第三章 信仰の代価・哀れな子羊、この章で忍者の秘密が明らかになる その1
第三章 信仰の代価・哀れな子羊、この章で忍者の秘密が明らかになる。
銀行員
雨森はようやく起きあがった。
自宅。すでに太陽は天高くのぼっている。日曜日のぼんやりとした空気の中、雨森は今週の出来事を思い出していた。
学校で殺人未遂事件が起きたものの、それからは何事もなかったかように学校生活が続いた。
本当に平穏そのものだったのだ。学校では殺人未遂事件はなかったことにされ、どういうわけか被害者である生徒は最初から存在しないことになっていた。誰も彼らのことを知らない。誰も彼らとしゃべったことがない。そんな奇妙な状況において、雨森と物忌みは平穏な学生生活を続けた。
変わったことといえば、幻覚放送が不定期放送になったことくらいだろう。毎日毎日なんの役にもたたない情報を垂れ流していた番組は、1日置きになり、現在では3日に一度の放送頻度に変わっていた。同じみのキャスター二人組みもやつれた感じがある。まるで徹夜続きの漫画家みたいに目の下にクマをつけているのが印象的だった。
「どうなっちゃてるんだか」
それは自分の生活にこそあてはまる言葉だと雨森は思う。
廊下をバタバタ走る足音が聞こえてくる。そら、おいでなすったぞと、雨森は布団を頭までかぶって嘘寝をした。
「ちょっと、銀行員さん。いつまで寝てるの!」
物忌みが雨森の部屋に入ってきて、ぷくっとふくれた小悪魔ポーズで言った。ぐーぐーぐー、雨森は寝ている。
「ほら、起きてよ」
彼女は布団をひったくるとポイっと捨ててしまった。抗議の声をあげようとする雨森に対して、物忌みが言った。
「もう! 今日は神父さんのところに行くんでしょ!」
その言葉で雨森は約束を思い出した。
先日、とっつぁんと共に事情聴取をしたあの神父。確か、日曜日にまた教会に来て欲しいと言われていたのだった。
「うわっ。まずいまずい」
基本的に小心者の雨森は、人との約束を破ってはならないという強迫観念に支配されている。
彼は速攻でパジャマを着替えようとして物忌みの存在に気づき、顔を真っ赤にして暴れたあげくにステンと転んだ。
「どーじー」
「ははっ」
「はい、今日の着替え」
「あ、ありがとう」
「はやく来てよね。ご飯の準備はできてるから」
「ちなみにメニューは?」
雨森はここ1週間の地獄の献立を思い出しながら質問した。物忌みは期待に答える女なのでドヤ顔で言った。
「納豆ご飯・納豆焼き・納豆サラダに納豆牛乳だよ!」
「水戸市民じゃないんだから、納豆牛乳はやめてほしい」
「だめだめ。元気つけなきゃダメだよー。今日は戦闘になるかもしれないんだからさ」
「戦闘?」
「そうそう。あのロザリオ、ちょっと気になるんだ」
物忌みが意味不明なのはいつものことなので雨森はそれ以上質問することはしなかった。
今日も今日とて可愛い電波少女に振り回される。なんてすばらしいんだと雨森は思う。断崖絶壁ではあるものの、可愛い女の子に毎朝起こされるなんて夢のよう。これで胸が大きかったら言うことなしなんだけどなあ、はは。
1時間後、雨森は地獄に叩き落とされることになる。
総会屋
ニートの1週間は戦闘につぐ戦闘だった。
相手はもちろん忍者二人である。ニートが町内パトロールをしていると毎日襲撃をかけられた。不意打ちに手裏剣をなげられるのなんて可愛いほうで、昨日なんか消火器とチャッカマンで即席の火炎放射ならぬ火遁の術まで繰り出してきた。
しかし、忍者よりも手に負えないのが同居人であるゴールデン・アバズレである。彼女は忍者が現れるたんびに剣を振り回して猛禽類の笑みを浮かべる困ったちゃんで、ニートもほとほと手を焼いていた。ジャンヌがいなければ忍者との交渉もうまくできていただろうと思う。これじゃあ、どっちが野党総会屋かわかったもんじゃないぜ、とニートは悲嘆にくれたものだった。
それでも、そこはさすがのニート。
敵の目標もおぼろげながら分かってきていた。
