その6
総会屋
ニートたちが教会に赴くため、雨森宅を出た直後だった。またしても忍者に襲撃された。
手裏剣の山が築かれる。ニートはため息をついて応戦する。ジャンヌは剣をもってキャキャキャ。ニートのシリアス・ブレイカーが炸裂し、ジャンヌは快楽に悶え、忍者の動きがとまった。そして、
「君ら、ちょっと話しがある」
ニートの交渉が始まった。
といっても、今回は事の真相さえ話してしまえばそれで済む話しだった。君らの捜し物を持ってるのは自分たちではないこと。おそらくソレは自分の弟が持っていること。話しを聞いたとたん、忍者の顔がひきつるのをニートは見逃さなかった。
「んんッ、あれあれ~。ということはチミ達、無実の人間をここ1週間追い回してたことになるよね~」
「そうなりますね」
女忍者が答えた。
「いや、俺様ちんはいいんだよ。心が広いからサ。それに、けっこうスリリングで退屈しのぎになったよな。うん、だってマジで命狙ってくるんだもんね。手裏剣とかさ、それ本物っしょ? うけるわ~」
「交換条件はなんですか?」
「話しが早くて助かるぜ」
ニートは腕を組んで「ううむ」と考えるポーズをした。単刀直入が一番と決めたニートはドヤ顔で言った。
「大統領討伐の同盟を組んでもらいたい」
「お断りします」
「ホワッ」
「お断りすると言ったんです」
「説明してちょうだい」
忍者の話しを聞いたニートはこう理解した。
といっても、キリスト教徒がイスラムの教えを理解できないのと同じように、ニートは忍者の言っていることをほとんど理解できなかった。よって、以下は最低限の骨組みである。
忍者曰く、自分たちは中立を尊んでいる。
忍者曰く、中立ではない忍者は忍者ではない。
忍者曰く、幻覚放送もその一貫にすぎない。
忍者曰く、同盟を結べば中立性が損なわれる。
忍者曰く、だから同盟は結べない。
「その代わり」
女忍者が言った。
「今後一切、あなたがたには戦闘をしかけません」
「それだけ~?」
「幻覚放送を通じた情報提供をしましょう。それしかわたしたちにはできません」
決まりだった。
ニートと忍者は握手をすることはなかった。それでいいとニートは思っている。べたべたした付き合いをする相手でもないだろう。距離間を大事にしている人間にはそれなりに付き合わないとな。というわけで、ニートは、協力の見返りに、こう言うだけに留めた。
「これから、弟ちゃんに会いに行こうと思うんだが、君らも来る?」
うなずく忍者二人。
では早速、と教会に向かって歩きだした一向に、ライオン鳥が待ったをかけた。
「ちょっと待つのじゃ」
銀行員
教会に入ってきたのは、忍者二人と兄だった。
兄さんは意図的なニヤニヤ顔を浮かべていた。人生のすべては冗談なのだと言わんばかりの表情だ。注目を集めたいのか、いちいちジェスチャーが大きい。今も逆立ちのまま宙返りした後、両手を上にあげてグリコのポーズをとっている。
兄がおかしいのはいつも通りなので気にしない。そんなことより問題は、兄の隣に寄り添う金髪美人だ。胸が強調された服を着ていて股間むくむく。雨森は資本金の大きい順に会社名を暗唱することによって下半身を静めた。
「雨森くん、サイテー」
物忌みが蔑みの目を向けて言った。
「心を読まないで!」
「いいんだよ別に。大きい人が好きなんだもんね」
「いや、その、ええと」
「胸が小さいわたしだけど、よろしく頼むよ!」
「YOYO。なんの話しだYO」
そこでニートが乱入した。
彼はヘラヘラ笑いながら弟の前に来ると、ぐー、ちょき、ぱー、ハイタッチ、右拳、左拳、もう一度ハイタッチをかまして、兄弟の儀式を完成させた。
「兄さん、久しぶり」
「おうともさ。ところで、この匂いは?」
「さっきまで姉さんがいたんだ」
「ゲゲゲ。ファブリーズはどこだい」
「兄さんったら」
へへっと笑ったニートを見て、雨森はやれやれと肩をすくめた。
兄が姉のことを大好きすぎるのは前々から知っている。弟に頼みごとをするときは常に姉がらみだ。どうせいつものやつだろうと、雨森はふところから小切手を取りだして言い値を書こうとする。それをニートが止めた。
「ちょい待ち」
「いいよいいよ。いつものことじゃん。1億?」
「違うんだって。今回はそれじゃあない」
「え? ナメクジより役に立たないと言われた僕に、」
「銀行員さんったら」
物忌みが雨森の肩をこづいて黙らせた。
「大統領討伐の秘策だよ。このままじゃ負けるからな」
「秘策?」
「おうともさ。それについては、もう一度ライオン鳥ちゃんから話してもらおうかな」
