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2章

吐き気が込み上げてきて外に駆け出し一気に吐き出すと口の中に不快な味が広がり唾液が垂れていく。



「ハァハァ……オ!! エェエエエエ」



歩いてる時に食べた保存用の肉や酒も全て吐き何度も嗚咽を漏らす。心配したシゼルが背中をさすってくれるが吐きながらソウジは顔を背けていく。



「お爺ちゃん大丈夫」



お爺ちゃんという言葉がまさかそのままの意味だとは思わなかった。息子が魔王ならその娘は孫という意味になる。鉄という苗字は珍しい、まだ確信はないが嫌な予感だけはいつも当たる。



「おいシゼル。伝える事がある」



口を拭いながらシゼルを見つめると不思議そうな顔をしている。孫という可能性があると急に愛おしくなる無責任な感情だと思いながら言う。



「テツは俺の息子だ」



「へ、何いってるのこのお爺ちゃんは」



当然の反応だった。ボケた老人にしか見えないだろうと思うがソウジは黙って見つめる。



「だってお父さん50代だよ。どう計算したって合わないでしょ」



「ちょい待ってろ」



荷重が詰まれている馬まで戻ると誘導員の制服を引っ張りだしポケットの中から一枚の写真をとりだす。そこには若い頃のソウジと小さな男の子が元気よく遊んでいる姿があった。それを突き出すとシゼルの顔が変わっていく。



「……小さすぎてわからない、確かに父さんの面影はあるけど、てかもし本当ならお爺ちゃんなの」



シゼルもいきなり現れた老人に戸惑いどんな顔をしていいかわからなく顔を伏せていく。ソウジも同じで何を言っていいかわからないが一度大きく息を吐きシゼルの頭に手を乗せる。



「悪い忘れていいぞ。結局本当かどうかわからない限り余計な事言うんじゃなかったな」



「あぁ~そうだね!! 急に話す話題じゃないしね、とりあえずこの話は保留って事ね」



どこか誤魔化す用に二人は戻っていく。真実を確かめるのがソウジは怖かった。もし息子が本当にいるならどの顔下げて会っていいかわからない。ろくな父親ではなかった事は確かだった。


結局気まずいままその日はキャッスルロックに泊まり世が明けると傭兵団は再び動き出す。ソウジも変わらず荷物持ちの徒歩で背中に大量の槍を背負い肉体を痛めつけていく。



「ヒャハハハ!! 爺さん今からどこに行くかわかるかぁ」



常にアルコールを飲みながら喋るニックが絡んでくると派手に吐いた憂鬱が残っているソウジは歪んだ顔を上げる。



「今からある城を落としにいくのよ!! 狙うは篭城している王様だ!! いろんな傭兵達が集まり早い物勝ちってわけよ」



そこで二日酔いにも似た気持ち悪さが吹き飛ぶ。走り出し先頭までいくと馬上のシゼルに今聞いた事をそのまま伝えると当たり前のように頷き剣と盾を渡されてしまう。甲冑も渡されるが着け方なんてわからない。



「おい!! いきなり戦えってのかよ!!」



「あのねお爺ちゃん、私達傭兵やってんだよ。人殺すのが仕事なんだよ、一応言っとくけど自分の身は自力で何とかしてね」



それは死刑宣告にも等しかった。剣と盾なんて生まれて初めて持つ。これから篭城を決め込んでる敵と戦えと言われた……歩きながらソウジは絶望した。昨日まで孫が出来たかもと内心喜んでいたのが嘘のようだ。



「はーい皆さん見えてきましたよ」



シゼルの指が示した先は巨大な壁に囲まれていた城がだった。壁の近くでは何百という人間が蟻のように群がり戦っている。遠くから見てるだけで足がすくみ恐怖でソウジは固まっていく。



「ここには正規の兵士はいません。賞金目当てで集まってきた傭兵達だらけなんで連携も何もありません。一応私達は一つの塊になって突撃して一気に城門まで途中で脱落した人は置いていきます」



シゼルの顔付きが変わり引き締まり傭兵達を率いるボスに変わって行く。傭兵達も武器を抜き各々覚悟を決めた顔になる中ニックだけが瓶を片手に鼻歌を歌っていた。



「おい爺さん乗れや!! 徒歩じゃまず生き残れないんだから乗せてやるよ」



酒臭いニックの後ろに乗り背中に盾を背負い剣を片手に……広がるは人だらけの荒地。進めば進むほどに死体が増えソウジは生きた心地がしない。



「あぁ俺も魔法つきの武器ほしいわぁ」



「魔法、またファンタジーな用語だな」



「昔はそこら辺に転がってるほどあったんだが魔王が魔法つきの武器を破壊したり独占したらしく今じゃ貴重なのよ。俺ら傭兵はただの鉄の塊の武器だけだからなぁ~あぁ~欲しい欲しいぃいいいい」



命を預ける相棒がこの様子だと生き残れそうにないと肩を震わす。馬上で一歩一歩確実に戦地へ向かう中で血液が逆流し鼓動が何倍にも速く感じ始めていく。もしテツが本当の子供ならこんな事を経験したのかと思う、


息子はこんな道を歩き魔王になったのかと思う。自分の息子とは思えないほどの残虐さと度胸かと思い。いくら待っても決まらない覚悟を持ちながら剣を握る。



「さぁいくぜ爺さん。ほれ先頭は走り出したぞ」



シゼルの馬が勢いよく走りだすと続き巨大な槍のように傭兵団は動き出す。熱気や鎧が擦れる音がし耳が痛い。着け方もわからず適当に着込んだ甲冑が激しく揺れ出す。



「ウハハハハ!! どんどんいけぇえええ」



酔っ払いのニックは薬物でもやってるかのようにトリップしながら剣を掲げ加速していく。仲間達をどんどん追い抜き先頭へ近づく。砂煙を上げながら傭兵団は稼ぎ場所へ向かう。


傭兵達の餌の奪い合いがソウジの初陣だった。




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