どうやら敵さんは人違いしているらしいというのがニートのたてた予測だ。忍者はなにやら盗まれた何かを取り返そうとしているらしい。それが、7度の対戦を経て得た答えだった。
そこまで分かっていれば懐柔と同盟の天才・ニートのこと、すぐさま仲直りできそうなものなのだが、それを邪魔するのがジャンヌもといアバズレである。このままじゃヤバいと思ったニートは対策をとることにした。それは、
「服を買いに行くぞ」
寝床のアパートでの発言。
それに驚いたのは下着姿のジャンヌだった。
「え、なによ突然」
「君にはね、もう少し慎み深さが必要だと思うんだヨ」
「は?」
「毎回毎回、戦闘になるたんびに剣振り回しちゃうのはね、その学校の制服しか服をもってなくてだなあ、女の子らしい格好が足りないからなのだYO」
ジャンヌは制服しかもっていない。
しかも、どけちで有名なゴッドファーザーから支給された制服は一着のみ。だから洗濯中はこうして下着姿で待たなければならないというわけだ。ちなみに、洗濯中、ニートは目隠しをさせられる。今も彼の目元には布切れがまかれていた。
「なによ。めずらしく朝から起きたかと思えば、そんなことだったの?」
「不満かよ」
「まあね」
「言ットクケド、コレハ決定事項ダカラネ!」
「はあ?」
「君のアレが非常にアレなもんだから、アレしたほうがいいってことだよ」
「頭大丈夫?」
ニートは、ちっと舌打ちしてから言った。
「ぶるんぶるんされると巨乳恐怖症としては目障りだから、少しは見られる服で着飾れって意味だよ。こんなのもわからんとはさすがBSEだな。やーいやーい、脳味噌スポンジ女!」
何度目か分からないゴールデン・コンボ(金蹴り)が、目隠しをしているニートに直撃するのは必然だった。
幻覚放送
女「さあ、今日もはじまりました、幻覚放送のお時間です」
オ「さあって、来週のサザエさんは?」
女「黙りましょうね、オカマさん」
オ「ちょっとちょっと、なんでそんなに突っ込みがざんぞいなのよ」
女「疲れてるんですよ。寝不足なんですよ」
オ「なるほど、昨日はお楽しみでしたね」
女「死ね」
オ「マ。そういえば映画なんて最近見てないわね」
女「(無視)今日は町に出没する不思議な少女のニュースを特集したいと思います」
オ「確かに金髪巨乳でモノホンの剣振り回しているアイツは頭おかしいわよね」
女「そいつではありません。思い出させないでください。頭が痛くなるでしょう」
オ「で、アイツっていうのは?」
女「はい。それではVTRどうぞ」
画面が切り替わる。
映し出されたのは幻覚町に存在するJRの駅だった。カメラは背の高い男と小さな少女に焦点をあわせている。そこからゆっくり横にずれていって、虹色の棒の周りをグルグル廻っている男を映し出した。
女「ごらんのように、この二人組が今日紹介する幻覚町の変人さんです。彼・彼女は虹色に光る棒を住民に手渡すと、その周りを廻れと強要します。大変不思議ですね。この少女たちはこの行為を幻覚町のいたるところで繰り返しているようで、」
画面が切り替わる。
大きな教会の敷地内だ。カメラの位置がおかしいことがすぐに分かる。画面の手前には草やら枝やらが映し出されている。ヤブの中から教会を撮っているのだ。画面がアップされることもなくずっと同じアングルなのも変といえば変である。まるで防犯カメラのような映像だった。
教会の前には二人組がいて、そばには教会の神父が立っている。神父は困った顔をしている。しかし聖職者らしい柔和な顔には笑みが絶えない。彼は「分かりました」と観念したように言うと、虹色の棒を受け取り、その周りをグルグル廻りだした。
女「このように教会の神父さんもグルグルの餌食となっているのです。この映像は少々不自然なところがあるかもしれませんが、教会密着24時の取材のために撮られた映像なので、なにも不自然なところはありません」
オ「くーるーしーいー」
女「それでは、今日の幻覚放送はこれまで。また後日お会いしましょう」
オ「ばいばいき~ん」




