情状酌量
「私は涸沢探偵事務所の涸沢というものです。涸沢探偵長とお呼びください」
「ああ、その、カラサワさんがいったい
「涸沢探偵長だ。」
「…。失礼。涸沢探偵長がいったい何の用で私に?」
こいつ、探偵だと?ますます怪しい…。
この変人は少しばかりじっとしていたが、やがてやや早口に語り始めた。
「瀬尾正人40歳。職業ジャーナリストで妻の名は時子。
子供はもたぬが夫婦仲はそれほど良好ではなく、旦那様はついぞ浮気遊びというわけか?」
私は顔が紅潮していくのを感じた。
「なんだお前!無礼だぞ!」
即座に目の前に何かを差し出してきた。
…写真……?
「お前じゃない。涸沢探偵長だ。
貴方の奥方様から依頼を受けた。証拠写真もこの通り。プロとしての責任を無視して忠告に来たんだ多少の無礼はご愛嬌願おうか。ジャーナリスト瀬尾氏」
どうやら、大変な事になっていたみたいだ。
私は昔から、冒険には向いていないみたいだ…。
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「ようこそ探偵事務所へ。」
「君1人か?助手や秘書は…」
「そんなものはいないよ。」
殺風景な部屋だが、事務所としては広さも申し分ないし良い立地だ。
しかしこの男、なにが目的なんだ…。
「かわいそうに…。」
「え?」
私は突然のことに間の抜けた声を出してしまった。
「仕事を真面目にこなし決して遅いとは言わせない出世スピード。給料は…少し奥様が疑いをもったからと探偵に依頼できるほどの額面。
たった1度の浮気をつつかれるのはあんまりではないか…。」
「いや、家内も家のことをよくやってくれるんでね、私も文句のいえた立場ではな
「せんべい片手にワイドショーみる暇があるならその休憩時間の10分でも分けてくれとは思いませんか子供もいないというのに!」
「そうなんだ!そのとおりだ!!」
「瀬尾家のシステムは間違っている!」
「ああ間違っているとも!こんなのはおかしい!挙句これからたんまり慰謝料を払わされるんだろう?くそっ、納得がいかん!
こんなに頑張ってきたのに…」
「そんなことにはさせませんよ、ジャーナリスト瀬尾氏。
私はあなたを守りましょう。あなたは気高い人だ…。」
なんと、この胡散臭い男はあったばかりの私に情状酌量の余地を与えてくれるというのだ。
まさに聖人君子だ。なんと輝かしい。
「ありがとう…、ほんとうに、ありがとう」.
私は…年甲斐もなく泣いてしまった……。
この男は…この方だけは、私の苦労を分かってくださったのだ…。
「気にすることはありませんよ。
なにかあったらここへ連絡してください。
例えば特殊で素敵な事件の情報など。」
「…え?」
「情報。横流ししてもらいたいんですよ。あなたの連絡先はわかってますし、写真はこちらです。
ちなみにこの浮気の相手方は結婚していますね。それもこれは相当悪い筋だ。風俗嬢によある話ですな。」
「ええ…。」
この男、まさか…。
「よろしく。瀬尾助手。期待しているよ。」




