第二章 第一次兄姉弟大戦、ライオン鳥・忍者の登場 その1
第二章 第一次兄姉弟大戦、ライオン鳥・忍者の登場
銀行員
雨森は自宅に戻ってからガツンと殴られたような眠気に襲われた。とにかく目を開けていられない。ベットに倒れこむようにして眠りについた雨森は夢を見た。
夢の中には、バス停で会った女の子が現れた。
彼女は何故か巫女服姿。場所は神社の中のようだ。暗闇の中で、雨森と彼女は歩いている。なぜかとても懐かしい気持ちがした。心休まるひと時だった。歩いているうちに彼女は魔法のステッキを取り出して、ちちんぷいぷいと呪文を唱えていた。どうやら周囲に危険が迫っているらしい。雨森にはその危険が何かは分からない。彼に分かるのは彼女の存在だけであり、それ以外のものはぼんやりとかすみ、認識できなかった。「能力に目覚めるんだよ、雨の銀行員さん」。彼女が言った。「一緒に戦ってくれるかな」。真剣そうな彼女の言葉に、彼は「いいよ」と返答した。嬉しそうに笑った彼女が顔を赤くした。「これは儀式だから」。彼女は巫女服を脱いだ。下着は着けていなかった。彼女はそのまま雨森にむかってしだれかかってきた。いい匂いがした。
目覚めた。
自宅のベットの中だ。
隣に女の子が寝ていた。
雨森はさきほどの夢の残滓の中、一度、二度、三度と目頭をマッサージして隣の女の子を見つめてみた。どうにも間違いなく彼女はそこにいて、どうやら幻覚ではない。ふむ、と雨森は考える。んん? と雨森は怪訝に思う。ははっと雨森は笑った。夢の中にいるらしい。頬をつねってみるのだが覚醒する気配はない。頭を強く打ちつけないとダメなのかなと、人間ドラムに最適な堅いものを探し始める。そうこうしているうちにもレベルが上がり、パラノイアは進化の段階へ移行した。おや、女の子の様子が、
「あれ、銀行員さん起きてたの? おはよう!」
寝起きにも拘わらず、元気満タンにあいさつをしたのは昨日の女の子だった。
Bボタンを連打したい思いにかられながらも、雨森はつぶやくしかない。
「なんで?」
「え? 昨日のこと覚えてないの?」
「死刑宣告!」
「あはは、まだ寝ぼけてるんだね」
おかしいんだ、と無邪気に言う少女。
まさかこの年で責任をとらなくちゃいけないのか、と雨森は戦々恐々した。高校生にしてやっちまったのか。まさかの記憶喪失童貞喪失なのか。人間としてそれはマズい。雨森の背中にはイヤな汗がだらだらと流れ続けた。
「とにかくさ」
少女ーーー物忌みが言った。
「わたしら銀行員サイドは、とっとと大統領をとめないと破綻しちゃうんだよね。だから、はやく行動を起こすべきだと思うんだけど」
「なに言ってんの?」
「え? 昨日、約束したじゃない」
ぐわんぐわん。
約束したじゃない。約束したじゃない。約束したじゃない。僕はいったいなにを約束しちゃったのだろうか。雨森は緊張のあまり吐き気がした。というかこれ、マジでどういう状況なんだろう?
