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その4



 銀行員


  教会から出てきた雨森たちは、ドアの目の前で仁王立ちしていたとっつぁんに出迎えられた。そのドヤ顔に「ひ」と悲鳴をもらした雨森。悪魔の味方が口を開く。

「あやしいぜ」

 彼は教会のほうを刑事の目つきでにらみつけていた。

「なにが怪しいんですか?」

「さっきの神父だよ」

「なに言ってるんですか、優しそうないい人だったじゃないですか」

「まあ、それはこっちの事情だな」

 ひと息ついて、悪魔の味方が続けた。

「で、おまえらのことなんだが」

 ぎらりとヤクザな視線が雨森に向けられた。

 正確には、雨森のポケットの中。そこを見ながら、とっつぁんがニッコリ笑って言った。

「YO。そのポケットに入っている素敵なもの、ちょっと見せてもらえる?」

「え?」

「いいからいいから。ネ? お願い」

 いかがわしく手をあわせてお願いしてきた。

 雨森は自分のポケットに手をやった。そこには、銀色のブレスレットが入っていた。そういえば、学校で拾ったのをポケットの中に入れていたっけと雨森は思いだす。よく分からないまま、雨森は黙ってブレスレットを渡した。

「ほほお! ふむふむ。いい仕事ですなー」

 とっつぁんは、じっくりとブレスレットを眺め始めた。その顔にはニタリと言わんばかりの胡散臭い笑顔が浮かんでいた。

「あの、」

 物忌みが言った。

「それ、今日の事件に関係あるかもしれないです。血塗れの生徒が落としたものかもしれないので」

「ほお! 本当か!」

「はい」

「よろしい。ならば君らが持ってなさい。というか、もらっちゃいなさい」

「え」

「いいからいいから。警察のおじさんが許すから。それにソレ、けっこう貴重なものなんだよ? 幻覚放送の特殊構成員の証ってやつだ。レアだよレア」

 質問しようとした雨森を制して、とっつぁんが続けた。

「お前の兄上様に伝えといてくれ。やったね、またデートできるねって。じゃ、本官は任務があるのでこれにて失礼します」

 びしっとそこだけは綺麗に敬礼してとっつぁんが去っていった。

 その後ろ姿はまるで明日の遠足を楽しみにする小学生そのものだった。



 総会屋


「なあ、そこの処女」

 下水道を歩きながらニートがジャンヌに対して言った。

 ゴゴゴ。圧倒的な迫力をもってジャンヌが振り向いた。

「ねえアンタ。今なんてった?」

「え? 処女って言ったんだよ、処女って」

「ほほう」

「だってお前、聖処女様なんだろ? ぷぷ、「聖」処女とか笑えるよなー。あ、ヴァージン・ガールのほうがよかったか?」

「チェリーボーイにはお仕置きが足りなかったみたいね」

「あ、そんなことしてるヒマないぜ」

「どういうことよ」

「なんか知らんが、敵みたいだヨン」

 手裏剣がどこからともなく飛んできた。

 暗闇からの一撃。それは、金髪の脚を正確に狙ったものだった。突然の飛び道具にジャンヌは反応できない。「しょうがねえな」とニートはジャンヌの体を抱き寄せて手裏剣を回避した。

「ちょっと、なんなのよ!」

「さあね、手裏剣ってことは忍者じゃねえの?」

 ニートは落ち着いたものだった。

 手裏剣が来た方向から敵の位置を予測。それをもとに下水道を移動して敵の死角に入った。暗闇で見えないが、これで手裏剣の恐怖はなくなったはずだ。

「アンタ、やるわね」

「惚れちゃう?」

「バカ」

「おっと」

 背後からまたしても手裏剣。つまり敵は二人いるということ。さらに言うなら挟撃されたというわけで、これはちとマズい。さてさて、どうするべかとニートが考えていると、ジャンヌがすうっと前に出た。

「童貞にばかり任せておけないわ」

「おいおい、どうする気だよ」

「こうするのよ」

 ニートは目を疑った。

 なんか知らんが、ジャンヌの手には長剣が握られている。西洋の豪勢な装飾がついた剣だ。幻覚? とニートは思うのだが、間違いなく現実だった。ニートは「嘘だと言ってよヴァージン!」と叫んだ。

「    」

 ジャンヌは、西洋の決闘さながら雄叫びを一切放つことなく敵に踊りかかった。

 下水道の暗闇から、どこからともなく飛んでくる手裏剣を華麗にたたき落としていく。まるで踊り子、それほどまでに無駄のない動きだった。一個の芸術品のように、長い肢体を存分に活動しての遊技。その姿は男どもの魂を奪い去ること受け合いで、ニートもその例に漏れず、ぼうっと金髪に見とれた。

 遠距離攻撃が通用しないならば接近戦しかない。敵が二人、暗闇の中から飛びかかってきた。

 ニートの言ったとおり彼らは黒装束の忍者姿だった、手元に光るは二線のクナイ、疾風のごとき速さで忍者二人がジャンヌに襲いかかる、一線、二線、クナイの描く殺人必死の放物線が縦横無尽にはりめぐらされる、4つの刃物を向かいうつのは小回りのきかない金髪の長剣のみ、相性最悪の獲物、だがジャンヌの有能さはくつがえらない、アクロバット、四方八方から襲いかかるクナイを避け、受け、さらには攻撃に転じる、横一線、ハンターハンターで言うならカイトの2番「死神の円舞曲」、リーチをいかした一撃は半径2メートル50センチを血だまりに変えた、距離をとって様子をうかがう忍者二人、猛禽類の笑みを浮かべて剣を肩にかつぐジャンヌもとい天性のサディスシャン、こうなったジャンヌは止められない、青ヒゲだって壁にもならない、あとは殺戮の4秒間後に惨殺死体が出来上がる、ジャンヌあらため殺人快楽者が舌で唇を舐める、忍者二人はじりじりと後退、無駄だ、次の瞬間、ジャンヌの剣がきらめいて、2人の首を切り、

「すとおおおおっぷ!!」

 ニートが割って入る。

 普通ならそれで止まるジャンヌではないのだが、普通ではないニートは金髪の巨乳を揉みしだいのだからさあ大変。ジャンヌは真っ赤になって剣を落とし、ニートは真っ青になった。

 もみもみもみ。

 や、きゃあ、んんッ!

