その5
銀行員
「幻覚銀行を封鎖しようと思うんだ」
雨森は物忌みにむかって言った。まるで「今日の夜ご飯はカレーにしようと思うんだ」と言うように自然な口調だった。
「封鎖?」
「そう。経済制裁っていうほうが近いかな」
雨森が続けた。
「幻覚銀行に対する資金の流れを封鎖する。ありとあらゆる金融機関に打診して、幻覚銀行とのすべての取引を凍結する。もちろん取引には振り込み業務も含まれる。そうすればあら不思議、幻覚銀行は数字を所有するだけの役立たずになるってわけだ。それがまず第一段階だね」
「ちょっと待ってよ」
物忌みが慌てて言った。
「そんなこと、どうやって実現するの?」
「とうぜん、お金をつかう」
「お金?」
「そう。手段はいくらでもある。ほかの銀行の頭取を買収してもいい。預金を移しかえる見返りとして要求してもいい。とにかく1週間だけで十分なんだ。それで、大統領側の資金は枯渇して、奴隷たちを維持できなくなる」
「でも、幻覚銀行にだって手持ちの現金があるはずじゃない。それで十分まかなえるんじゃない?」
「そう、そこで第二段階だ」
雨森は言った。
「僕の幻覚銀行の預金をすべて現金で引き下ろす。とうぜん、幻覚銀行の手持ち現金だけじゃあ足りない。町中のATMからかき集めても無理だろう。つまり、幻覚町から現金がなくなる。一銭だって残らない。僕が残させない」
雨森は言った。
「流れのない川は衰退する。おなじように、流れのない人間の活動は衰退する」
だから、
「僕が幻覚町の資金の流れを遮断する。姉さんの活動を停滞させる。衰退させる。それで僕らは勝てる」
幻覚放送
教会の映像が映し出される。
そこには、憔悴した奴隷たちの姿があった。顔は土色になり、瞳はぼんやり濁っている。その動きも散漫で、のろいものだった。まるで本物のゾンビになってしまったようだった。
「銀行員の資金凍結によって、大統領陣営は壊滅的な打撃を被りました」
女のナレーションがついた。つづいてオカマの声が響いた。
「精鋭部隊以外の奴隷ちゃんたちの食事は生命活動に最低限必要なものしか配給されていないのよねん。現代日本でまさかの餓死者がでるかもしれなんだわさ」
「それでも、奴隷たちの大統領に対する忠誠心はまったく衰えていません。朝夕の大統領万歳三唱は続いていますし、誰も彼女に対する不満の声をあげていないというのは驚くべきことでしょうね」
映像が変わり、雨森の姿が映し出される。
中学校の卒業アルバムの写真である。画面上の雨森は水色の背景をバックに薄く笑っていた。




