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一日で治ると言われた怪我に三日もかかり寝ながら自分がいかに年老いたかを実感し起き上がると一人の男が木製のコップに瓶を傾けアルコールを飲んでいた、テント内は酒臭く男は上機嫌で何杯も飲み続け顔を赤くしながら鼻歌まで歌い始める。



「お!! 起きた、ねぇ起きたんですかぁ!!」



話す前から面倒な酔っ払いだと思い絡みたくはなかったがいつまでも寝てるわけにはいかない。



「オイラはニック!! 酒食らいのニックだ!! 48歳にして嫁も子供もいなく生涯酒を愛してきた荒くれ者よギャハハハハ」



48歳にしては言動も子供もぽくいい大人には見えない。微かに残る体の痛みに耐えながら立ち上がり軽く動かす。上半身裸で皮のズボンだけだが寝汗をかいたので調度よかった。



「ボスゥウウウウ!! ボスゥウウ~爺さん起きましたぜぇええギャッハハ」



千鳥足になりながらテントから出て行くと今度はゴツイ大男が迎えにくる。強面で威圧感が詰まった空気をぶつけてくる。



「出ろ」



無駄な事を言わず手招きの最低限の動作をされソウジは三日ぶりにテント内を出ると日の光に目を細め見る。



「やぁやぁ無駄飯くらいのお爺さん」



そこには傭兵達が集まりソウジとシゼルと円状に囲んでいた。中には酒が入ってる者も少なく、祭りでも始まるのかと思っているとシゼルが大きく腕を伸ばし始める。


甲冑姿だと気付かなかったが皮で出来たタンクトップだとシゼルの肉体が際立つ。太く引き締まった腕と豊満の胸の下には割れた腹筋。首も太く、何より見える部位全て傷がある。


槍で貫かれた傷、剣で斬られた傷、火傷跡までありその全てが褐色肌のせいで目立つ外見だけで強さが滲み出ていた。



「素手で戦えるって言ったよねお爺さん。なら私と戦ってもらうね、もちろん条件は同じ素手同士」



対するソウジの肉体を見て傭兵達が騒ぎ出す。老人とは思えないほど筋肉は切れて引き締まり腕の太さならシゼルより太い。太く分厚く重そうな肉体だった。



「その体見る限り嘘は言ってないよだね。それにしても嬉しいよ!! 素手で戦える奴は珍しいんだ」



「教える奴いないのか?」



「まぁね。そもそも素手で戦う事を広めたのは魔王だし、準備はいい?」



シゼルの構えはオルガとまったく同じだった両手を挙げて利きを顎の下に軸足を後ろにし肩幅より若干広く足を開き顎を引く。踵を浮かせてる姿はボクシングの構えにしか見えない。



「試験だよお爺さん。私が納得いく戦闘力を見せてくれたら入団を許可します。駄目なら即蹴飛ばして捨てるから本気できて」



ソウジは腰を落とし両手を開き低く構えた。二人の構えは対照的だったはオルガのおかげで一度体験した戦い方に頭の中で戦術が組みやすい。傭兵達が騒ぎ出し歓声と汚い野次を飛ばす中二人は近づいていく。



「初めて見る構えだね」



ソウジは心の中で言う「もう少し近づけ」と。ボクサー相手ならやる事は一つ、腰に組み付く事。それだけでパンチは手打ちになり何より倒してしまえば無力化できるはずと我慢する。


後二歩、後たったの一歩……ソウジの足の導火線に火がつき爆発寸前になりシゼルが最後の一歩を踏み出すと一気に爆破させ低空で襲い掛かる。



「シャア!!」



気合の一声で飛び出す。ボクシングは腰より下は打ってはいけないルールがある以上そこにさえ飛び込んでしまえば安全圏だと思った矢先に打たれてしまう。


上から大きく打ち下ろしの右が後頭部に叩き込まれ意識が途切れる寸前で顔を上げた瞬間に下から膝が突き刺すように上がってきた。寸前で両手をクロスさせカバーするが大きく仰け反り後退してしまう



「凄いタックルだねお爺さん」



楽しげに笑うシゼルを見てソウジは凍りつく。腰から下をフルスイングで振り抜き迷いなく膝へのコンビネーションへ繋ぐ動きはボクシングではない。基本はスタイルはボクシングだが何かが混ざっている。



「シゼル、その戦い方どーやって学んだ」



「ん~まぁ戦場を渡り歩いてたら自然と身についたよ」



そこでソウジは敗北の予感を感じる。実戦で鍛えた技術と知識と日々の筋トレでしかない技術では違いすぎる。



「ふぅ~」



大きく息を吸い吐き頭を落ち着かせ再び構えたソウジは考える。組み合いたいが今の攻防で懐が遠く、純粋な腕力でも負けている事に気付く。当たり前だが女だからといって舐めていた部分もある。



「まだまだいくよ!!」



考える暇もなくシゼルのパンチが槍のように長く正確に飛んでくる。即座に両腕でガードするが重い。オルガほどではないが何発も耐えれる重さではない。上手く体重を乗せ回転も速く隙が見当たらない。



「いでででえ!! 糞ったれが!!」



ガードの隙間から笑顔で好き放題叩くシゼルを見て思う。確かにいいパンチだが狙う箇所が正確すぎて軌道が読める、ならばとガードを解きソウジも前に出る。


前に出た途端に顔面への一撃が迫ってきている。速く目では確認できないが軌道を勘で読み頬をに滑らせと同時に鍛えられた腹筋の横の脇腹へ拳を突き刺す。



「あ……が」



体がくの字に曲がった瞬間ソウジは全身をゴムのように捻りバネのように伸ばしショートアッパーでシゼルの顔を跳ね上げる。知識で知ってた動きと日々のトレーニングで鍛えた筋肉の威力を全て出した一撃で勝負に出る。



「ボスゥウウウ!!」



アル中のニックが叫ぶ中とどめの一撃は打撃ではない。腰を落とし今度こそとタックルで足を掴もうと飛び出した瞬間に足が離れていく。何事かと思うと上から重さを感じ見上げるとシゼルがソウジの背中に乗り潰してきた。



「やるねぇお爺さん。今の連携には驚いたよ」



タックルを上から潰されたソウジには何も出来ない。怪力に封じられ耐えていると目の前に膝が現れる。ソウジを抑えた状態で大きく片足を上げて膝を隙間に滑り込ませ強力な一撃を放つシゼル。


防ぐ術はなく腕でガードするが威力は十分、鈍い音と共にソウジの体は飛ぶ。砂の地面を転がり倒れてしまう。



「はぁはぁ」



シゼルにもダメージは与えたと気合を入れて立ち上がると気付く。肩が上下し息が苦しい。それは歳をとれば誰にでも訪れる現象……体力切れ。この時ばかりは老体を怨んだ。


時間がない、残った全てを使い打ち合うしかない。歩く事すら苦痛に感じながら飛び出し二人の拳が交差していく。



「面白い!! 面白いよお爺さん!!」



憎たらしく笑うシゼルのパンチを避けると同時に拳を突き出すと……なぜかソウジの顔が跳ねている。タイミングを間違ったかと思い再びカウンターを合わせると問題が起こる。


シゼルはソウジの拳の予備動作に合わせて攻撃を繰り出していた。ソウジの拳が出る前に先をとり常に先手をとり一方的に殴る。それは天性の当て勘でしか出来ない芸当。



「糞ったれ……体で負けるならまだしも……才能も負けてるってのかよ」



そこから先は一方的にに殴られ意識を断ち切られるまで時間はかからなかった。ソウジが挑んだ相手は紛れもなく天才の類だった。




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