その4
総会屋
おお、怒ってる怒ってる。
ニートは妹の姿を見てほくそ笑む。ここまでモロいと逆に心配になってくる。もはや勝負あり。このままいかせてもらおう。
「ねえ、ねえねえねえ」
ジャンヌがとびきりの笑顔でニートの肩をたたいた。
「なんだよ、シスター。いま、いいところなんだけど?」
「妊娠ってなに?」
「精子が卵子に特効かまして受精卵になった状態」
「そんなこと聞いてないのよ!」
「はいはい。わかったわかった。あとでばっちし特効かましてやるからさ。うん? それで満足でしょ?」
「殺す」
「シャー」
ニートはジャンヌを無視して大統領のほうへと向かい直った。正確には、混沌をのぞむライオン鳥へ視線を向ける。とにかく議論の筋道をつけるべきだ。安価をたてなきゃVIPはクソにしかならん。
「たとえば石ころがあるじゃない? うん、なんの変哲もない石ころ、ほらほら、道ばたにいよく落ちてるアレだよアレ。アスファルトのなりそこないみたいなさ」
ニートはぐるっと周りを見渡す。
誰も話についてこれていないのを見て、ニタリと笑みを浮かべた。
「無私なる人間は善行を無視する`とはよく言ったもんだよね。だってだって、無私っていうことは自分がないってことでしょ? それってつまり自己決定の基準を他人におしつけているわけだ。ぜんぶ他人のためってわけでさ。最初の決定だけで後は自動運転なんだね。臨機応変な自己決定なんてしないわけだ。ところで、善行ってのは人間の所為でさ。そこには自己決定やら選択が必要なわけだよ。洗濯機をまわし始めた後に停止ボタンを押したり電源引き抜いたり洗剤いれたりしないといけないわけだな。それができない石ころさんは善行をつめないし、この教会の建築物だって善行とは無関係なわけだ。そこに愛はあっても善行はない。そう、選択できないからね! 同じように無私なる人間は洗濯機のスイッチを押す選択しかできず、あとは石ころさんと同じ。つまり、愛は実践できても善行を積むことはできないってカラクリなんだな」
「なにが言いたい?」
ライオン鳥がおもわず口をはさんでしまい、直後に「しまった」という顔になる。ニートは邪悪な笑みで、フィッシュ! と叫んだ。主導権は俺のもの。
「いやいや、質問されたら答えないといけないNE。なにが言いたいかって? いやさ、別にたいした話しじゃないんだ。石ころさんの話しは君らには関係ない。だって、妹ちゃんの奴隷さん達は石ころじゃないからね。つまりさ、こうして支配されている状況でも、君らは常に自己決定と選択を繰り返してるというわけだよ。石ころとは違う。愛ではない。自己愛ではあるかもだけどな。kaka、まあそれはおいといて君らはとても愉快に利益を追求している。従属は目的ではなく手段だ。じゃあ、なにが目的なのか?」
「議長、この男の発言は総会になんの関係も、」
「で、目的はさ、ずばり支配されることだよね。それも純度100%で支配されたい。恍惚さを追求したいわけだ。思考停止に陥りたいわけだ。自分だけが支配されたいわけだ。ということはさ、この妹ちゃんが本当に君らを支配するつもりがないなら、奴隷ちゃんたちが妹ちゃんを支持する理由はひとつもないってことになるよな? そしたらもう大統領に従う必要もないっしょ。おれたちの仲間になるしかないっしょ。でだ」
ニートはとっとと勝負を終わりにすべく、原子力爆弾をつかうことにした。
彼はふところからボイスレコーダーをとりだした。その中には、大統領の問題発言が録音されている。
ライオン鳥
まずい。
ライオン鳥は即座に理解した。
あのレコーダーが再生されれば自分たちは負ける。なんとしてもニートを阻止しなければならない。こちらにも秘密兵器がある。それをつかうのは今しかないだろう。
ライオン鳥は覚悟を決めた。パースペクティブに合図をおくった。そして、
「とくと見よ!」
ライオン鳥が言った。
「これこそ日本人の必殺技、約束されし勝利の土下、」
「させるかああッ!!」
ニートが飛んだ。
総会屋
フライング土下座。
それは、ニートのたゆまぬ研鑽によって生み出された必殺技である。助走から空中へダイブする姿は、白鳥に姿を変えた自由の女神のように神々しく、見る者を感動させる。さらに顔面から地面に落ちることによって誠心誠意を命がけで表現することに成功。帝王グループの焼き土下座にも匹敵するこのフライング土下座は、顔面を地面に強打しながら気絶せずに姿勢を保ち続けることで完成する。相手の足下に近ければ近いほど効果は高いとされ、熟練の域にたっしているニートの顔面はライオン鳥の足下間近にある。舌を伸ばせばライオン鳥の足を舐められる位置につけたニートは、幼女に土下座をしたままの格好で、
「やめてください! 土下座するのはやめてください! このとおりです。どうか土下座するのはやめてください!」
と、土下座で頼みこんだ。
周囲はシーンと静まりかえっている。
やばかったとニートは思う。
あと少しフライング土下座が遅ければ、ライオン鳥の土下座が先に完成し、こちらはボイスレコーダーを再生することができなかったはずである。
土下座の前に土下座をする。
究極のカウンターが決まった。幼女はあわあわしてニートの頭をあげさせようと優しい言葉をかけた。ニタリ。ニートは平然と立ち上がると、鼻血をどばどば吹き出しながら言った。
「ぽちっとな」
レコーダーの再生ボタンが押された。
商店街のオヤジ
オヤジは信じられない思いでボイスレコーダーの再生を聞いた。
その声は確かに大統領のものだった。麗しい響き。聞く者の心と体をとろけさせてしまう魅惑の声色。しかし、再生された言葉は、オヤジを冷たく、固いものに変えた。
わたしが支配したいのは兄さんと弟だけなんです。
他の人なんてどうでもいい。ただの手ゴマですよ。
ええ、ですから彼は切り捨てました。
のどの奥から生じた冷たいものは、食道を通って胃へと移動し、さらには小腸と大腸にまで広がった。それは悪寒となって下半身を浸食し、吸収されたソレが頭にまで広がるのは時間の問題だった。オヤジの心に、大統領に対する不信感が生まれていく。




