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その4


 商店街のオヤジ


 大統領の奴隷たちはとても訓練されていたので幻覚町を封鎖することは造作もなかった。奴隷たちは幻覚町にたてこもり、見張りや哨戒活動にはげんでいた。根拠地は幻覚教会とその周辺である。公園や学校には奴隷たちが集まり、共同作業にいそしんでいた。

 商店街のオヤジはその自治組織のリーダーとして腕をふるっていた。いちばん手を焼いているのは食事の問題だ。幻覚町にあった食料はすべて食べ尽くし、いまは近隣のスーパーから食料を買い入れている。その費用がバカにならなく、商店街のオヤジは頭をかかえていた。奴隷たちの財産はすべて大統領に献上され、幻覚銀行に一括して預けられている。食費を引き出すのにも彼女の代理人であるライオン鳥の許可が必要だった。預金をおろすために、商店街のオヤジは何度も幻覚銀行に足を運ぶことになった。幻覚町の経済活動の基盤となっていた幻覚銀行は現在、奴隷たちの生活の基盤にもなっているのだった。



 ライオン鳥


 うまくいっています。

 大統領のライオン鳥は静かに笑った。彼女は教会の一角に執務室を設け、業務にいそしんでいた。部屋の窓からは奴隷たちの働く姿が見える。ちょうど夜の食事の準備をしているらしく、大きな鍋の周りには作業にいそしむ男女の姿が見られた。

 ライオン鳥は帳簿に目をやった。大統領の財産をまとめた帳簿である。大統領はこういうことに興味はないらしく、かわりにライオン鳥が作業にあたっていた。さきほども、食費をおろすために幻覚銀行へオヤジをむかわせたばかりだった。ライオン鳥は「るんるん」と鼻歌をうたいながら、食費分の経費を帳簿に記入した。大統領の財産は膨大だった。食費ていどではビクともしない。その資金力を見て、ライオン鳥は優雅に笑った。これだけあれば、銀行員にだって勝てるかもしれない。

 食料は近隣の町からトラックで運ばれて、幻覚町の境界線で引き渡される。こちらから買いに行くことは厳禁だった。役職者の能力は町をでると解除されてしまう。奴隷たちが食料を買いに町から出れば、大統領の支配は解除されてしまうのだ。だからこそ、幻覚町を封鎖し、奴隷たちが町の外に出られないようにしているのである。外からの驚異から身を守るのではなく、内部崩壊を防ぐための防壁。それもこれも、目的を達成するためだった。

「あのう、すみません」

 ノックのあと執務室に入ってきた商店街のオヤジが口を開いた。その顔には困惑した様子が浮かんでいた。

「どうされました」

「ええ、よくわからないんですが……」

 オヤジはポリポリとハゲた頭をかいた。

「どうやら、幻覚銀行で現金を引き下ろせなくなってしまったみたいです。預金の振り込みもできないみたいで……隣町のスーパーから食料を買うことができませんでした」

 


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