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その5


 ライオン鳥


 やられた、とライオン鳥は思った。

 レコーダーから再生された言葉は、大統領陣営にとって致命的すぎた。これだけで奴隷の支配が解除されることはないだろう。しかし、とっかかりを与えてしまった。絶対に貫かれない盾にヒビが入ってしまったのだ。あとはじわじわと、そのヒビに最強の剣をつきたてれば、奴隷たちは解放されてしまう。そのチャンスを見逃すほど、このくされニートは甘くあるまい。

 ライオン鳥はにが虫を咀嚼したような顔になった。これでは混沌はのぞめない。前回と同じ展開で終わってしまっては混沌は生まれないのだ。どうすれば良いのか。彼女はワラをもつかむ思いで、ちらっと横の大統領を見つめた。

「え」

 思わず声が漏れた。

 大統領の表情が意外なものだったからだ。

 彼女はとてもおだやかな顔をしていた。まるで、イタズラ好きの我が子を優しく見守るような表情。大人が子供に向けるような、いま現在のやりとりをすべて手中におさめていることを確信している表情だった。



 総会屋


 どういうことだ?

 ニートは疑問に思った。

 こちらの原子力爆弾ビックブラザーは、理想的な高度で爆発し、大統領陣営におそいかかったはずだ。光と爆風が織りなすE=mc2は、まさに致死的なダメージを妹に与えたはず。なのに、なんでこいつはこんな余裕な表情をしているのか。

「兄さん」

 妹が言った。

 壇上背後に描かれた「救い主」と彼女が重なった。

「ここまでよく頑張りましたね。さすがは兄さんです」

「お、無条件降伏かい? そいつはなによりだな」

「違いますよ兄さん。負けたのは貴方のほうです」

 確信をこめた声。

 大統領の言葉が教会に響く。

「前回、負けたときに思いました」

 彼女は笑顔で続けた。

「兄さんと弟がタッグを組んだなら、わたしに勝ち目はないと」

 だから、

「わたしは最優先で国家権力を支配しました。兄さん、貴方をこのゲームから除外するために」

 バタンッ。

 教会のドアが勢いよく開かれた。



 雨森和樹


 ドアが開かれた。

 静寂の中、ニートを含めた全員が、新たな登場人物を見つめた。

 茶色のコートを着て、ポケットの中に手をつっこんだ初老の男性。彼は後ろにスーツ姿の部下を数人連れていた。顔にはいつものニヤニヤした笑顔はない。真剣そのものといった様子で、眼光するどくニートのことをにらみつけている。コツコツコツ。刑事の足音が教会に響く。なあんだ、そういうことかと、ニートは観念したように宙を仰いだ。教会の天井には万華鏡のようなガラス細工があり、そこにも「救い主」がいた。天使も羽を広げている。地獄の風景は描かれておらず、それがいっそう終末感を演出していた。静かだった。

「雨森和樹だな?」

 刑事が言った。

 ニートは笑った。

 刑事は紙きれをゆっくりとニートに示した。

 細かい字が縦横無尽に記入されている。赤いハンコは血痕のようだ。裁判所という文字は異世界の言葉のようだった。

 ニートは遠足前の小学生のようにウキウキした。顔に満面の笑みを浮かべて、楽しくって仕方ない様子だ。ううッと興奮の声をもらす。彼は言った。

「それってきっと僕の逮捕令状だね。素敵じゃんか! 僕は刑務所に入るんだ」

 素晴らしき哉、人生!

 ニートは叫んで、両手を前に差し出した。

 刑事は黙って手錠をかけた。

 ニヤリと笑みを浮かべたのはニートだけで、刑事のほうはニコリともしない。ふーん、とニートは思う。あ、逮捕されたんだ俺。

「ちょっと待ちなさい!」

 ジャンヌが叫ぶと、剣を取り出してこちらに迫ってくる。スーツ姿の刑事たちが彼女の前に壁をつくった。それでもジャンヌはとまらない。彼女をとめたのはニートの言葉だった。

「ジャンヌさんや、待ちなさいって」

「な、なによ」

 ジャンヌは威勢をそがれて顔をニートのほうへ向けた。

「レインダンス、覚えてるか?」

「は?」

「破壊と再生だよ。ほら、はじめて会ったとき、一緒に踊ったじゃない」

「それが、」

「ちょっくらソレを踊ってくるからよ。おまえは祈っててくれよ」

 ジャンヌは黙った。

 彼女は静かになってニートのことを見つめた。

 上々。やっぱりこいつはいい女だなと思いつつ、ニートは壇上の面々にむかって顔をあげた。

「妹ちゃん、俺の負けだぜ」

「ええ」

「弟ちゃんよ」

 ニートは雨森に視線を向けると、

「あとは任せたぜ」

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