その6
銀行員
夜、雨森はキャンプファイヤーの様子をぼんやり眺めていた。
燃やしているのは丸太ではなかった。紙の束だ。ビル五階分くらいまでに積み上げられたソレはよく燃えた。暗闇は払拭され、雨森家があかるく照らし出されていた。火の粉がただよい、キャンプファイヤーの一角がくずれる。それでも雨森は動じなかった。たしかこれって犯罪になるんだよなと、どうでもよさそうに考えただけだった。
「本当によかったの?」
いつの間にか隣に来た物忌みが尋ねた。
「しかたないよ。こんなにいっぱいあったら盗まれちゃうかもだし。もしそうなったら、資金を凍結している意味がなくなっちゃうからね」
「そのことじゃなくてさ」
「え?」
「こんなふうに矢面にたって戦うことにして、本当によかったのかなって」
雨森は少し考えてから言った。
「だから、きみは僕に銀行員の本当の能力を教えてくれなかったのかい」
「本当の能力って?」
「いいんだよ。僕だって、自分の力だけで一つの銀行の資金を凍結できるなんて思ってない。これが銀行員の能力なんでしょ?」
物忌みは黙ってしまった。
彼女は雨森と同じように、ぼんやりとキャンプファイヤーの炎を見上げた。そのまま雨森に視線をやらずに言った。
「行使条件は、銀行員のすべての資産の破棄。それと、顕現した町に銀行員が在職していること。後者は別として、前者の条件はちょっと厳しすぎるよね」
「どうして?」
「だって……」
黙りこむ二人。バチバチと火花が散る音が闇夜に響いた。雨森がキャンプファイヤーを見ながら言った。
「ねえ、手をつなぎたいんだけど」
「どうして?」
「きみのことが好きだから……みたいな?」
「嘘でしょ?」
「嘘じゃない……みたいな?」
「断崖絶壁なのに?」
「関係ない」
物忌みは黙って雨森の手を握った。
二人は紙でつくられた櫓が炎につつまれ、崩れおちるのを見た。火の粉が盛大に飛び散り、花火のように夜空にあがった。
雨森は夢をみていた。
物忌みと手をつないで一緒に歩いている夢だ。まるで恋人どうしみたいだった。雨森は大統領である姉に勝利して、物忌みと結ばれた。でへへ、と雨森は笑う。これからよろしく頼むよ、と彼は言う。しかし、彼女は返事をしない。どうしたんだろう。雨森は物忌みの肩に手をかける。振り向いた彼女は物忌みではなく、殺人鬼の神父だった。
「ひ」
「あ、おとなしくしてくださいね」
暗闇、自分のベットの中、そこで雨森は馬乗りされていた。にこにこした笑顔が頭上にある。神父はロザリオ型のナイフを握っていて、それを雨森の首筋に突きつけていた。ぎらりと暗闇の中で光るナイフに、雨森は恐怖を感じた。
「これから、あなた方を連行します」
神父の背後には、捕らえられた物忌みとジャンヌが並んでいた。
「どういうことですか?」
「株主総会ですよ」
「え?」
「第二回臨時株主総会です」
幻覚放送
女「さて、第二回臨時株主総会のお知らせです」
オ「期日は明日午前6時。日も昇らない朝っぱらだわさ。これ以上待てないって判断ね」
女「議題は取得条項付株式の強制取得に関して。ぶっちゃければ、銀行員の幻覚町住民資格を剥奪することの是非に関してですね。それでは、明日が正念場です。みなさま、はりきって参りましょう」




