全てを破壊し、全てを女の子に変える力を俺は手に入れた
俺は願う、目の前にいるひょろ長い神とやらに最強の力を願う。
本来なら俺はこんなところにいる弾じゃねぇ。もっと高みを目指して拳を握らなくてはならないのだ。
しかし前世というか、先ほどまで鍛錬を重ねていたはずの俺は運命のいたずらによって命を落とした。
だがそれは神がうっかり寿命を見間違えて、死亡の判決を下したのが原因である。
だからこうして俺は強気となり、神に最強を願う。
前世では成しえなかった最強、それをこうも簡単に手に入れられるならば死んでもいい。
というかまあ事実死んでるのだが、これから俺は最強を得て他の世界で生きることとなるらしい。
なんでもいいさ、俺が最強であるなら何でも。手段は選ばない、俺は強さだけを求む。
やがて俺の体が青白く輝き、力がわいてくるのを感じた。
これならどんな敵をも殴り倒せる。
そんな気がヒシヒシと感じやがる。早くこの力を試してみたい。
『それではグッドラック。見たこともない異世界が君を待っているぞ』
親指を上げ、ニッコリ笑う神様。
どうでもいいが、歯並びすげぇ綺麗だ。ホントどうでもいいが。
次の瞬間には俺は草むらにいた。風が頬を掠め、短めの髪を揺らす。
どうやら本当に異世界とやらに来たみたいだ。
力も無くしてはいない、衣服は死ぬ前に着ていた学ランか。十分なこった。
異世界といえば豚の化け物や小人の野郎がうようよいるって小説好きな舎弟から話で聞いている。
なら手始めにそいつらを皆殺しにしてやんぜ。俺の最強をとくと味わえ、化け物どもめ。
「おっとあんなところに手ごろな獲物発見。」
草をかき分け前に進むと、オークとかいう豚の化け物の姿が目に入る。
人の数倍はあろう巨体に、妊婦のように腹が膨れて動きにくそうだ。
だが侮るなかれ、あの豚は途轍もない力を秘めている。当たれば一瞬でひき肉にされてしまうだろう。
まあでも如何やらこちらに気づいてねぇみたいだし、当たらなければどうということはない。サックリ殺っちゃいましょうかね。
俺は生前の鍛錬で鍛えた俊足で一気に加速し、相手に防御態勢を取らせることもないまま拳は見事奴の脇腹を貫く。
辺りには血肉が飛び散り、力加減を間違えたのかオークは爆発して周りは白煙に覆われる。
「おいおい手ごたえすらねぇぞ。そんなんで大丈夫かよお前ら」
余りの手ごたえのなさに呆れ返る俺。
だがまあ仕方ねぇ、俺は最強になったんだ。お前らが弱かったわけじゃねぇ俺が強すぎたんだ。
「…ん?それにしても嫌な予感がするのは気のせいかよおい」
俺の勘は結構当たる。
敵のアジトぶっ潰した時も勘を頼りに行けば何とかたどり着いたし、相手の攻撃も見えねえ時は勘で避ければかすりもしねぇ。
だからこそこの勘の鋭さは俺の最強の武器ともいえるが、それが今は警鐘を鳴らしやがる。
どういうことだ、別に下手したわけじゃねぇはずなんだが。
訳も分からぬまま白煙が晴れる、目を凝らすとそこあったのはオークの死体なんかじゃなく一人の可愛らしい女の子。
光になびく銀光の髪が眩しく、褐色の肌に朱色の頬がいじらしい。
女の子は俺に気づき、突進してくる。俺は避けようとしたが反応が遅れてまともに抱きつかれることとなった。
腹部をすりすり頭をこすりつける。
小さな妹がいる俺にとって、甘えてくるその姿は見慣れたもんで仕方ねぇから頭を撫でてやった。
でも強さの加減なんて分かんねぇから髪が乱れてボサボサだ。しかし女の子は嬉しそうに口を緩めた。
「おいおいこりぁどうなってやがんだい。オークぶち抜いたら女の子になるとか、異世界とはここまで不思議で満ち溢れてやがんのか」
『いやいや、それは僕からのサービスってやつだよ君。』
頭の中で声がしやがった。
この声は先程まで聞いてた神の声にそっくりというか、本人だろうなこの嫌味たらしい言い方はよ。
なんだなんだ、解説でも知れくれんのかい。そりゃあそうだろうがね、この訳分かんねぇ事態を早く説明しやがれってんだ神様。
『そんなに怒るなよ、モテないよ君。』
大きなお世話じゃ、いいからさっさと話しやがれこの嫌味もやし神。
『おうおう辛辣、では少しだけ説明を。
君の力は全てを破壊できる最強の力だ。とても強力で、殴れば最後相手は塵一つ残りはしないだろう。
でもそんなの面白いかい?面白くないよね。だから君の最強に少し手を加えさせてもらったよ題して『惚れ人化拳』』
…内容としてはこうだ。
俺が殴ると破壊した物は生き物無機質自然現象に限らず必ず女人に生まれ変わり、しかも初期状態から俺に惚れている状態になると。
これで俺が女子共を囲んでハーレムを作れると、そういうことらしい。
ふざけんなと俺は思った。俺が欲しかったのは全てを破壊する力であって女じゃねぇ。
今の俺に興味があることは最強の二文字。それ以外に意味なんてねぇのに。
『ぶーぶーいいじゃないいいじゃない。異世界に行ったらハーレム作りたい!なんて輩ごまんといるんだ。それを体現する君は正しく最強だと思うがね』
はん、女なんてうざいだけなのに周りにはべらせようなんて考えねぇよ。
寧ろ人質にされたりしたら面倒くせぇだけだろうが。
なんてもん授けてくれたんだよこの嫌味ドスケベもやし神。
『ふふーんそんなこと言ったって、返却はできませんからねー?精々その力を有効に使って、頑張って最強にでもなんでもなればいいさ。じゃあねぇ~』
あっおいこのまま逃げるつもりかよ。
せめてこいつだけでもなんとかしてく、れってもういやしねぇぞあいつ。
これからどうするか、このまま突っ立ていたって何も始まらんわな。
少々難があるみたいだが間違いなくこの拳は最強であるはずだから、多少のリスクぐらい負ってやるか。
「…おい何してる。先に行くぞ」
「え、うぅ待ってくださいご主人様。私を置いて行ったら嫌ですよぅ」
旅は道連れ世は情け。
多少の枷も更なる最強には必要不可欠か。
俺は歩き出す、最強目指してこの広い世界を旅する。
そこであらゆる敵をこの拳で打ちのめす。そしてこの世界に最強の名を刻むのだ。
「一杯女の子作ったらいやですよ?私だけのご主人様でいてください。」
「…うるせー指図するなクソオークが」
これからの旅路が前途多難であることは、この力がある限り間違いないであろう。
今から出てくる数々の女子を思いをはせながら、一人俺はため息をついた。
※この後目茶苦茶無視した。(オーク娘を)