第四章 なぜ、株主総会を開くことになったのか その1
第四章 なぜ、株主総会を開くことになったのか。
大統領
大統領の侵略がはじまった。
大統領に支配されたゾンビたちが次なる獲物を求めて幻覚町を闊歩していた。
駅前。噴水のてっぺんによじのぼったアイドルおたく達が最後の抵抗をしていた。彼らは「那珂ちゃん絶対解体させない戦線」と書かれたハチマキを身に付けている。既に恐慌状態で、さきほどからぶつぶつと艦隊のアイドルの名を呟き続けていた。
そんな彼らを囲むようにして50人ばかりのゾンビたちがたむろしていた。大統領に支配された幻覚町の住人たちだ。彼らは焦点を失った目でアイドルおたくたちを見据えている。噴水の近くの奴隷はときおりジャンプしておたくたちを引きずりおろそうとしている。ううう、ううう、といううめき声が50人ほど響きわたる。
ついに力尽きたおたくが一人、噴水からすべり落ちた。ゾンビどもがおたくを取り囲む。悲鳴。涙と鼻水。噴水の上からは仲間の絶叫。そしてゾンビたちが哀れな獲物に襲い掛かる。貪り喰うようにしておたくの顔面に写真をはっていく。ヘッドファンを装着して声をきかせる。きわめつけは鼻に押し付けたハンカチでマーキングも完了。
奴隷たちが動きをとめた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、おたくが立ちあがった。ハチマキをとるとそれをビリビリに破り捨てた。カンカンカンカンと禁じられた機械音を怒鳴る。所詮はボーキサイトでしかないんだと唾を飛ばして狂ったように笑い始めた。
大統領の奴隷が完成した瞬間だった。噴水の上のおたく二人はそれを絶望の眼で見据えるだけだった。彼らの腕に力がなくなる。彼らは仲間と同じ末路をたどった。
大統領の侵略。
それは、「パラノイアな5日間」をしのぐほどに過激な電撃作戦だった。
2年の歳月は大統領をさらに美しく変貌させており、それはすなわち圧倒的な軍事力が強化されたことを意味していた。もとより独裁政治が自明の理である。大統領の気のおもむくままに侵略は進んだ。人々は自我をなくし、彼女の前に咽びなきながら土下座する。おお、大統領、我らが父にして母よ! 幻覚町の住人たちは大統領を神格化し、恐れ、なによりも崇拝した。
大統領の侵略の経路は、まったくのランダムに見えて、そこには計算があった。かつて「パラノイアな5日間」でニートが懐柔と同盟をつのっていた順路と同じように、彼女の征服は進行していった。ゴジラは、東京大空襲でB29が焼夷弾を落としていった順路通りに東京を破壊し尽くした。同じように大統領は、ニートを征服するというメタファーをこめて、愛情たっぷりに支配化を進めていったのだ。
幻覚町に芹沢博士はいない。オキシデン・デストロイヤーもない。ゴジラを倒すのは絶望的とも思われた。
総会屋
「やばいやばい。妹ちゃん、どうやら本気だわ」
ニートが周囲を観察しながら言った。
彼とジャンヌは、小高い山の上にいた。木々が伐採されて広場になっているそこからは、幻覚町の町並みが一望できる。昼間。大統領の侵略が始まったことを知ると、ニートは秘密の下水道をつかって町を移動し、ここまでやってきたのだった。
「うわわ、あいつ通信施設までぶっ壊してやがる。2年前のこと覚えてるんだなあ」
「どういうこと?」
ジャンヌの質問に、頬をかきながらニートが答えた。
「パラノイアな5日間にだなあ、俺様ちんは携帯電話をつかって、奴隷人間にかたっぱしから同盟申し込んだんだよ。電話なら誰にも邪魔されず一人一人と話し合えるからな」
「それが今回できないと」
「SO! いやはや、楽しくなってきたぜ!」
ニヤリと笑ってみせるニート。
ジャンヌはそんな道化を演じる男に対して、親しみをこめて言った。
「それで、これからどうするの?」
「そうさなあ」
「当然、武力行使よね」
「とりあえず、弟ちゃんに金を借りに行こう!」
ジャンヌが軽蔑の表情を浮かべた。
「サイテー」
「けっ。利用できるもんは利用するんだよ。ぜーんぶだ。お前こそ問題あるぞ。そんな自分は綺麗でいたいっていう性根だから魔女裁判にかけられるんだよ。やーい、やーい。まっくろくろすけ出ておいでー!」
「死にたいらしいわね」
ジャンヌが胸を揺らし、ニートが土下座する。
ジャンヌが頭を踏んで、ニートがお礼を言う。
もはや熟練の域に達した夫婦漫才をしてから、ニートたちは雨森宅へと移動を開始した。