「約束ってなに? お金なの? 金だけなら腐るほどあるよ?」
全人類ドン引きの発言をする雨森。
そんな彼に向かって、物忌みは、意図的だったら小悪魔確定の、ぷくっとふくれた怒りの表情で言った。
「大統領だよ大統領! 昨日、協力してくれるっていったじゃない。握手だってしたよね」
まるで「結婚してくれるって言ったよね」と責めているような口調だった。というか、雨森にはそう聞こえた。さすがに許容範囲を越えるダメージを受けた雨森はぷっつんした。
「あれ、どうしたの?」
白目を向いた雨森が倒れて布団に舞い戻る。夢だ、これは夢だと願いながら、彼は気絶した。
総会屋
ニートは布団の中で目覚めた。
太陽はすでに落ち始めていた。時計は16時をまわったところ。ゆったりとした午後のひとときだった。
ぼんやりとした眼で、上半身だけ起こしたニートは、自分の体がやけに重いのを感じた。なぜか鮮明な夢が全身を支配している。金髪巨乳に殴られ、蹴られ、土下座をさせられ、頭を踏まれ、さんざん嘲笑された記憶。そのどれもが鮮やかで、体の痛みとも合致する。しかし、こうして自分は布団の中で目覚めたのだ。つまり、
「なんだ、夢か」
「ところがどっこい、現実です」
「ホワッ」
隣を見ると、そこには下着姿の金髪が立っていた。手を腰にやり、仁王立ちでニートを見下ろしている。見上げる形のニートは、一瞬だけ見とれた後、ふふん、と鼻で笑ってから言った。
「ヘイ。そこの変態露出狂ガール」
「誰が変態だ」
「おまえだよ、おまえ。なんで下着姿なんですかー?」
金髪は「けっ」と吐き捨てると、ニートを見下ろしながら言う。
「どっかの童貞に、服を泥だらけにされちゃったんでねえ。いま乾かしてるのよ」
「へー。ひどいことする奴もいたもんだ」
「ねー。思わず踏みつけたくなっちゃうよねー」
ぐりぐり。
ニートのふとももに生足をのせて、愛情たっぷりに踏んでやる金髪。その顔には猛禽類の笑みが浮かんでいる。
「そんなことより、いつまで寝てるのよ」
「あ、僕、今日休みなんで」
「今日「も」休みなんでしょうが。いいからとっとと布団片づけてちょうだい。掃除できないでしょうが」
「掃除?」
言われて気づいたのだが、どういうわけか部屋がきれいになっている。ティッシュやら缶やらマンガやらで覆われていた床が見える。いつも脱ぎっぱなしだった服が整頓されている。いらなくなったものを投げ捨てておく部屋の隅(樹海)もきれいになって、かわりにゴミ袋が何個もまんぱんになっていた。つまり。
「なんだ、妖精か」
「え? あんた30歳越えてたの?」
「魔法使いにはなれても妖精にはなれねえよ! って、誰が童貞だ?」
人差し指をつきつけられ、ニートはしくしくと泣いた。
「ったく、いいから早く起きなさいよ。ただでさえこの家狭いんだから。掃除しなくちゃ二人も住めないってーの」
当然のように言った金髪巨乳。
ニートは一瞬だけポカンとすると、得心いったという具合に「ふふん」と笑った。
「なんだいなんだい。俺の魅力にめろめろかい」
「なに言ってるの?」
「はやくも同棲希望なんだろう? はは、さすがはおっぱいボインボインなだけはあるぜ」
「ねえ、あんた。頭大丈夫?」
「それ以上なにも言うな。いいぜ、すきなだけここにいればいい。ふふ、俺ってやつは」
鼻をこすって妄想に支配されるニートと、あきれかえる金髪。くわっと目を見開いたニートが高らかに言った。
「ただし、条件がある!」
「なによ、性交渉?」
「は、ははっ、ビッチ。そうじゃねえよ」
「じゃあなによ」
いいか、という前置きのあとで、ニートは真面目な顔をして言った。
「その胸のところでぶらさげてる肉の塊、ちょっととりはずしてくんない? ほら、僕って巨乳恐怖症だからさ」
金髪は無言でニートのことを蹴りあげた。長い脚だからリーチも広い。アゴに直撃して、ニートはそのまま夢の中に突入した。
大統領
自覚的に支配したいと思った最初の人間は幼稚園の先生だった。
小林先生は赴任してきたばかりの20代の男性で、さわやかなスポーツ青年といった感じだった。なんだか笑うときに歯がきらきらしているのがいいと思った。何か困ったことがあるといつも助けてくれた。おままごとにも付き合ってくれた。とてもいいと思った。
だけど、小林先生はみんなにとっても小林先生で、それがとても不満だった。自分だけのものにしたかった。だからそうした。私にはその力があることは生まれる前から分かっていたことだ。
私だけを見て欲しいという気持ちをこめて「膝まづきなさい」と命令した。土下座を強要してその頭を踏んだ。
とても満ち足りた気分になった。足に力を込めるたびにうめく先生のことを愛おしく思った。もっともっと。その気持ちに歯止めはつかなかった。
大統領の支配はこうして始まった。




