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その3


 総会屋


 ニートとジャンヌは下水道を移動していた。

 地上は大統領の奴隷たちがうじゃうじゃしている。雨森宅へ移動するにはこれしか方法がなかった。暗闇の中、懐中電灯を手にニートたちは薄気味悪い下水道を走っていった。

「しかし、まさかアンタの妹が大統領とはね」

 ジャンヌが胸を揺らしながら言う。ニートは彼女のほうを決して振り向かないまま返答した。

「けっ。大統領なんて生ぬるいぜ。あいつは人間卒業した化け物だよ」

「化け物より権力者のほうが怖いでしょうが。でも、2年前ってどうやって勝ったの? 全面戦争になったことすら、わたしたち把握してなかったんだけど」

「「パラノイアな5日間」だからな。全部は妄想かもしれませんよ。つーか、あのときも、もう一人の登場人物がいてだなあ、そいつが全部妄想にしちまった気がするんだけどネン」

 歯切れが悪いニート。

 彼自身も、パラノイアな5日間のことはおぼろげだった。とくに、最後の妹との交換条件については忘却の彼方である。そのことを考えるだけで、ニートは巨乳への恐怖で総毛立つのだった。

 彼・彼女は下水道を移動し、最寄りの改造マンフォールを中継地点として雨森宅へと急いだ。移動は慎重を要した。マンフォールを出た途端、ニートは電柱に隠れることをジャンヌに要求。前方から5人の集団が自転車で走り去ったのを確認して、移動を再開する。

 奴隷化は恐ろしい速度で進行しているらしかった。

 幻覚町の中はさながらゾンビの山である。バイオハザードと違うのは、ゾンビたちは知能がとても発達していて、組織だって動き、大統領に対して絶対の忠誠を誓っているということ。

 囲まれたら終わりである。

 ニートは最適な経路を選択して迅速に移動し、あっという間に雨森宅に到着した。

「ちーす。弟ちゃん、いるかー?」

 ニートが雨森家の呼び鈴をならし、外から問いかける。

 しかし、返事がなかった。いつも几帳面な弟のこと、来客に居留守をつかうなんて今までなかったことで、これは怪しいと思ったニートは、玄関を蹴り破って家の中に進入した。

「ちょっと、なにしてんのアンタ」

「え、極楽愉快に昔の我が家に帰ってきただけだよ。おおい、酒だ酒!」

 バカなことを言いながらもニートの動きに無駄はない。くまなく部屋を確認していく。

 家の中は荒らされていた。台風でもきたみたいに窓ガラスは割られ、本棚は倒れて、椅子がなぜかベットの上にあげられている。食器類は全滅。冷蔵庫は中身を内蔵のようにこぼして沈黙したままだ。テレビは砂嵐の状態で点いている。タンスは中身をぶちまけられたあげくに真っ二つに破壊されていた。どこかから火薬の臭いがした。

「ああ、なーる」

 ニートは口を開いた。

 目の前には見知らぬ男女がいた。寝室のベットに大胆不敵に寝そべって休んでいる。女のほうはニヤニヤと狡猾そうな笑みを浮かべていた。ニートが言った。

「カーニバルの始まりだ、ってか?」



 銀行員


 突然、ガラスが割れる音が響いた。

 地響きと共に兵隊の足音が反響した。数人が土足のまま家の中を走り始める。いきなりの事態に脳がついていけず、大地震の発生かと雨森は怯えた。

「マズい。逃げるよ、銀行員さん」

 物忌みがせっぱ詰まって言った。

「え、どういうこと?」

「大統領の手下だよ。まさか、こんなに早く攻めてくるなんて」

 ぬかったよ、と呟く物忌み。

 今までバカにされていた雨森はここぞとばかりに仕返ししようとしたが、物忌みが手を握ってきたのですべてがどうでもよくなった。

「こっちだよ!」

 魔法少女が雨森の手をとって走りだした。

 足音は1階からで、自分たちは2階の寝室にいる。階段を押さえられたらアウトだ。物忌みは役立たずの銀行員をひきずるように階段を降り始める。最後の3段、ゾンビが待ちかまえていた。

「夜刀の神!」

 物忌みがステッキを振るった。

 ゾンビの頭上から無数のヘビが落下した。さらには黒龍の召還。雨森家で大蛇が暴れまわり、大統領の奴隷たちが奮戦する。家の中はすぐにめちゃくちゃになった。

「はは、リフォームの前の破壊だネ!」

 雨森が兄の口調をマネしてふざけた。

 彼は家がぶっ壊されていくのを現実感なく見つめた。どう見ても一番活躍しているのは困った物忌みちゃんだ。今もタンスを奴隷どもに放り投げたところだった。

 それにしてもきりがなかった。奴隷たちは次々に雨森宅に進入してくる。どうやら家を囲まれているらしい。これでは脱出できそうもない。

「安心せい」

 どこからか声がした。

 驚く雨森をよそに、その声は続けた。

「これから爆破を試みるのでな。そのすきに逃げるのじゃ」

 慇懃無礼な幼女の声だった。

「教会じゃ。殺人鬼の教会に逃げ込め。そこでなら奴らも手出しできまい」

 どっかーん!