 オエエッ!

 これぞニートの得意技「空気を読まずに場をしらけさせる能力」(シリアス・ブレイカー)である。レベル6にも到達するであろうこの能力は、ありとあらゆる真剣勝負を台無しにし、戦闘行為を一時中断させ、それ以上シリアスになることがバカげているのではないかと強制的に思わせてしまうという恐るべき能力だった。

 例にもれず下水道にはしらけた空気が流れる。忍者二人は呆然とニートの奇行を眺めるだけだ。ニートはまだ揉んでいる。

「ちょっと、なにするのよ!」

「シャアラップ! おまえこそ何する気だったんだ?」

「決まってるでしょ」

「OK OK。おまえには教訓を教えてやろう。歩みよるほうがリスクを負担すべきなんだよ。オーライ?」

 文句を言ってくる金髪を無視してニートが忍者たちに顔を向けた。

「悪かったな。この女、栄養がぜんぶ胸にいっちまって、BSEになっちまったんだよ。ほら、この胸、牛みたいでしょ?」

「・・・・・・・・・・」

「はは、呆れて言葉もでないよなあ。かわいそうだろ、この女の子。これでも純真無垢な聖処女様なんだよ。うん、つまりはヴァージンなの。こんな体で操を通すっていうのは難しかったと思うよ。だからさ、この哀れな女の子に免じてさ、ごめんごメンゴって感じでちょっと名前と住所と携帯番号教えてくれない? ほらほら、お詫びの品を渡すにもさ、個人情報知っとかなきゃいけないじゃん? なんならここで割腹自殺でのお詫びってことにしてもいいけどさ、そっちにも事情があるんだろうし、ことを荒立てたくないじゃん? そんな大事になったら忍者の掟に反しちゃうだろうしさ、お互いのカルマの調節も手間どっちゃうと思うんだよね。そんなわけでここは一つ穏便にさ、お互い手を引くっていうことでどうだろう。あ、もちろん次会ったときには殺し合いのバトルロワイヤルでいいよ。速攻でシリアス・ブレイカーつかうけどさ。はは。そのときまでにはこのホルスタインも調教しとくYO。それに俺たちはもう君たちの味方でもあるんだぜ? ほら、昨日の敵は今日の友っていうじゃない、もう親友かもしれんなあ、だってほら命のやりとりしたんだからさ。あ、ずうずうしかったか、そうだよネ、親友は言い過ぎダネ。仲間仲間。僕らは今日から仲間になったんだYO」

「かえせ」

 女忍者が言った。

「それは、仲間のものだ」

 ニートが返答する間もなく、忍者二人は音もなく姿を消した。

 どこかでオカマ声が「ちょっとどうするのよお!」と叫び、あとは無音になる。ニートはジャンヌの胸を揉むのをやめて、ふう、とため息をついた。

「やれやれ。第一関門はクリアってところか?」

 交渉における第一条件「交渉側は決して黙ってはならない」。第二条件「次の機会のために伏線をはりまくっておく」

 金髪巨乳をダシにつかって、名前の質問、割腹自殺、忍者の掟、カルマの調節、シリアス・ブレイカー、親友・仲間という単語をちりばめることに成功した。あとは野となれ山となれだ。しかし、「かえせ」とはどういうことだろうか。俺とあいつらは初対面のはずなんだが。ニートは忍者が消えていったほうを怪訝そうに見つめた。

「まあいいや。とにかく地上に上がるか。ほれ、ジャンヌさんや、とっとと立てよ」

 ニートが地面にへたれこんだ金髪に言う。

 聖処女は、はあはあと肩で息をし、全身を真っ赤にして、瞳をうるませていた。そんな一歩手前のジャンヌに対してもニートは容赦がなかった。

「ん、なんだよおまえ、顔赤いぞ。どうしたどうした、気持ちよかったんですか? 発情しちゃいましたか、うん?」

 金髪はにっこり笑うと、長剣を手にして、逃げるニートの後を追った。



 大統領


 大統領は幻覚町に帰ってきた。



 ライオン鳥


 いやはや幻覚町というのは不思議な町じゃな。

 役職者が6人も顕現できる町など聞いたこともないわ。いったい全体、この町はどうなっておるのじゃ。あるいは「幻覚」町という名前のせいかのう。すべては幻覚。すべてはパラノイヤ。幻覚と妄想の町・幻覚町。だからこそ、6人の役職者が勢ぞろいすることになったのかもしれん。

 ルールを確認しておこうかのう。

 役職者の能力は幻覚町の中でしか機能せん。

 大統領の殺人的な美貌が人の自我を奪うのはここ幻覚町のみじゃ。ほかの役職者の能力もまたしかり。幻覚町という限られたフィールドで、やつらは戦うことになる。

 せまい地域でぶつかりあえば、混沌が生まれるじゃろう。それこそわしが望むこと。混沌、混沌、それにつきる。すでに銀行員のわしと、大統領のわしが生まれておる。この調子で増殖を続け、この町に真のカオスをもたらそうぞ。

 すべてはパラノイヤ・妄想じゃ。せいぜい奴らにはがんばってもらうことにしよう。


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