その2
銀行員
昼間の雨森家。
雨森と物忌みとの間で話し合いの機会がもたれ、次の事項が確認されることになった。
一、大統領と雨森の姉は同一人物であること。
二、物忌みは由緒正しい神社系列の魔法少女であること。
三、雨森に戦闘能力はないのだから、大統領との直接対決においては物忌みの背中に隠れていること。
「三について異議がある」
「え、天下無敵の役立たず、銀行員さんがいったいなんの異議があるというの?」
「あまり馬鹿にしないでもらいたいね」
「というと」
「ほら、僕って金だけはもってるじゃない」
「銀行員さんなんだから当然だよ」
「札束ビンタを必殺技にすれば僕も役に立つと思うんだよね!」
「病院行こうか?」
雨森はしくしく泣いた。
彼としても姉の暴走を止めたいと思っているのだ。しかし現状はミジンコよりも弱いTHE・ザコ。これではいけないと雨森は思うのだがいかんともしがたい。銀行員に戦闘能力は皆無なのだった。
「まあまあ、銀行員さん、元気だしてよ」
「ミジンコより役に立たない僕が元気になれるわけない」
「銀行員さんには銀行員さんの能力があるじゃん」
「能力って?」
こういうことらしい。
物忌みが言うには、役職者には、それぞれなんらかの能力が付与されるらしいのだ。
役職者が顕現した町限定の能力という制限はあるものの、その能力は人知を超えている。
大統領の能力は支配化能力。殺人鬼の能力は、役職者が切りたいと思った対象にダメージを与える能力。ラインオン鳥の能力は不明。そして銀行員の能力とは、
「ええと、確か頭取さんは、川の流れがどうとか言ってたんだけど」
「なにそれ。水攻めでもするの? 毛利攻め?」
「くわしいことは分からないよ。でも、銀行員の能力はそれだけじゃなくてね」
物忌みは、ふふんともったいぶった。
「なんと、媒介者の力をUPする能力があるのだ。媒介者っていうのは私のことだね。この能力は、もってる資金力に応じて、」
「ちょっと待って」
雨森は抗議の声をあげた。
「そういう援護系の能力者って、女の子じゃないとダメだと思うんだ」
「なんで?」
「ほら、RPG系のゲームとかだと回復系は女の子の役割じゃん。アイリスとかエリーゼとかさ。男に援護されても嬉しくないと思うんだよね。映像的に気持ち悪いよ」
「女装しなよ」
「そういうことじゃない!」
だだをこねる雨森だったが、ない袖は振れない。
というわけで援護系能力者・雨森の誕生だった。物忌みにかっこいいところを見せたかった雨森はふて寝をして、やる気なし男に変貌した。そんな雨森を、物忌みは「しょうがないなー」とばかりに見つめるだけだった。
殺人鬼
殺人鬼の頭はモヤがかかったみたいにボンヤリしていた。
自分がどこにいるのかも分からない。とにかく自分は座っている。見知らぬ場所だ。輪郭のボヤけた人形が自分の周りを囲んでいる。あたりは薄暗く、机の上のスタンドが太陽みたいにまぶしくて、わずらわしかった。
「ほれほれ、起きなさいネ」
いつの間にか殺人鬼は机に突っ伏していた。体からは力が抜けている。ひどく眠かった。だけれど寝かせてもらえない。スタンドの明かりが顔に向けられる。目を閉じることは隣の男によって許されない。目の中に浸食してくる光が痛い。一瞬だけ意識が覚醒する。同じ質問が鼓膜に響いた。
「おまえは■■■■に命じられて殺人未遂を起こした。そうだろ?」
恐れおおい。
その名前を口にだしてはいけない。殺人鬼は体を震わせて首を横に降る。
「ねえねえ、黙ってたら分からないでしょ」
机がドンドン叩かれる。
殴られたときからずっと鼓膜がキーンとなっていて、モノクロ映画を見ているような気分だった。
「君が首を縦にふったら、とっても楽になれるだけどね。正義のためにさ。こんな緊急事態なんだから。ねえ、緊急事態なんだからさ。分かるでしょ?」
言葉がだんだんとコボれていく。
瞼が落ちていく。
「ああ、眠たいの。でもダメだ。なんといっても緊急事態なんだ。仕方ないよ。こっちも全力だよ。ありとあらゆる手段をつかわせてもらう。任意捜査の違法はさ、こっちとしても甘受する覚悟ができてるわけだね。3日間さ、君を寝かせないでおくことだってできる。緊急事態だからね。早急に解決しないと被害が拡大してしまうんだよ。ずっと寝ないで捜査に協力するのが国民の義務だよね。もちろん弁護人と会うことはできるよ。でも、君はそんな卑怯な手はつかわないよな」
何を言っているのか分からない。
傷が残らない暴力。
甘ったるい優しい言葉。
あの人の名前。
殺人鬼は信仰心故に黙秘を貫いた。