 間髪いれずに爆発音が二度続き、大統領の奴隷たちが打ち上げ花火になった

 今度は雨森が物忌みを引っ張って、言われるがまま教会へ急いだ。



 総会屋


「カーニバルの始まりだ、ってか?」

 ニートは目の前の男女二人を観察した。

 一人は傲岸不遜にふんぞりかえっている幼女で、もう一人は背の高い初老の男性だ。ニートの言葉に幼女のほうが返答した。

「kaka! 祭りということなら昨日から開催中であろうが! 遅れてきた男がなにを偉そうに」

「マジかよ! 俺様ちん、出遅れたのか?」

「そうじゃよ。だから今回も一歩遅かったのじゃ」

 よく喋る幼女だった。隣の初老の男は孫を見るような目で幼女を見下ろしている。

 さあってと、とニートは考えた。

 人の家に勝手に居座っているこいつらは何者なんだろう。弟はどうなっていやがるのか。まあでも、妹の次に化け物な弟のこと、いざとなったら札束まきちらしながら逃げるだろう、心配するこたあないよな。ニートはひとまず一呼吸して、相手の出方を待つことにした。そう、こういう場合は最初に動いたほうが負けるのである。ふふっ、クールだぜ俺様ちんってばよ。

「どりゃあああッ!」

 ジャンヌが豪奢な剣をかついで二人組に突進した。

「え」

 ニートが惚けた声をあげた。

 ジャンヌが勢いよく剣をふるおうとする。その前に、パースペクティヴが恐ろしいほど素早く動いた。

 八卦掌。中国拳法である。足の踏み込みは象のように力強く、その力がすべて掌に連動された。直撃したジャンヌの体は冗談のように吹っ飛んでいった。

「なに先走ってるんだよアバズレちゃん!」

 ニートが怒りの声をあげた。

「敵は倒さないと」

「どこの独裁者だよ。ヒットラーか」

「あんなチョビヒゲと一緒にしないで」

「とにかく平和こそ一番だろが。まったく、いきなり暴力とか信じられんよ!」

 ここまですべて演技。

 身内の非を自ら非難することで、相手に糸口をつかまえないのが重要だ。

 ニートはニヤリと笑うと、ライオン鳥に振り向いてから言った。

「おいおい、女の子に暴力とはヒドいんじゃないかね」

「ぬしよ。さきほどまで、」

「シャアラップ。なんですか? うちのお嬢さんは頭がいかれた自称・殺戮者なんでね。ほら、この剣だって偽物なわけだ。ポーズだよポーズ。それなのにそっちは中国拳法で反撃とか、冗談が通じないよネ」

「いやいや、」

「中国拳法とか危ないよね。うん、死んじゃう。こわいなー。おそろしいなー。うちのアバズレちゃんにおっぱいクッションなかったら死んでたよ? やばいでしょ」

「なにが言いたい?」

「切腹して謝罪しろよ」

 真面目な顔したニートが、シリアスな声とともに言った。キンと場が凍った。

「嘘、嘘。冗談だよ」

 とすかさず、けけっと笑ってニートが言った。

「交渉術か? さすが総会屋」

「はったり屋なんでネ。それでお願いがあるんだけど」

「なんじゃ?」

「弟ちゃんがどうなったか、教えてほしい」

 kaka! と笑ったライオン鳥がことのあらましを話してくれた。

 大統領の手下が家の中に進入してきたこと。それをライオン鳥の助けもあって打破したこと。家の惨状の8割は銀行員の媒介者の仕業であり、大統領に非はないこと。

 ライオン鳥の話を聞きながら、ニートはデジャブに襲われていた。なぜか、この幼女・男と前に会った気がしたのだ。しかし、らりぱっぱで記憶力に自信がなかったニートは、そのデジャブを気にしないことにした。ライオン鳥が説明を続けた。

「まあ、あちらもそろそろ教会についている頃じゃろう。銀行員のライオン鳥は無口じゃからのう。どのようなやり取りがされるか分からんが」

「なんで教会が安全だって言い切れるわけ?」

「大統領のライオン鳥が交渉したのじゃよ。教会での暴力活動は自粛しようとな。今後の混沌をのぞむ上では、暴力以外の争いが必須なのでな」

「なるほど! そういうことか!」

 さっぱり分からないときには分かったふりをすることに決めているニートは、うんうんと頷いて見せた。

 なにはともあれ安心だ。弟ちゃんは無事である。よし、とっとと金をせびりにいくかと、ニートは決意を新たにした。

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