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アナリー・ルチアータ 挨拶をする

 アナリーが挨拶をします。

 それだけです。

 過度な期待はしないでください。

 真っ暗だ。何も見えない。まぶたの上あたりが酷く痛む。かさぶたが剥がれる感じがすると同時に皮膚がもがれる感覚。

 「……っ!?」

 痛覚を刺激する亀裂に眉をしかめずにはいられず、口唇が感情を表すように曲がり、体をよじらせた。

 「あ…………よかった」

 ピアノのオクターブ和音を奏でたように混ざりけがなく、透きとおった声が耳朶に歩いてくる。初めて聞く少女の声に驚きつつも視界はいまだ黒く、盲人になってしまったのかという最悪の結末が冷えた汗を押し出そうとしていた。

 「動かないでください。いま包帯取りますね?」

 少女は、血のりで皮膚に張り付いた包帯を、濡れ布巾と思われるものでふやかしながら優しく、ていねいに剥ぎとってくれた。

 ストロボをたかれたような刺激光が黒目を針のごとく刺し、次の瞬間には少女のためにあつらえられた光の束を思わせる黄金の髪が飛び込んできた。

 僕の顔をじっと見つめ、顔を近づけて注意深く覗きこんでいる。長く、ゆるいウェーブがかった髪の先が僕の喉元に触れたり、離れたりしてくすぐったい。

 右手の人差し指だけをひょこっと立たせ、じっとこちらを見てくる。

 「……?」

 次に中指も立たせてピースサインをした時に、それがどういう意味でどういう答えが欲しいのかがわかった。

 「あ、ああ。二本……二本だよ。見えてる、見えてるよ。……なんとかね」

 彼女はうっすらと笑みを浮かべ、僕を覗きこむ必要がなくなったと判断したのか、体を起こした。

 そこで初めて気づいた。というか気づかないほうがおかしい。いや、気づかなくてもしようがなかったかもしれない。この視界では……。

 「アナリー・ルチアータ!?」

 波のない水面に釣り糸を垂れるように自然に、さり気なく言葉がでた。

 アナリーは冬眠から覚めた小動物のようにひょこっと肩を揺らし、後ろに数歩下がった。そして、しげしげと僕の姿を見つめながら、眉尻を下げ、ふくよかなふくらみの谷間近くで手をすり揉んでいる。

 「市場のお客さん……ですか? まぁ、とにかく! はじめまして、アナリー・ルチアータです。ケガが治るまではごゆっくりどうぞ」

 彼女がベッドの頭の側にあった洗面器をゆっくりと持ち上げると、ちゃぷんと水音を立てた。水しぶきが僕の頬にかかったのを見つけると「ごめんなさい」と自分の薄桃色の服のそでで拭ってくれた。器用にくるっと踵を返し、足首まであるスカートがふわりと翻る。数歩先の洗面台へと歩いて行った。

 【次回】

 アナリーが洗面器を洗います。

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