」
横で見ていた幸恵さんが紗枝ちゃんを制する。
でも、今の言葉も堪えるんですが……。
「皆さん!未来さんがかわいそうですわ」
集まってきた友人達を見て、呆れ顔でいう葉子さん。
私は、恥ずかしさが頂点に達して、半ば自棄になる。こうなったら、弁解しないとやってられません!
恥の上塗りをしないと決めた心はあっさりと吹き飛んでしまった。
「……だって、だって、扉が閉じてるんだもん!」
そう、全てはこの扉が、この扉がいけないの! 扉が閉じてるから!
私は眉を吊り上げ扉を睨む。
「……」
何も反応が無い。突っ込みすら無い。
我に返って周りを見渡すと、皆は黙って『ウンウン』と頷いていた。
「はいはい、早く席に着く!」
聞こえてきたのは、張りのある元気な声。
「ほら、そこ、遅刻扱いにするよ?」
声の持ち主は、間髪入れずに職権を振りかざす。
みんなが、慌てて席に向かう。
中でも、席から遠く離れていた耕一君の表情は、必死の一言。
しかし、麻衣子先生。毎度ながら、生徒を掌握する手腕には脱帽します。
麻衣子先生は、私達高学年部の担任教師。
整えられたショートカットの髪と、清潔感を感じる服装は、まさに聖職者。
長身でスタイルも良く、何より、その明るさと人懐っこい所がみんなから好かれている。
一言で言うと良い先生。
「よーし、チャッチャと出席取るよー! で、誰がいない?」
私は、転向初日、この言葉を聞いて呆気に取られた。
今、麻衣子先生がやろうとしている事は、まさに言葉そのまま。生徒に誰がいないか聞くというもの。
先生曰く、生徒の自主性を尊重した画期的かつ、スピーディーな出席取りとの事。
……うん、早いよね。点呼とか時代遅れと言わんばかりの荒業。
でも、それは……。
「先生、勇治がいません」
声を上げたのは耕一君。
彼は、迷う事無く、仲間の名前を挙げたのだ。
「ほぅ、勇治か……うん、確かにいないな」
先生は周りを見渡す仕草をすると、二回大きく頷いた。
『ガラッ!』
「セーフ!」
と、その時、荒々しく開け放たれた扉の音。続いて、声がした。
振り向くと、そこには勇治君の姿。
たった今、仲間によって名を挙げられてしまった者がそこにいた。
「セーフ、だろ?」
『……』
一瞬の沈黙。先生のジャッジに皆の期待が集まっているようだ。
「……コホン」
「アウトォ!」
一呼吸置き、言い放たれたのは、非情な言葉。
……そう、この出席取りは、時として仲間を売る。
もし、誰も勇治君の名を挙げていなかったら『セーフ』とコールされていたはず。
先生は、生徒の心に忠実なのだ。
それはそうと、右手に拳を作り、高々と掲げながら宣言する先生の姿は、とても凛々しい。
私はこれを見て、麻衣子先生のファンになりました。
「マジかよぉ」
判定を聞き、肩を落とす勇治君。
「お、勇治。今期四回目の遅刻じゃないか」
先生は日誌に目を通し、勇治君の遅刻回数を公表する。
しかも、ものすごく意地悪そうな口調で。
……しかし先生、間違いなく、楽しんでますね。




