取り立て屋
取り立て屋と娘のはなし。
四十を過ぎた男の土下座ほどみっともないものは無い。只ひたすら地面に額を押し付けて懇願しているのだから。
「駄目だ!約束は守る。そう親から教わらなかったのか?」
「ですから、後一ヶ月。必ずお金を用意します。」
その程度の男か…。こんなゴミ溜めのような部屋まで来て土下座見せられて…面白く無い!
「顔を上げな。」
男のホッとしたような顔に唾を吐きかけると仕事を再開した。
「今日はお前の娘を利子代わりに貰って行く!」
娘の手を乱暴に引っ張るとフラフラっと俺の懐にスッポリ入り込む。
男は娘を連れて行かないでくれと懇願するが右腹を蹴飛ばすことで黙らせた。
「約束通り来月また来てやるよ!」
娘を連れて外に向かう俺の後ろから、鬼だの悪魔だの罵声が聞こえるが…もう慣れっこだ!借りたものを返せないのが悪い。
取り立て屋には色々な決まりがあるが拐った娘に仕事を斡旋するのも俺達の仕事だ。昔は下賤なんて仕事もあったみたいだが今もあるかは俺が知らないだけかもしれない。
こんな汚ない娘も磨けばそれなりになるだろう。
泡に沈めるのは遅い早いの違いだ。まずは、風呂と飯だな。
仕事終わりはいつも詰まらない。
そんな仕事をしている俺の寝床に探偵と名乗る男がやって来た。
年は20代前半だろうか?若さと熱意だけで業界に入ったそんな奴だ。
「んで、俺に何のようだ?」
煙草に火をつけると煙を若造目掛けて吐き出す。
男は眉一つ動かさずに名刺を目の前に置いた。中々肝が据わってる、いい眼をしている。
名刺に視線を落とす。『私立探偵 森 箱根』。
「もう一度聞く。何の用だ?」
「この前連れ去った娘の安否確認とこれ迄の娘達の居場所を教えて欲しい。」
こいつはただの馬鹿なのか?
「聞いてどうする?あんたが借金を建て替えるなら話すがな?」
馬鹿を相手にしてる暇なんか無い!
「これでも探偵なんで一通り調べさせて貰ったけど、どういう訳か拐った娘の足取りだけが掴めない。」
「だからどうした?」
「だから、直接聞きに来た。」
「なら、聞いてどうする?」
探偵は書類を出すとテーブルに置く。
どうやら本当に娘の足取りだけ聞きたいみたいだ。
「そこに書いてある通り。近所からよく女性の泣き声が聞こえる。嫌がる子供を車に乗せている。等々の調査結果が出でいる。」
「借金で首が回らない奴が親なら家庭はどうなる?」
「それは、家族がまとまってかんばるんじゃ無いですか?」
「お子さまランチな考えだな、ろくに飯も喰えない、学校にも行けない!生きる知恵も無いで家族ごっこ出来るわけ無いだろ?」
「しかし、義務教育なら給食がありますよね?」
「つくづくハッピーセットな頭してるな?学校にも居場所何か在るもんか!ピラニアの池に怪我した鹿を投げ込むようなものだ!」
「なら何故子供を車に無理やり乗せるんですか?」
「それは養護施設の車だ。泣いて嫌がるのは俺と離れたくないって駄々を捏ねるからだ。」春夏冬の休みはここに泊まってく癖に。
「え?、なら口論するのは?」
「娘達からこんな仕事辞めて結婚して欲しいと…」
俺は娘としか見てないんだが、娘達口を揃えて嫁さんに成りたいと言って聴かない。
「えっ?なら連れ去った娘は?」
「知らねぇよ!時々手紙が来る。」
手紙をテーブルに乗せる。
探偵は暫し、手紙を読むと。
「娘を拐ってどうするつもりだったんですか?」
「仲間から娘は金になると言われたから、拐ってみたものの、あっと言う間に部屋は娘だらけに」
「??」
探偵も驚いてるな。
「これ以上は無理と思い、西へ東へ仕事しながら娘達の仕事を探したり。養護施設に連絡したり。結婚相手を探したりしたんだ。」
娘が金になるってあれはデマだな!養育費が掛かりすぎる。
「娘さんの言う通りこの仕事向かないから辞めましょう。」
探偵はそう言い残して帰っていった。
ご利用は計画的に。