その3
幻覚放送
小さな部屋が映し出された。それは部屋全体を上から見下ろす映像だった。部屋の天井の隅にカメラがあることが分かる。アングルはそこで固定されている。1ミリだってカメラは動かない。部屋には3人の人間がいた。中央にはプラスチックの壁ができていて、二人と一人にわけられている。壁の向こう側にはニートととっつぁんがいて、こちら側には大統領が座っていた。気分はどうですか。大統領が尋ねた。絶好調だよ。ニートが返答した。それは何よりです。大統領は笑うと、そのままニートにむかって命令した。では兄さん服を脱ぎなさい。ホワッ。教訓ですよまたボイスレコーダーなんか持たれていたらやっかいですから、てっとり早く裸になってもらいましょう。大統領の言葉に応じるように、とっつぁんがニートの服をはぎとった。いい格好になりましたね兄さん。大統領が言った。やっぱりおまえ俺に恨みがあるんだろ。ニートが言った。違いますよ、この前も言いましたが、愛ですよ愛。で、おまえはこれからどうするノン? ニートの問いかけに大統領が満面の笑みで言った。まずは兄さんを支配しますそのあと弟も支配してそれで終わりです。それからは? 家族仲良く暮らしますこの町にも飽きちゃいましたし外国に行くのもいいかもしれません。ほかの奴隷たちはどうするんだよ。知りません。ニタリ。ニートが笑った。言っておきますけど。大統領が忠告した。この部屋の防犯カメラの映像と音声を期待しているのは無駄ですよ。分かってるさ。ニートは笑ったままだった。
銀行員
雨森宅には雨森と物忌みのほかにジャンヌが滞在していた。
もとは兄の部屋だった場所に彼女はひきこもっていた。ご飯のとき顔をだすだけで、それ以外は部屋にいる。なにをしているんですか? 雨森が尋ねると、彼女はなんでもないように言った。
「祈ってるのよ」
「祈る?」
「そう、あのバカのことを祈ってるの。ただそれだけ」
ジャンヌはシスター姿のままだ。
それがなぜかとてもよく似合っていた。
クラブで踊っているような様子はなりをひそめ、物静かで儚げな雰囲気すらあった。おちつく場所におちついたような自然な様子を雨森は感じた。
「あんたは何してるの?」
ジャンヌが逆に雨森に質問した。
何をしているのか。雨森は少しだけ考えてから言った。
「覚悟をきめているところです」
「へー」
「こういうとき、兄さんだったらすぐにでも行動するんでしょうけど」
「あいつが? 逆でしょ。あのバカはうじうじ悩んだあげくに全部自分が背負い込もうとするだけ。それを悟られないようにって、バカみたいな奇行にはしるのよ、きっと」
雨森は驚いたようにジャンヌのことを見た。兄のことをここまで理解している女性にはじめて会ったからだ。
「あいつは、あんたのこと評価していたわよ」
「金ずるですか?」
「違うって。そうじゃない」
ジャンヌはそれ以上、口にしなかった。
雨森のことをじっと見つめるだけだ。
雨森は困惑する。まったく、なんだって僕みたいなのに期待する人がこんなに多いんだろう。ナメクジより役にたたない僕なのに?
雨森は自嘲し、ため息をついてから、覚悟を決めた。




