その5
銀行員
「さてと」
雨森が言った。
「裏切ろうか」
「わかってるよ。お兄さんを裏切るんでしょ。このロクデナシ。人間豚。すっとこどっこい」
「物忌みちゃん、ひどい」
「ひどくないよ。このミジンコ。ゾウリムシ。うじむし。人間便所」
物忌みはそっぽを向いている。
彼女は、ライオン鳥という目撃者がいなくなりしだい、すぐさま黒龍を召還して、雨森の骨をバキバキに折ってしまうつもりだった。
「なにを勘違いしてるんだ?」
「ひょ?」
「僕が裏切ろうとしているのは姉さんだよ」
「どういうこと?」
「だから、さっき結んだ姉さんとの同盟を今裏切るの。そうすればあら不思議。兄さんと同盟を結んだまま、殺人鬼さんは警察から解放される」
「いくら大統領相手でも、裏切りはヒドいよ」
「なにを言ってるんだ。裏切ってなんぼの世界でしょうに。それにね、裏切りの代償は金で補えるんだよ。裏切りを手段にできないのはね、金を持ってない人間だけなんだ!」
「雨森くん、サイテー」
なんとでも言えと雨森は思う。
姉さんを本当に救おうとするならこの手段しかないのだ。他人を愛せないままでは、姉はいつまでたっても幸せになれない。こればっかりは金をつかっても解決できない。なら、違う方法で金をつかうまでだと、雨森は決意を新たにした。
「もう、仕方ないんだから」
そんな雨森の思考なんてお見通しだと言わんばかりに物忌みが笑った。
「わたしが力になるよ」
「うん、よろしく頼むよ!」
「断崖絶壁だけどね」
「うん?」
「胸が小さいわたしだけど、よろしく頼むよ!」
「いや、その、ええと」
「胸が小さいわたしだけど、よろしく頼むよ!」
「根にもってるの!?」
別に、と笑う物忌み。その笑顔が怖くて雨森は金を渡そうとする。パースペクティブが言った。
「それで、どうするつもりですかな?」
「なにがですか?」
「あの大統領相手に、どのように戦うのかという事です」
「さあて、見当もつきませんね。姉に勝ったことのある人なんていないわけですし。まあ、だんだんに考えていこうと思ってます。まだ時間はあるでしょう」
「そう悠長なことは言ってられないでしょう。今回に限っていえば彼女は本気ですよ。二年前の反省でしょうかね。全力であなたがたを倒しにきている」
「お金じゃダメですかね?」
「それだけじゃダメでしょう」
ははっと雨森が笑ったのと、教会のドアが開かれたのは同時だった。現れたのは、忍者二人。そして総会屋のニートとジャンヌだった。
幻覚放送
午後6時。
genkaku0600@ninjya.ne.jpのサイト上に動画がアップされた。クリックとともに動画が再生される。
女「今日もはじまりました。幻覚放送のお時間です」
オ「時間でーす」
女「今日はいろいろな事がありましたね」
オ「そうね。どこかのバカが盛大な勘違いをしていたことが明らかになったわね」
女「あれは貴方の責任です。なぜ兄と弟を間違えるのか理解に苦しみます」
オ「まあまあ、いいじゃないの。兄×弟、当然鬼畜攻めで。アリだ!」
女「(無視)というわけで、今日の幻覚ニュースは二本立てです。まずは一本目をご覧ください」
画面が切り替わる。
幻覚町の住宅街、
商店街、
学校。
5人組の集団が周囲を徘徊している映像が流れる。その他に人影はない。商店のすべてにはシャッターが下りている。学業は無論放棄されていた。
国道の映像。
車が走っていない。かわりに町の境界にバリケードが築かれている。幻覚町のすべての境界線には、38度線よりも厳しい見張りがついている模様。
女「このように、本日午後5時13分をもちまして、幻覚町は完全に大統領によって支配されました」
オ「現在、戒厳令なのよね。大統領の奴隷になっていない人間は現在、わたしたちを含めて4名よ。驚きだわさ」
女「外に出た瞬間、ゾンビどもが襲いかかってきます。そんな中でも、報道に熱意を燃やす我らは、突撃取材をしてきました」
画面にはモザイク処理された初老の男性が映った。
トレードマークの茶色のコートで特定は余裕。画面の向こうの奴隷たちは、モザイク意味ねえとWを書き込む。悪魔の味方は、20年苦しんできた便秘が直ったような爽やかな笑顔で、向けられたマイクに言葉を発した。
ーーーはい。わたしがすべて間違っておりました。支配されるのはとても気持ちがよいです。気分るんるんであります。きっと、僕様ちんが刑務所に叩き込んでやった犯罪者どもも、こんなすばらしい気分だったに違いありません。大統領ばんざい! らぶ・らぶ・ふぉーえばー!
女「ブラフとはいえ哀れですね」
オ「何言ってるの?」
女「いえ、なんでもありません。それでは、コマーシャルのあとに幻覚ニュースの二本目です」
CMに大統領が映し出される。
この番組は大統領の提供でお送りします、とテロップが流れる。画面の向こうの奴隷たちは感涙に咽び泣いた。