兄がライオン鳥に注目したので、自然と雨森も壇上でふんぞり返っている幼女のことを見つめた。
不機嫌オーラ全開で、舌打ちのビートがジョーズのテーマを奏でている。ひときわ大きな舌打ちが教会に響いた。
雨森は初めて彼女の声を聞いた。
ライオン鳥
総会屋のライオン鳥が言った。
銀行員のライオン鳥が言った。
大統領のライオン鳥が言った。
「幻覚町株主総会を開催するのじゃ」
「総会を開催しろ」
「おそらく、株主総会を開催してくるでしょう」
総会屋
「ちょっと待つのじゃ」
教会に行こうとするニート・ジャンヌ・忍者をライオン鳥が呼び止めた。
今にも教会にむけてダッシュしようとしていたニートは、ライオン鳥に向きなおって言った。
「なんだいなんだい。俺たちこれから、弟ちゃんに金をせびりに行くのだがね」
「それだけじゃダメじゃ」
「ホワッ」
「それだけじゃ大統領には勝てん」
ライオン鳥はそこでジャンヌに目をやった。
「総会屋の媒介者よ。ぬしの役職にも能力があるのじゃろ? 顕現した幻覚町限定で発揮できる人知を超えた能力がの」
急に問われたジャンヌが戸惑いながら言った。
「ええ。あるわ」
「それは?」
「株主総会、または、それに類する集会における敵勢力の弱体化。ならびにーーー」
ジャンヌはどこか恥じるように、
「ーーー役職者の説得能力の向上」
「ほお、旗持ちか。味方を鼓舞する? さすがはジャンヌ・ダルクかのう」
「ふざけないで。だからわたしは、」
「先頭きって戦うことにしたというのか。しかしのう、ぬしに剣は似合わんよ」
「なんですって?」
キバを向いたジャンヌ。
やばいと思ったニートは、ライオン鳥とジャンヌの間に割って入った。そのまま大声で叫んだ。
「ヒイイイハアアアア!!」
「株主総会じゃ」
ライオン鳥がニートを無視して言った。
「幻覚町株主総会を開催するのじゃ」
銀行員
再び現在。
教会の中、雨森はニートが話を切り出すのを聞いた。
「というわけで、株主総会やるのを協力してくれYO」
「どうやって?」
「どうやってだっけ?」
ニートが壇上のライオン鳥に振った。
しかし、彼女は「ちっ」と舌打ちしただけで、それ以上反応を示さない。仕方がないとばかりに、ジャンヌが言った。
「幻覚町を株式会社化するのよ」
「え?」
「できるでしょ? 銀行員のあなたなら」
「いや、でも」
「資本金が大きければ大きいほど、総会屋の能力は強くなるから。そのつもりでよろしく頼むわ」
「ちょっとちょっと」
物忌みがジャンヌの前に立ちはだかった。めずらしく、眉をキリリとたてた怒りの表情だ。
「なにを勝手に話しを進めてるのかな」
「あら、金たかり虫が何か言ってるわね」
「人間拡声器がえらそうに。町を会社化なんて、どれだけ資金が必要かわかってるの? どうせ賄賂とかも全部、銀行員さんに頼むつもりなんでしょ」
ジャンヌが嘲笑して言った。
「それがなにか~?」
「もう一度燃やしてあげようか?」
ジャンヌが剣を取り出す。
物忌みがステッキを手にする。
雨森とニートが、あわあわと慌てた。
「弟よ、俺様ちんも協力するからよ。頼むよ」
雨森はやれやれと肩をすくめた。
そして、優しげに兄のことを見つめる。姉さんのためにここまで労力をかけるのだ。大変なことだなあと思いつつ、雨森は爆弾を落とした。
「兄さんはホント、姉さんが大好なんだね」
ジャンヌが怒りの矛先を物忌みからニートに変えた。
胸をおしつけられニートが悲鳴。それを見て雨森が下半身を押さえる。物忌みに「雨森くん、サイテー」とつぶやかれた。
幻覚放送局
女「さて、二本目に行きましょうか」
オ「そうですね!」
女「幻覚ニュース二本目は、株主総会開催のお知らせです」
画面がテロップに変わる。
幻覚町株主総会。開催日、明日。午後1時から時間無制限。場所、幻覚教会。
大きなポイントで、昭和の香りがする白い文字が画面に表示された。BGMは夏祭りに演奏される幻覚音頭である。画面の向こうの奴隷たちは踊りだしていた。
女「本日、幻覚町は株式会社GENKAKUとして生まれ変わりました」
オ「幻覚町の住人には一人一株が無償譲渡されるんのよね。んでもって、議決要件として全株主の出席が必要という鬼ルールなので、明日の株主総会では、住人全員の参加が必要よ!」
女「議題は幻覚町の未来。議案は大統領支配の是非です。それではみなさん、明日ははりきっていきましょう」
殺人鬼
「あの人」が面会に来てくれた。
もう一度協力しなさいと言ってくれた。
うれしかった。
本当にうれしかった。
わたしは救済された。




